↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
61/133

結-2.七分咲き

 わずかにうかぶ額の汗を拭い、ヒナタは満足な表情で椿の木を見上げる。


 うん、とっても綺麗になったし、椿さんも気持ちよく過ごせるよね。

 これからは定期的に掃除しないと……すぐに落ち葉でいっぱいになっちゃうし。


 回りを囲む木々を眺めた後、チラリとのぞく空を見る。

 いつもの黄昏が少し暗い。

 それもそのはずで、蛍が封印を解いた時は、端が暗い夜空に染まり始め、朔の封印が解けた今は一気に広がり、見える範囲の半分が夜空に変わってしまっていたのだ。

 夜空、といっても星は見えず、黒い空間がそこにあるだけである。


「……空が、黒い」

「そうですね」

「!?」


 突然の声に、ヒナタは慌てて後ろを振り向く。

 そこには、眼鏡のズレを軽く直しながらにこやかに笑う朔がいた。


「さ、朔さん……ビックリしました。まだ無理はしない方が……」

「確かに普通の体になりましたが、ご心配にはおよびませんよ。それに、ヒナタさんばかりに負担をかけられません。逆に心労が溜まります」

「……分かりました……でも、何かあったら遠慮せず言ってくださいね」


 ヒナタのしぶしぶ納得した表情に、朔はほんのり笑い頷くと、そのままヒナタの隣に移動して空を見上げた。


「空がこうなったのは、私に責任があります。経緯はどうあれ、命を賭けてまで守っていた封印を、破壊した事に違いはありませんから」


 その言葉に、ヒナタは力強く手を握り締めて首を振る。


「いいえ、それこそ違います! 朔さんは私を助ける為に生きる道を選んでくれました」

「……ヒナタさん、それは――――」

「私は、今目の前に朔さんがいてくれて良かったって……凄く嬉しいんです!」


 朔が何かを言う前に、ヒナタは普段とは違う必死さで詰め寄り、距離がかなり近くなった所で、朔が慌て始める。


「あの、ヒナタさん? 落ち着いて――――」

「――――っ怖かったんです!」

「!」


 ヒナタは瞳に涙をうかべ、肩を震わせた。

 それは落ち着かせる為、肩に手を置いた朔にも伝わり、心配そうな表情でヒナタの様子を窺う。


「……目が覚めた後、倒れていた朔さんを見て、守れなかったと思いました……死んでしまったと。やっぱり、私の手は届かなかったって……」


 朔さんを抱き締められたのは、強い願望から生まれた幻覚だったのかと思った。

 背筋が冷たく凍り、目の前が真っ暗になっていったあの感覚を二度と味わいたくない。


「優しい朔さんが死ぬのは、見たくありません」

「……そんなに嫌ですか」

「はい」

「……泣くほどに辛いんですか?」


 朔はそっと指先で、ヒナタの目尻に溜まった涙を掬い上げる。

 その行動にヒナタは、はにかんだ笑みをうかべた。


「あの、安堵と喜びの涙という事で――――っ!?」


 ヒナタが言い終わらないうちに腕を引かれ、朔の腕の中にすっぽりと包まれる。

 驚いて腕をパタパタ動かすが、抱き締める力が強くなり、ますます体は密着していった。


「え、あの、朔さん?」

「ヒナタさん、抱き締めてもよろしいですか?」

「……もう、抱き締めてますけど――――」

「それもそうですね。申し訳ありません……女性に許可なく触れるなど御法度ですので、“もう少しこのままでいい”と、言っていただけますか?」


 謝りながらも放す気はないみたい……。

 でも、こうしてると二人とも生きてるって一番実感できる。

 安心感で許可とか関係なくなっちゃうよ。


 ヒナタは朔の背中に手を回し、自分からも抱き締める。


「もう少し、このままでいたいです」

「!」


 あ、朔さん“ビクッ”ってなった……。

 何も話さないし……え、どうすれば?


 背中に回した手から少し力を抜くと、朔の静かな声が響く。


「ヒナタさん、大変な事が起きました」

「どうしました? まさか、傷が痛むとか――――」


 慌てて離れようとするが、相変わらず朔の力がゆるむ事はない。


「離れられません」

「えっ!?」

「磁力が発生して離れられません」

「……………………」


 朔さんがおかしな事言ってる……え、真面目に答えた方がいい?

 それとも話を合わせた方がいい!?

 どっち!?


 ヒナタが暫く悩んでいると、朔はゆっくり体を放し、くるりと後ろを向いてしまった。


「……失礼致しました。冗談です。私は先に戻って夕飯の準備をしますので、5分……いえ、10分経ったら手伝いに来て下さい」

「え、あの、一緒に行けます――――」

「いえ! 10分後でお願いします!」

「さ、朔さん!?」


 ヒナタの呼び掛けに振り向く事なく、朔は足早に去って行ってしまった。

 その場には唖然とした表情のヒナタだけが取り残される。


「な、なんだったんだろう……」


 その疑問に誰も答える者はおらず、カラスの鳴き声が聞こえてくるだけであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。