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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
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転-3.枯渇

 暗闇の中、“チリン……チリン……”とずっと続いていた音は、別の音でかき消える。

 “シャン!”と一回だけ鳴り響くと、清らかな雰囲気を放ち、瞬く間に真っ暗な視界を明るく照らした。


「すまぬな、ヒナタ」


 何処からか声が聞こえたが、すぐに気配は薄れて真っ白な空間に一人取り残される。


 ここは、何処なんだろう?

 さっきの声も聞いたことがあるような……って、私掃除の途中だった!

 こんな場所にいる場合じゃない。

 戻りたいけど……どうやって――――。


 ヒナタが困って辺りをキョロキョロしていると、フワリと空間に溶け込むような声が広がった。


「…………ヒナタさん、まだ目覚めないのですね」


 あ、朔さんの声だ……“目覚めない”って事は、私はまた夢の中にいるんだね。

 早く、起きなきゃ――――……


 ***


 ヒナタはゆっくり瞳を開く。

 軽く頭を動かして辺りを見回すと、自分の部屋である事が分かった。


 いつの間にベットに寝たんだろう?

 変な夢を見て、それから掃除をして…………ダメだ、そこから記憶が無い。

 とりあえず、朔さんを捜さなきゃ。

 きっと掃除の途中で居眠りをしてしまった私を、朔さんが運んだんだろうし――あぁ……かなり怒ってるよね。


 ヨタヨタしながらベットを降りると、部屋を出る為にドアに近付く。

 すると、微かに朔の声がドア越しに聞こえ、ヒナタは思わず立ち止まった。


「……――さんはまだ、眠っています。外傷は無いようですが、目に見えない何かを施されてしまった可能性もあります」

「そうか……様子をみるしかないな」


 何だか、真剣な話みたい……出て平気かな?


「昴様、申し訳ありません……力が出れば、何か分かったのですが……」

「……ヒナタの事に夢中で僕が怪我したから、朔のせいじゃないよ」

「いや、あの場合しかたねぇよ。お前が止めてなきゃ、アイツは今頃……」

「とりあえず朔も休め。顔色が悪すぎる……治癒の力が枯渇したのはあまり気にするな」


 朔さんが体調悪い!?


 昴の言葉に、ヒナタはいてもたってもいられず、ドアを勢いよく開け放って朔に駆け寄る。


『!?』

「朔さん、すみません! 体調が悪いのに居眠りをして、負担をかけてしまいました! ごめんなさい!」


 ヒナタは驚いた全員に頭を下げた。

 すると朔は右手をヒナタの肩にのせ、ゆっくりと顔を横に振った。


「違いますよ、私の体調不良にヒナタさんは関係していません。しかも貴女は居眠りをしていないですよ。覚えていないかもしれませんが、私の管理不足でヒナタさんは倒れたのです」

「えっ、私がですか? ……朔さんの方が、倒れそうなくらい顔色が悪いです」


 立っているだけで辛そうな朔の顔は青白く、今にも倒れそうなくらいにふらついていた。


「……蛍が少し怪我をしましてね。治癒の力は消耗が激しいので、私の体調不良は今だけですよ。ただ、その治癒の力は無くなってしまったので、もう怪我をしないで下さい」

「治癒の力が……」


 朔さんの能力は他の三人より多才で、どれもかなり高い。

 基本となるナイフの能力、驚異的な身体能力、体に空いた穴さえ塞ぐ治癒能力。

 逆に、能力を持ちすぎな気がする……。

 何かを犠牲にして扱えている能力なら、多才な朔さんはかなりの対価を払っているはず。

 払っている対価は、封印の補助になってる……あれから封印は壊れていない。

 ――なら、朔さんは何を犠牲に能力を使っているの?

 蛍の時より、もっと大きな何かを失っているのかもしれない。


「すみません昴様……少し、休ませていただきます」

「あぁ、ゆっくり休め」


 朔は壁に手を置きながら、ゆっくり自室へと歩いていく。

 その様子を昴はじっくり見つめた後、顎に左手を近付けて考え込む仕草をしている。


「身体能力も落ちている……か?」

「あ、そういや……さっきの、朔は気付かなかったみたいだぜ」


 昴の呟きに、煌がチラリとヒナタを見てから、思い出したように言う。

 煌の言葉に、ヒナタが首を傾げる中で話は続く――――。


「音も、ダメみたい」

「……気配に、音もか」


 少しの間沈黙が辺りを包み込んでいたが、意を決したように昴が蛍と煌を見つめる。


「……朔にあまり能力を使わせないようにしたい。朔の対価はおそらく大きすぎる」

「そうだね。僕みたいに対価を取り戻すには、封印を解かなきゃいけないし……そもそも自分の対価が何かを知り、封印の場所を思い出さないといけない」

「蛍、やめてくれよ……これ以上封印解けたらヤバイぜ?」

「でも、最悪解かなきゃいけない日がくるかも」

「おいおい……」


 蛍と煌が話している中、昴がヒナタに近付く。


「お前は狙われやすい。今何かあったら朔は、お前を守ろうとするはずだ」


 昴さんの言いたい事は分かった。

 朔さんが能力を使う可能性を出来るだけ低くしたいのに、私が傍にいれば確実に消耗してしまう。

 でも、朔さんは……


「どちらかと言うと、朔さんは何があっても、昴さんを優先するはずです。自分を犠牲にしても、貴方を守ります」

「――俺に……前に出るなと言っているのか?」


 ヒナタは顔を横に振り否定した。

 そんなヒナタに昴は、意味が分からないというような表情である。

 二人の会話を途中から聞いていた、蛍と煌も不思議そうにしていた。

 ヒナタは決心したような強い意思を瞳に宿し、昴と向き合う。


「昴さんは昴さんのしたいようにして下さい。出来る限りではありますが、私が朔さんを守ります」

「――っ!」


 昴は驚愕の表情を浮かべ、ヒナタを真っ直ぐに見つめた。


「……?」

「おい、どうした昴?」


 そのまま固まってしまった昴に、蛍と煌が囲んで、顔の前で手を振ったりしているが、ヒナタを見つめたまま動かない。


「え……? 昴さん?」

「……」


 ヒナタが呼んでも反応が無い昴に、どうしようか困っていると、蛍が助け船を出す。


「ヒナタ、朔の様子を見てきて。寝てるなら、問題ない」

「何かよくわっかんねーけど、固まってんし、行けよ」


 煌君、そんな“シッ、シッ”ってやらなくても……。

 とりあえず、昴さんは二人に任せて、朔さんが部屋にたどり着けているか確認しよう。

 あ、飲み物も必要かも……持っていこう。


 自分の部屋に一度戻り、紅茶が入ったポットを取りに行く。

 部屋の前では、いまだに三人がいるようで話し声もする。


「……だ……」

「何だよ昴、頭かかえて……いてーの?」

「何か言ってるよ」

「ん?」


 ポットを持ち、“ガチャリ”とドアを開けると、ちょうど昴と目が合う。

 その目は、ヒナタの向こう側を見ているかのように虚ろであった。


「……――お前が……」

「?」


 昴がヒナタに向かって呟くと、“ピシッ……”とヒビが入ったような音が聞こえる。


 え、なんの音?

 ――って、蛍何で鎌を構えて……。


「――ぐっ!?」


 何故か鎌を出現させた蛍は、昴の頭めがけて持ち手の部分で殴り付ける。

 突然の出来事に対応出来なかった昴は、後頭部に直撃を受けてそのまま倒れ込んでしまった。


「……」

「蛍!?」

「な、何やってんだよ!? しっかりしろ昴!」


 ぐったりした昴を抱えて慌てる煌をよそに、蛍はニッコリと微笑む。


「うん、嫌な音したから気絶させてみたよ。……ヒナタにも聞こえた?」

「う、うん。ヒビが入ったような……」

「……あれね、多分ダメだよ。僕、最近同じ音聞いたばかりだからね。煌もさっき困るって言ってたし、これで良かったんだよ」


 蛍の言葉に煌は困惑した表情で、戸惑っているようである。


「じゃ、ここは僕達に任せて、ヒナタは朔をお願いね。昴には後で怒られておくよ………………煌が」

「って、おい! ざっけんな蛍! 毎度の流れだが、今回は身代わりなんざやらねぇぞ!」

「ははは」


 抱えていた昴を勢いよく床に落とし、逃げる蛍を追う煌。


 ……煌君今のそれ、絶対怒られるよ?

 蛍に殴られた場所以外にタンコブ出来てそう……。

 むしろ、床に転がされた昴さんを朔さんが見たら発狂する。

 足止めもかねて、早く朔さんの所に行こう。


 ヒナタはポットを抱え直すと、騒ぐ二人を横目に、朔の自室へと向かった。



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