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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
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承‐4.椿は沼に咲く

 結局、私は昆布を取りに行けなかった。

 ――何故なら、干してある場所が裏山の頂上にあるからだ。

 朔さんいわく、私なら三時間はかかるらしい。

 何でそんな所に……?

 とりあえず、さすがに皆さん往復六時間も待っていられないので、そのあとも華麗に宙を舞う鰹節や野菜達を、ただポカーンと見上げるだけの私。

 “口を閉じなさい”朔さんの呆れた声が聞こえてきて、ハッと気付けば夕飯の支度は完了です。


「貴女……何しにここに?」

「すみません……」


 何だか申し訳なさでいっぱいだ……。


 そんなヒナタの横を通り過ぎ、朔は手にお盆を持ったまま振り返った。


「仕方ないので、私も手を貸します。……明日、朝食の後に裏山に行きますから、早く食べて早く寝て下さい」


 手を貸す?

 ……往復六時間かかる山道をどうするんだろう?


 ヒナタが首をひねっていると、朔が“早く食べなさい”ともう一つのお盆をヒナタに渡す。

 和食中心の料理からは良い香りがしてくる。

 中でも、朔が丁寧に作っていたワカメと豆腐の味噌汁は格別に食欲をそそる香りだ。


 昆布と鰹節はダシだったんだなぁ……かなりこだわってる。


「部屋で食べるなり、広間のテーブルで食べるなり、好きにしてください」

「ありがとうございます……あの、朔さんは――」

「貴女とは別に食べますので、ご心配なく」


 “スパン”と即答すると、朔は瞬く間にキッチンを出ていく。

 一人残されたヒナタは味噌汁を見つめながらながら思う。


 明日もスパルタ決定だよね……。


 ***


 緑豊かな森の中、ゆっくりハイキング……ではなく、ヒナタは朔の肩に担がれて移動していた。


 この世界に来てから担がれ率が上がっている気がする。

 めったに担がれる事なんてないんだけどね、普通。

 煌君の時は荒々しく移動だったけど、朔さんは滑るように移動しているから全然辛くない……いやいや、そういう問題じゃなかった。


「さ、朔さん、あの……」


 ヒナタが遠慮がちに声をかけると、朔は立ち止まって一時的にヒナタを地面に降ろす。


「あともう少しで着きますから、我慢してください。この辺りは昔、負の淀みが凄くて近付けなかった場所なんです。一時かなり綺麗になりましたが、封印の影響で淀みがまた強くなってきてるんです。……昆布を干すには良い場所だったんですが、変えるしかありませんね」


 ヒナタに説明しながら、朔は辺りを警戒するように目を鋭く細めた。

 そんな朔の様子に、ヒナタも辺りを見回したり、耳を澄ましたりしてみるが、木の葉が風に揺れる音だけが聞こえる。


「……ヒナタさん、行きますよ」

「わっ! 朔さん、急に――……ん?」


 朔が素早く担ぎ上げると、ヒナタは奥の方に細い道がある事に気付く。


「朔さん、奥に道がありますよ?」

「……あぁ、あの道は気にしないで下さい。小さな沼があって、椿の花が咲いているだけです」

「沼に、椿ですか?」

「ええ、淀みの影響で黒く変色していましたがね」


 “さぁ、行きますよ”と朔が走り出す。


 ……ん?


 心地よい風が頬を撫でる中、緑色の景色に混じって一瞬、赤い何かが見えた気がした。

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