起.朔式調教
新しい章です。
宜しくお願いします!
「部屋の用意が出来ました」
細くキリッとした蒼い瞳をいつも以上につり上げ、深い溜め息をつきながら、右手で白藤色のサラリとした前髪を払うしぐさをする人。
私の目の前には、それはもう不満げな表情の朔さんがおります。
周りには他に人が居ません。
昴さんは部屋から出てこないし、煌君は興味無さげに自分の部屋に引っ込んじゃったようだ。
ついさっきまで一緒に居た蛍は、遊び疲れて眠くなったみたいで、あくびをしながら部屋に直行である。
蛍、今こそ傍にいてほしかったよ……。
「聞いてますか? ヒナタさん」
「はい! すみません! ありがとうございます!」
「はぁ……お静かに。昴様の隣ですよ? 昴様は何より騒がしいのがお嫌いです。早く中に入って下さい」
朔は待っていられないようで、ヒナタを追いやるように無理矢理部屋に押し込む。
「わっ! 押さないで下さい~!」
「ふんっ!」
半ば突き飛ばされ、転がるように部屋に入ったヒナタは、その光景に開いた口が塞がらなくなった。
部屋の真ん中に天蓋ベッドが置いてあり、フリルが可愛らしい桃色のシーツが整えられている。
家具類は全てアンティーク調で揃えられており、大きな鏡台に、ソファーとテーブル。
天井にはシャンデリアが輝き、そこは何処かのお嬢様の為の部屋に違いなかった。
ヒナタはフカフカの真っ白な絨毯の上に座り込んだまま、朔をチラリと見る。
「貴女には実に、分不相応でしょう」
「……はい」
朔は眉を歪ませると、右手で眼鏡のふちを押し上げて、レンズを反射させキラリと光らせた。
まさか、こんなに豪華だったなんて……昴さんは何でこの部屋にしたんだろう?
そもそも、誰の為の部屋なんだろ?
女の人用だよね……。
ヒナタが色々聞きたそうにしていると、朔は察したのか鋭い眼光をヒナタに向ける。
「この部屋については、一切の詮索を禁じます。破った場合、貴女の部屋は地下の牢やです」
「牢や……あるんですか……」
「私が造りました。見たいですか? 特別に案内致しましょうか?」
朔の危険な言葉を聞き、絨毯に座り込んだまま後退りするヒナタに、朔は無表情でジリジリとヒナタに近付く。
そのうちにヒナタは壁と朔に挟まれてしまい、慌てて腕を大きく振って叫ぶ。
「え、遠慮します! 約束しますから! 牢やは見ません!」
そんなヒナタの言葉を無視し、朔はヒナタの腕を掴むと勢いよく引き寄せて立たせる。
う、顔が近い……。
「いいですかヒナタさん、私の個人的な意見をこの際言いましょう。昴様の命令とはいえ、貴女がこの部屋を使う事に納得していません。昴様の大事な方でもなければ、御客様でもないのですから」
「は、はい。あの、もう少し、離れ……」
朔の威圧にヒナタが言葉を捻り出した時である。
ゆらりと朔の雰囲気が冷たく変わり、ヒナタの顔の真横に“ダンッ”と朔の左手がつく。
――!
み、美祢なら“きゃあっ! これが噂の壁ドンね!”とか言いそうだけど、甘い雰囲気なんて皆無だよ!
「昴様を惑わせる人間は私の敵ですから、覚えておいて下さい」
ヒナタが青ざめてなにも言えずにいると、朔は上から見下ろし、冷たく微笑む。
「貴女が分不相応なこの部屋を使うなら、キリキリ動いてもらいますよ。働かざる者食うべからず――貴女は今から昴様の奴隷です」
氷のような美しい笑顔を見せる朔と壁の間で、ヒナタは冷気にあてられたように固まってしまった。




