転-2.鈴の呪縛
部屋を与えられてからどれくらい経っただろう。
柔らかいベットに寝て安心感があるのか、久しぶりに元の世界にいる家族の夢を見た。
私はあの日普通に家に帰って、家族に誕生日を祝ってもらっている。
『17歳の誕生日おめでとう!』
「ありがとう!」
色とりどりの蝋燭の火を吹き消す――――しかし、とたんに辺りは暗くなりゆったりとした男の声が聞こえ始めた。
「ようやくこの日がきた……」
夢だと分かっていたから目覚めようとしたが、一向に変化はみられない。
声がだんだん近付いて来るのが分かった。
“チリン……チリン……”と鈴の音と共にすぐ後ろから気配を感じると、後ろ髪が一房ゆっくり持ち上げられる。
“やめて”と言いながら振り返ったはず……なのに、声は音の無い空気となって口から出ただけだった。
私の視線の先には髪に口付ける男がいて、俯いているため顔は見えないが、妖しく笑みを浮かべる口元だけが見える。
驚いて体を引こうとしたが、脚に黒い霧が触手のように絡み付いていて、動けなくなっていた。
「――――ヒナタ……」
囁くように聞こえた男のほの暗い声と、伸ばされた白い手。
「いやああぁっ!」
――――――叫び声をあげて目を見開く。
当然そこはあてがわれた部屋のベットの上で、汗だくになって飛び起きる。
呼吸が乱れ、自分の息づかいがやけに大きく聞こえた。
「ヒナタさん? 起きていらっしゃいますか?」
「!」
“コンコン”と控えめなノックと共に、朔の声が聞こえる。
ヒナタはびっくりして固まったが、朔だと分かり呼吸を整えてから、扉越しに返事を返した。
「はい、朔さん……すみません、寝坊してしまいました」
「……体調が悪そうな声ですね。今日は――」
「いいえ! 夢見が悪かっただけなので大丈夫です!」
“休みなさい”と続けようとした朔に、ヒナタは慌てて答える。
「……」
「今日は一階玄関のお掃除でしたよね。やらせてください」
扉越しに朔の沈黙が続く。
しばらく経ち諦めたのか、深いため息が聞こえてくる。
「まったく……無理はしないで下さいよ」
「はい」
朔が立ち去る気配の後、急いでメイド服に着替え部屋を出ると、いつの間にか扉の横に、海苔で包まれたおにぎりが二つお皿にのって置かれていた。
朔さんが用意してくれたんだ。
食べてから仕事しなさいって事だよね。
よし、今日も頑張らなきゃ!
何かしていた方が気も紛れるしね。
おにぎりを食べてから掃除を始め、朔さんに教わったように、上から下へ埃を落としてから廊下を拭きあげる。
今は夢の中じゃない、集中しなくてはいけない……でも――
“チリン……チリン……”と鈴が鳴る。
音を聞けば聞くほど、ヒナタの体は自由がきかず、フラフラと玄関ホールに歩いていく。
そのままゆっくりと二階に上がる階段を見上げると、飾ってある昴の肖像画の前に人が立っているのに気が付いた。
顔は分からないが、長い白銀の髪の人物が手招きをしている。
体が勝手に動く!? 嫌だっ……あの人の所に行ったら、良くない感じがするのに、意識が薄れていくっ……
手首が動くたびに、赤い紐に繋がれた鈴が音を奏で、ヒナタの体は音に招かれるように階段を上がっていく。
……どう、なってるの? 行っちゃ、ダメ、なのに……
「……誰……かっ」
意思とは関係なく近付く距離……焦るヒナタに手招きしていた手がゆっくりと迫って来ていた。




