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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
序章・黄昏の番人
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3話.輝かしき世界

久しぶりに執筆致しました。

 ゆっくり降りていってるけど……どうしよう?


 悩んでいると、視界に切り立った崖が見えた。


 とりあえず、地面に足を付けたいし、あそこに降りてみようかな。


 ふわりと地面に降り立つと、とたんに重力を感じた。

 風に漂うのもよかったけど、地面を踏みしめ安心感がわく。


 落ち着いて切り立った崖から景色を眺める――森、森、森。


「森しかないよ……ここどこだろう?」


 辺りを見回しても景色は変わらず、緑豊かな木々が夕日に照らされていた。


 森で迷子になった時は、あまり動かない方がよかったんだっけ?

 とりあえず夕暮れならもうじき夜になるし、あまり動かないようにして夜を明かそう。


 近場に手頃な石を見つけて座り、ぼーっと景色を眺め続けていた。


 何故だろう……知らない場所なのに落ち着く。

 もしかしたら、毎日夢で見た景色に似ているから、違和感がないのかも。


 そして思う。

 見渡す限り緑豊かな大地に、町があるようには見えない。

 一度も訪れた事が無いどころか、人が集まっている場所が見当たらない。

 ここは普通ではない場所……つまり、神隠しにあったのだろうと……。


 どうすれば帰れるんだろう?

 家で皆が待ってるのに――。 


 ――と、その時だった。

 音も無く、滑るように人が横を通り過ぎた。


 えっ……ええっ!? 人!? 後ろの森の中を通って来たはずなのに、音が全然しなかったよ!?


 ヒナタは驚きながらもその人物から目が離せなくなった。

 背は高めで、スラッとしている。

 黄金色の髪はサラサラと揺れて、夕日の景色に違和感無く存在していた。

 その姿は、全体的に儚い感じがしており、“微かにその場に存在している”そんな感じであった。


 黄金の人物は現在進行形で、歩く音も無く、すーっと崖の端に移動していった。


 ま、まさか……幽霊……? 

 “馬鹿でしょ”

 ……何故か一瞬、槐君の声が聞こえた気がした。

 幻聴にしても酷すぎるよ槐君! それに……


「私、そこまで馬鹿じゃ――」

「こんにちは」

「!?」


 一気に現実に戻って来た。

 何故なら、目の前に崖の端に居たはずの人物がいて、石の上に座っているヒナタを見下ろして立っていたからだ。

 顔は逆行に照らされて見ずらいが、どうやら男の人のようだ。

 口元は優しげに微笑んでいる。


 ――ただ、その目は……笑っていない。

 琥珀色の冷たい瞳が妖しげに光る。


「こんにちは」


 冷たい笑顔を張り付けたまま、口元だけが動く。


「あ、の……」

「こんにちは」

「こ、んにちは……?」

「こんにちは」

「えっ?」

「こんにちは」

「……」

「こんにちは」


 壊れた機械のように、巻き戻し再生をループするように、繰り返し繰り返し一言を言い続ける。


 リアルにホラーだよ! 実は人形とか……


「……」

「?」


 突然ピタリと挨拶を止めた人物は、森の中をじっと見つめたまま、動かなくなった。

 相変わらず、笑顔は張り付いている。


 ゆっくり彼と同じ方に視線を向けると、何やらガサガサと木々をかき分ける音がしてきた。


 だんだん近付いて来てる?

 そっと立ち上がり、すぐに動ける体勢をととのえる。


 音はどんどん大きくなり、近場の茂みが大きく揺れた。


「!」


 視界に赤色のツンツンヘアーが映る。


 ……男の人だ。

 この森の世界で二人目だ。

 槐君を入れたら三人目だけど……そういえば、背の高さや外見的に槐君と同じくらいの年齢みたいだな~。


 と、思っていたらある事に気付く。


 この赤髪の人、眉間に皺がよっているし、目はぱっちりしているけど、つり上がっている……。

 つまり、怒っている! とてつもなく。


ほたるてめぇ……やっぱりここに居たのかよ!」

「……」


 ドスのきいた声で話し出した赤髪だったが、もう一人はひたすらにこやかに微笑んで、びくともしない。


 笑顔の人は蛍という名前らしい。


「今日は全員、睡蓮すいれんの野郎に呼ばれてただろーが! 聞いてただろ!?」

「うん」

「“うん”……じゃねぇよ! 分かってんならなんでここに居んだよ!」


 あっ、笑顔の人から“こんにちは”以外の言葉を初めて聞いた。

 さっきは一方的な会話になっていた気がするけど、少しは言葉のキャッチボールが可能なんだね。

 ちょっと、安心。


「光」

「あぁ?」


 ――って、あれ? 私、蛍さんに指を差されている?

 しかも、“誰だよお前”みたいな顔で赤髪さんに睨まれている気がする!


「えっと……」

「チッ……落ち人かよ」


 赤髪さん、そんな心底嫌そうな顔しないでほしい。

 しかも、舌打ち……ちょっと傷付く。


「落ち人……? 確かに私は空から落ちてきましたけど……ここって、何処なんですか?」

「……」

「……」


 冷たい目で睨まれてしまった。

 空からとか、こいつおかしいとか思われたかな?

 蛍さんは表情変わらないけど。


「知る必要は無いな」

「えっ?」

「……すぐにそういう心配はしなくて済むしな」

「どういう意味ですか? 」


 空から落ちるという部分に突っ込まない。

 どうしてだか分からないけど、嫌な感じがする……。

 頭の中で警報が鳴り響いていた。


「どうせ、ち人になるなら――」


 赤髪の人が暗い低音の声で言うと、ガラリと雰囲気が変わった。

 表情は一切の感情を出さず、瞳だけがギラギラとしている。


 何? 何だか、身の危険を感じる!


 本能が逃げろと告げている。

 だけど身体は凍ったように動かない。


「さようなら? そう……さようなら、光」


 蛍さんの口から決定的な言葉が出ると同時に、赤髪さんが勢いよく地面を蹴るのが見えた。

 力強く握った拳が赤く燃え上がっている。


 手が燃えてる!? 普通じゃ、ない!


 有り得ない現象……有り得ない現状。

 ここは、それが普通に起こる世界だと知った。


「い、いやあああああーっ!」


 悲鳴をあげ、迫り来る拳にヒナタは頭を抱えてしゃがみ込んだ。


 ………………。

 …………。

 ……。


 待っても何も衝撃は来ない。

 痛くもない。

 ゆっくりと頭を上げると、目の前にメラメラ燃える拳が見えた。


 危ない……でも、なんで当てなかったんだろう?


 よくよく見ると、赤髪の腕に紐のような何かが巻き付いている。

 それが原因で、最後まで拳を振り下ろす事が出来なかったらしい。


「チッ、出てきやがれ! 堕ち損ないが!」

「……近く、もう居ない」

「くそっ! 普段は何もしねぇのに、何でこいつだけ……」

「……光」

「てめぇはそれしか言えねぇのかよ」


 赤髪さんはイライラしながらも拳を戻し、鋭く睨み付けてくる。


 誰かに助けられた? みたいだし、距離を置いて逃げた方がいいかも。

 そーっと、そーっと……。


 ヒナタはゆっくりと後ろに下がろうとした。

 しかしその瞬間に赤髪の目がもっとつり上がった。


「何処に行くんだよ」

「――!」


 あ、やっぱり簡単にはいかない…よね。


 逃亡失敗である。

 ヒナタは諦めてその場に留まるけれど、赤髪はヒナタを睨み付けるだけで、何も言わなくなってしまった。


 気まずい……どうすれば……。


 静かな空間の中で、蛍が突然森の方へ動き出した。

 赤髪もそれに気付き、蛍に視線を向ける。


「おい蛍! 今度は何処に行くんだよ」

「睡蓮呼んでる」

「……はぁ、もういい。行くぞ」


 赤髪がヒナタに背を向け去ろうとすると、蛍は首を振った。


こう、ダメ」

「は?」

「睡蓮呼んでる」

「だから今から行くだろ!」


 さりげなく赤髪の名前が分かったが、蛍がこちらをじっと見つめているのに気付く。


 えっ? まだ私に何か用事があるとか?


「光」

「はぁ? おい、まさか……」

「睡蓮呼んでる。……光も呼んでる」

「はあああああっ!?」


 ええっ!? 私も呼ばれてるの!? 嫌な予感しかしないよ! こうしてはいられない、逃げよう!


 ――としたはずが、視界があっという間に回転する。

 気付けばヒナタは煌と呼ばれた人の肩に担がれていた。


「放して下さい!」

「逃がさねぇよ」


 力の限り暴れたが、びくともしなかった。


「暴れんなって! 俺だって連れて来いって言われなきゃ、落ち人なんかに関わるかっての!」

「貴方はさっき私を消そうとしましたよね!? それだったらもう一人の方が――」


 勢いよく顔を上げて辺りを見回した。


 あれ? 蛍さんが……居ない。

 彼が居た場所は、そよそよと風が通り過ぎている。


 “蛍の野郎……置いて行きやがって”とお怒り気味な彼に担がれて、文句を言いたいのはこっちだと思った。


「遅れると他の奴らがうるせぇからな……」

「私は行くと言ってないです!」

「うるせぇ堕ちかけ」

「私は、“光”でも“おちかけ”でもないです!青葉ヒナタって名前があります!」

「――ハッ! どうでもいい」


 鼻で笑った! 何なんだろうこの人!

 こんなに怒りで興奮したのは凄く久しぶりだよ!

 あらゆる意味で失礼過ぎるよ!?


 怒りでまた暴れようとすると、突然ガクンと身体が揺れた。


「なっ、何処にい――っひゃ……!!」


 舌噛んだ! 痛いっ……

 口元を手で覆い、涙目になる。


 景色は高速で過ぎて行き、ヒナタを担いだまま森の中を凄い速さで駆けたり、木の枝を跳び移ったりしている。

 さながら忍者のように、スイスイ森の中を進んで行った。


「舌を噛みたくなかったら黙ってるんだな」

「……」


 ――――――――――。


「まぁ、すでに噛んだだろうがな!」


 ヒナタの中で、煌に対しての敬いの心が消し飛んだ!


 ……煌さん、なんて呼ばない。

 敬語も使わない。

 もし呼ぶことがあれば、煌君って呼ぶ。

 絶対呼ぶ。

 何がなんでも。


 黒い感情がふつふつとわいてくる。

 ヒナタは心赴くまま、煌の背中に手を伸ばした。


「いってぇ! 背中ツネるんじゃねぇ!」

「知らない」

「今もやってんじゃねぇか! この性格ブス!」

「……」


 女の子に向かってブスとか……もう、ギュってやる。

 ギュって!


 何をしても速度は変わらず、担がれたまま小さな攻防を続ける。


「だから、痛いっての!」


 煌の声だけが森に響き渡っていた。

煌君相手だと、ヒナタはホンワカしていられない(汗)

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