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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
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結-3.秘める者、静観する者

 足早にヒナタの傍を離れた朔は、真っ直ぐキッチンへ入り、ため息と共に手で顔を覆う。


「ない。あれはないですって……」


 謎の独り言をぶつぶつ呟いていると、食卓の間から扉が開く音がして、そのままキッチンに誰かがやって来た。

 若干の焦りを表情にだした朔が振り向くと、入り口には目を細めて、何か言いたげな雰囲気の煌が立っていた。


「こ、煌……はぁ、貴方でしたか……」

「ヒナタじゃなくて良かったな」

「!?」


 煌の言葉に、朔の時間が止まったかのように、ピタリと動きが固まる。


「磁力ってなんだよ……聞いた事ねぇーし。言い訳すんにも、もうちょいマシなの選べよな」

「…………い、居たんですか」

「……………………おー」


 朔が固まった表情のまま聞くと、煌は眉を寄せて気まずそうに答えた。


「た、たまたまだからな!? 今、蛍があんなだし、朔は病み上がりだしで、様子を見に行ったら遭遇しちまった的な感じだから! 丁度、二人が空を見上げた所からだし、気にすんな?」

「最初からしっかりと見て、聞かれてるじゃないですかっ……あぁ、もう、穴があったら入りたいですよ……」


 ズルズルと床にしゃがみ込んで膝を抱える朔に、煌は呆れ顔をしながら近付き肩をつつく。


「つーか朔、そんな暇ないんじゃないか? その顔、いい加減何とかしないとヒナタが来るぜ? んな真っ赤な顔じゃ、さすがにバレる」

「………………」

「………………」

「え?」

「“え?”じゃねーよ! 何だよその鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって……さすがに気付くだろ! 蛍より分かりやすいなんて、意外過ぎて俺がビックリだ!」


 朔はしゃがんだまま、絶望感溢れる雰囲気をかもし出し、両手で頭を抱える。


「そんな……一番鈍感な煌が――――」

「おい……」


 煌は眉間に皺を寄せながらも、チラリと扉を気にすると、朔の腕を掴んで勢いよく立たせた。


「言わねぇよ! ……誰に遠慮してんのか知らねーけど、今はヒナタに伝える気はないんだろ? 表向きは昴にも隠してるみたいだし」

「……抜け駆けはしない主義ですので」

「ん? ……蛍じゃなくてか?」

「貴方に対してもです。これから何があるか分かりませんし、全員当てはまる可能性はありますよ」


 朔の言葉に煌は怪訝な表情をし、落ち着きなくズボンのポケットに両手を入れると、プイッと顔を逸らした。


「俺は、別に何とも思ってねぇーし」

「今は、それほどではないでしょうね。しかし煌、蕾がつけば時間はそれぞれでも、いつか花は開きます」

「はぁ? 何だそりゃ……」

「――――それに、彼女と一番近い状況なのは貴方ですから、先程の言葉……いつか後悔する日が来るかもしれませんよ」


 煌はますます分からなくなったようで、髪をワシャワシャ掻き回していたが、突然ピタリと動きを止め、扉を勢いよく振り返る。


「来たな。……よく分かんねぇけど、俺は蕾どころか種さえ植えてないから心配ねぇよ! それよか、ヒナタにバレたくないなら、朔は自分の心配しろよな!」


 そう言うと、煌はひょいと足取り軽くキッチンを後にすると、丁度開いた扉からヒナタと入れ代わるようにして出ていく。

 “部屋に居るから、夕飯出来たら呼んでくれ”という煌の声が聞こた後、ヒナタがキッチンに入ってきた。


「朔さん?」

「種はとっくの昔に植えられて、若葉が芽吹いてるんですけどね」

「種……? ……煌君と何かありましたか?」


 首を傾げるヒナタに、朔はやんわりした表情を向ける。


「――――いえ、煌に少々手伝って頂きました。お蔭様で元通りです」

「そうなんですか? じゃあ、今からは私が煌君に負けないくらいお手伝いしますね!」


 右手を胸の前で握り締め、張り切るヒナタに、朔は“充分負けてないですよ”と笑った。




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