表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第二章・朔~秘めたる大華、君に捧ぐ~
40/133

小話.朔

朔視点になります。

 先程騒動があった昴様の部屋をノックする。

 すぐにドアは開き、普段着に着替えた昴様が部屋の中へ招き入れてくださった。


「早かったな……」

「はい、蛍が知らせに来てくれたんです」


 コーヒーの用意をしながら話をする――いつもの光景だが、今は少し落ち着かないかもしれない。

 ……やはり昴様も私がぎこちない事に、気付いていらっしゃるようだ。

 深く椅子に腰掛け、全てを見通しているかのような澄んだ瞳が私に向けられている。


「ブラックか、蛍には言ってなかったんだが」

「昴様が申し付けられた時、ヒナタさんが居ましたので……」

「あぁ……覚えていたのか」

「そのようです……昴様、どうぞ」

「あぁ」


 ブラックコーヒーが入ったカップを昴様に差し出すと、受け取ったはいいが、揺れる漆黒の水面を見つめたまま、一向にお飲みにならない。


「――昴様、あの……先程も倒れられましたし、体調が悪いのでしょうか?」

「……夢見が悪くて、寝不足なだけだ。問題ない」


 昴様はそうおっしゃってカップに口をつける。

 ――やはり、顔色があまり良くない。


「昴様、少々失礼します」


 お邪魔にならない程度に側に寄ると、意識を集中させ、治癒の力を発動させる。

 昴様に向けた手の平が淡い緑色に光ると、優しく体を覆っていき、しばらく経って光は全て昴様の体に染み渡って消えていった。


「すまない、朔」

「いえ、顔色が良くなったようで、安心致しました」


 治癒が完了すると、昴様の顔色は先程より赤みがあり、効果があったようだ。


「それでは、失礼します」

「……あの部屋は――」

「……」


 あまり長く居ては昴様の負担になると思い、部屋を出ようとすると、昴様は窓の外を眺めながらポツリと独り言のように話す。


「――俺の婚約者の部屋……だよな?」

「はい」

「あの部屋に、居た……はずだ」

「もちろんですよ、昴様。急にどうしたのですか?」


 昴様はゆっくり窓から視線を私に向ける。


「では、俺の婚約者は今、どこにいるんだ?」

「何を仰っているんですか……あの方は――――」


 ――――口から言葉が出てこない?

 簡単に言えるはずの事が……言えない。

 まるで、頭に霧がかかったように、分からなくなっている。


「覚えているのは、漠然と“俺には婚約者がいる”それだけだ。――俺は、顔どころか名前さえ覚えていない」

「……な、まえは……」


 戸惑い見つめる私に昴様も頷く。


「あやふやでずっと落ち着かなかった。それなら、代わりに入れておいた方がマシだ。……あの部屋はあいつに貸す。いいな、朔」

「……」


 昴様の言葉に頷くしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ