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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
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転- 5.奥底の変化

 朔さんと話していると部屋をノックする音がして、返事を待たずに煌君がズカズカ部屋に入ってきた。


「おーい朔、平気――――……」

「煌君」

「煌、返事を待たずに開けないで下さい。……聞いていますか?」

「……」


 部屋の中央までやってきた煌の動きがピタリと止まる。

 その視線は朔とヒナタの間にくぎ付けになっているようだ。


 あれ、煌君の顔が赤い……。

 って……そういえば、手! 握られたままだ!


「な、何して……んだっ!」

「な、何もしてないよ!?」

「嘘つけーーーー!」


 顔を真っ赤にしてヒナタを指差す煌は、怒りか恥ずかしさなのか、わなわなと震えている。

 その様子に手を引っ込めようとした瞬間、朔の握る力が強くなり、さすがのヒナタも顔が赤くなっていった。


「さ、朔さんっ! そろそろ部屋を出ますから、手、手をっ!」


 朔は、あわあわしているヒナタを意地悪げな顔で見ると、ますますしっかり握る。


「さっきは抱きついてきたじゃないですか。このくらいは、可愛いものですよ」

「ちっ、違わないですが、朔さんの言い方はちょっと別の意味に聞こえますから!」


 何だか朔さん、ちょっと機嫌悪いのか……意地悪な人になってる。


「――それで? いつまで居る気ですか? 空気読んで下さいよ」


 朔は今にも頭から湯気がでそうな煌に向き直り、眉間にシワをよせてため息をついた。

 その瞬間、“ボンッ!”という音がして、煌の頭から白い煙が出る。


「え?」

「煌、ここで発火は止めて下さい」


 そっか、煌君の能力は体術+炎だから……って事は、制御出来てないって事かな?

 ……って、冷静に分析してる場合じゃない!


「煌く――――」

「っ!」


 ヒナタが何か言おうとした時、煌が猛ダッシュで部屋を飛び出した。

 瞳からキラキラと輝く雫を溢し――――。


「昴ーーーっ!! うああああぁぁぁぁんっっ!!」


 泣き叫びながらあっという間に走り去ったのだった。


 煌君!? 堂々と昴さんに愚痴り? チクリに行っちゃった。

 今回は苦手分野で攻められてたしね……真っ赤な顔で“ハレンチ!!”とか言いそう。

 後で私に八つ当たりしてきたりして……お菓子を持っていったら機嫌直るかな……。

 ――――それにしても、いつもの朔さんなら今回みたいなやり方しないんだけど……私の扱いに関しては、最初の頃それこそ昴さんに張り付く害虫並だった。


 チラリと朔の様子を伺うと、いつも通りの執事の表情がそこにあったが、やはり少しだけ機嫌が悪そうにも見える。


「……朔さん、少し様子が違うみたいですがどうかしましたか?」


 ヒナタがおずおずと聞くと朔はゆっくりヒナタの手を放し、横に転げ落ちていたタオルを拾ってヒナタに差し出す。


「気が変わりました。貴女の言うとおり、まだ熱があるみたいですから、ゆっくり休む事にしたんです」

「……だから煌君を追い出す為にわざとですか?」

「あのままでは、まだ騒ぎそうでしたからね」


 うん、いつもの朔さんだ。

 よかった……さっきみたいな妙な色気が常に出ていたら、きっと私が煌君みたいになるところだよ。


 ヒナタは少し微笑み、朔から受け取ったタオルを、氷水が入ったたらいの中に浸して絞った。

 その様子を朔が少し不服そうな表情で見つめている。


「楽しそうですね」

「え? あ……どっちかと言いますと、“嬉しい”でしょうか。最初の出会いからは考えられない状況ですから」

「……不信人物でしたからね、貴女は」


 そう言い瞳を細める朔にヒナタは苦笑いするしかなかった。

 しかし朔はフッと目元を緩めると、何かを思い出すように視線をヒナタからそらす。


「蛍は、記憶を無くしていても最初から貴女の傍に居ましたね」

「はい、今でも理由は分かりませんが……」

「本当に、知り合いではないのですか? 本当にあの奈落とも――――……」

「朔さん?」


 朔は途中で言葉をきると、考え込むように目を閉じてヒナタに背中を向けてしまった。


 ……蛍と、朧さんの事かな? 

 何で急にそんな事聞いたんだろう?


「あの、朔さん……」

「……すみません、熱がまた上がってきたみたいです。もう休みますので、ヒナタさんも部屋に戻ってかまいません」


 朔さんの耳が赤い……本当に熱が上がったんだ。

 タオルを替えた方がいいかもしれないけど、何だかそっとしていてほしいのかもしれない。


 ヒナタは静かに扉まで行くと振り返る。


「――――それじゃ、お休みなさい」

「はい、ありがとうございました……お休みなさい」


 朔の返事を聞き、ヒナタは部屋から出て扉をゆっくり閉めた。

 静かな廊下に“パタン”という音が響くと同時に、“カツン”と足に何かが当たり、ヒナタは暗がりの中で鈍く光る物を見つける。


 これ……万年筆?

 朔さんの部屋の前に落ちてたんだ……。


 ヒナタはキョロキョロするが、近くに人の気配はない。


 紺色、か……。

 朔さんのかと思ったけど、違うような……。

 とりあえず、持っておこう。

 ――――さて、皆の様子はあれからどうなったかな?


 ヒナタはスカートのポケットに万年筆を入れると、三人を探しに食卓の部屋に向かって歩いて行った。



蛍「ヒナタ、二人の代わりに夕食作ったよ」

何故かモザイクがかかる物体……。

蛍「煌なんか、泣くほど美味しかったみたいで、一気に食べて昇天しちゃったよ」

床に横たわる煌……指文字で書かれた“help”

絶体絶命のヒナタの後ろから扉がゆっくり開き現れた昴。

“バアァン!”

――しかし、一瞬にして扉はまた閉まったのだった。

~ヒナタ・ある日の日記より~

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