結‐4.楽園に咲きたる花
気付けば一ヶ月以上投稿無しでした……。
申し訳ないです。
「いいですか? 今から私は部屋の交換をしますので、邪魔しないように。若いのだから外で遊んできなさい」
朔は左手の指先で眼鏡を“クイッ”と上げ、右手は煩わしげに蛍とヒナタを追い払う仕草をする。
「うん、遊んでくるね」
「え、蛍!?」
蛍は待ってましたと言わんばかりに返事をすると、ヒナタの手を握って歩き出した。
「ガキかよ……」
背中越しに煌の呆れたような呟きが聞こえた気がしたが、蛍は止まらずに屋敷の裏へと進んでいく。
「以外とあっさり上手くいったね」
イタズラが成功したような無邪気な表情をする蛍は、スキップでもしそうなくらいご機嫌である。
――蛍、最初と比べて人間らしい表情をするようになったな。
前は人形みたいな感じだったから……。
「ヒナタ、どうしたの? 嬉しそうな顔して……あぁ、ヒナタも秘密の場所に行けて嬉しい?」
「ふふっ、そうだね」
二人は笑いながら仲良く手を繋ぎ、大岩の前にたどり着いた。
一度開けたからか、最初よりも静かに入口は開いて中の松明が灯る。
中から吹いてくる風には花の香りが僅かに混じっており、洞窟内に花弁の道もできていた。
「ヒナタ! 早く早く!」
「待ってよ蛍!」
辺り一面の花畑が視界に広がれば、蛍は待ちきれないように走り出す。
天井にポッカリ開いた穴からは、変わらず黄昏の陽がさしこんでおり、蛍の髪がキラキラ輝いていた。
「久しぶりだなぁ~……作れるかな?」
蛍は花畑に座り込んで、赤・青・黄色・白などの花を摘んでは器用に編んでいく。
その花はしだいに長くなり、やがて程よい所で端と端を繋げて輪っかに編み上げた。
「出来た! ヒナタ、もっと傍に来て」
「う、うん」
オズオズとヒナタが傍に寄ると、頭に花輪がフワリと置かれた。
「くれるの? ありがとう、蛍」
「――うん……懐かしいね」
「ふふっ、蛍も小さい頃によく作ったの?」
「そう、だね。 たくさん……」
ゆっくりと蛍の両手がヒナタの頬を包み、そのまま顔が近付いて二人のおでこが重なりあった。
突然の事でヒナタの頬がほんのり桃色に色づくと、蛍は幸せそうにその様子を見つめる。
「ヒナタ、僕はとっても幸せだよ。君に会えて良かった……またこうして居られるなんて奇跡だね」
「もう蛍ったら、そんなにすごくないよ?」
大袈裟に言う蛍に、ヒナタは困ったように笑う。
そんな様子のヒナタに蛍は首を横に振り、切ない表情をした。
「……いつか、君がこの世界を離れる時がきても、生きていけるくらいの思い出だよ」
――そっか、私はいつか元の世界に帰るんだ。
いつの間にか、凄く帰りたいって感情が薄らいでた。
少しずつ、この世界に馴染んできてたのかな?
でもそれは、蛍のおかげでもある。
異世界から来た私に冷たかった三人に比べ、人形のような感じではあったものの、蛍は傍に居てくれた。
記憶と心を取り戻した後もそれは変わらず、優しくしてくれたからこそ私は今もここに居られるんだ。
「ありがとう蛍……いつか元の世界に戻っても、私きっと忘れないよ」
「ヒナタ……僕、は――――」
「?」
蛍は言葉を詰まらせると、くっつけていた額をゆっくり離した。
その顔は今まで見たことのない、真剣な表情をしている。
「もし、この世界に夜がきて……朝をむかえられたら――――君に伝えたい事がある」
ヒナタの脳裏に睡蓮との会話が思い出された。
この世界に夜がくる……それは、破滅の時。
破滅を乗り越えた先――生き残れたら……?
「蛍……」
「忘れないで……僕はいつだってヒナタの傍に居るよ。――――だから僕の事、忘れないで」
“忘れないで”――いつものように優しく微笑む蛍だったが、瞳は懇願に近い感情が揺らめいており、ヒナタの心に深く染み渡っていくのだった。




