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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
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承‐3.~黄昏・昼ドラ劇場~

 ここは、黄昏が美しい世界だ。

 今日もたくさん働き、良い汗をかきました。

 最後に沈む夕陽を眺めてようやく、一日が終わ――――“カチャリ”と、まるで眼鏡をあげる時のような音がした気がする。


「何をなさっているんですか?  ヒ・ナ・タ・さ・ん!?」

「ひぃっ!」


 ヒナタの後ろには、窓枠に積もった埃を指で撫で、額に青筋を浮かべた朔が立っていた。


「ここも! ここも! まだ終わってませんよ!?」

「す、すぐにやります!」

「全然腰が入ってませんよ! 何ですかこれは……埃が残ってますよ!?」

「は、はい! すみません!」


 ヒナタは慌てて廊下の隅などを拭き上げる。

 朔のスパルタな声が響く廊下で、他の三人が様子を伺っていた。


「ヒナタ……可哀想」

「何だあれ? どこの姑だよ。あれだな、夫はさしずめ昴だろ! 止めてやったら?」

「はぁ……誰が夫だ……にやけながら言うな」


 昴が不快な声色で話すと、朔に聞こえたようで、グルンと煌の方を向く。


「黙りなさい煌……貴方も躾が必要ですか?」

「げっ」

「……」


 首を引っ込める煌に対し、蛍はスタスタと朔に近付いていった。


「おいっ! 蛍!?」

「……聞いてないな」


 煌の呼びかけに答えず朔の側に辿り着く。


「何ですか、蛍」

「今日はもういいでしょ?」

「先程も言いましたが、まだ終わってません」

「初日なのに働かせ過ぎだよ。休憩もちゃんととらせてないでしょ?」

「……」

「ヒナタをイジメたら僕、怒るよ?」

「……」


 何故だか、朔さんと蛍の間に吹雪が見える……。

 心なしか寒い。


 そんな様子の二人に昴がため息をつく。


「よせ、二人共。朔、今日はもう良いだろう……やり過ぎだ」

「昴様……」

「ヒナタ、昴のお許しが出たから、休もう? 僕の部屋来る?」


 眉を寄せた朔に対して、蛍はにこにことしながらヒナタを促す。

 ――しかしヒナタは首を横に振り、朔に向き直る。


「朔さん、お夕飯の支度がまだでしたよね? お掃除はまた明日頑張りますので、お手伝いしてもいいですか?」

「……」


 ヒナタの思わぬ言葉に朔は目を少し見開くと、チラリと昴を見た。

 昴は軽く頷くと蛍の首根っこを掴み、引きずっていく。


「え、えー? 昴に引きずられるの初めてだよ……だいたい、煌の役なのに」

「何でだよ!」


 怒る煌を無視して、昴は引きずるのをやめて振り返る。


「お前が居ると作業が止まる」

「ヒナタ~」

「ごめんね、蛍。部屋はまた今度ね?」


 ヒナタが両手を顔の前で合わせて謝ると、蛍は諦めたように抵抗をやめて悲しげな表情をする。


「朔、用意が終わったら呼べ」

「畏まりました」


 朔が腰を折ると、昴は蛍を引きずりながら二階へと上がっていった。

 その場には、何ともいえない表情の煌が残る。


「あー、俺、ちょっと体動かしてくるわ」

「どうぞお好きに。あまり遅くならないで下さい」

「おう」


 煌は気まずさを誤魔化すように外へと出掛けていった。

 ヒナタがゆっくり朔を伺うと、少しだけ困ったような表情の朔と目が合う。


「貴女は馬鹿ですね……休みたいと言えば、ゆっくり出来たのに……」

「いえ、体を動かしていた方が色々考えなくて良いので……きっかけを作ってくれた朔さんには、感謝してます」


 ヒナタがにっこり笑うと、朔は呆れたように眉を下げ、“やっぱり、馬鹿ですね”と小さく呟いた。


「仕方ありません……お夕飯のお手伝いをお願いします」

「はい!」


 ヒナタが元気に返事をすると、昴の眼鏡が妖しく光り、ヒナタの腕をしっかり掴む。


「え? あれ? この流れは――」

「まずは、外に干している昆布を取りに行きましょう」

「え、昆布?」

「鰹節も削らなくては……」

「ケズル?」

「ヒナタさん」

「は、はいっ?」


 グッと朔がヒナタに顔を寄せ、真剣な表情をする。


「野菜を全て5秒で切れますか」

「む、無理です! 出来ません!」

「そんな事では昴様を満足させられません! やるのです! やれるようになるのです!」


 ヒナタの目には朔の背後に落雷の幻覚が見えた。

 激しく吹き荒れる風の中、ヒナタは震えながら言葉を絞り出す。


「は、い……、お義母様……」

「……誰が義母ですか」


 “まったく!”と呟きながら、朔はヒナタを引きずり気味に、外にある昆布の場所に連れて行くのだった。


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