表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第一章・蛍~忘れること無かれ、君との思ひ出~
32/133

結‐2.訪問者

 目の前に美味しそうな料理が並ぶ。

 自家製のキュウリや茄子のぬか漬け。

 大根の煮物から焼き魚、お吸い物など、睡蓮の和風料理がふるまわれた。


「ほれヒナタ、たくさん食すがよい」

「ありがとうございます、睡蓮さん」


 睡蓮はキラキラ輝く白米をヒナタに差し出す。

 ヒナタがそれを受け取ると、入れ替わりにその横から突然、空になったお茶碗がズズイと睡蓮に差し出された。


「睡蓮! おかわりくれ!」

「煌は良く食べる。うむ、良い良い。……育ち盛りじゃからの」

「ガキ扱いすんなよ!」


 煌が膨れっ面をしていると、静かに食べていた昴が溜め息をつく。


「言われたくないなら、そのがっつくような食べ方を止めろ。――それと、いい加減見苦しい口元の米粒を取れ」

「マジか!? どこだよ!」


 ワタワタと自分の顔を触っていた煌であったが、口元の米粒はあちこちに移動してなかなか取れない。

 苛々し始めた煌の近くに、ヒナタが近付く。


「あ?」

「じっとして」


 睨み付ける煌を無視して、額に移動していた米粒を摘まむ。


「はい、取れた――――」

「! はぐっ!」

『……』


 ヒナタが人指し指に付いた米粒を見せたとたん、“カプッ”と条件反射で煌が指に食らい付く。


「……あ、いや――」


 固まるヒナタを前に、顔を赤くして戸惑う煌の後ろから、ゆらりと蛍が近付く。


「何、してるの?」

「なっ!? 蛍、待て! わざとじゃないからな!?」

「わざとなら、変態ですよ煌」

「……ムッツリか。タチが悪いな」


 鎌を持っている蛍に弁解をする煌。

 しかし、朔と昴が追い討ちをかける――その結果……。


「潔く斬られてくれる?」

「ぎゃーーーーーーっ!」


 部屋の中でバタバタとおいかけっこが開始された。


「お前達、飯の時間が台無しじゃ」


 溜め息をついた睡蓮は、白い布を手に立ち上がると、ヒナタに向かって手招きする。


「家の裏に小さな川があるのだ。手を洗いに行こう」

「……はい」


 今だに騒がしい部屋を見て、苦笑いしながら睡蓮の後をついていく。

 裏口から屋敷を出ると、竹林の中に細い小道を進んでいった。


「ほれ、川があるだろう?」


 睡蓮が指を差した方向に、キラキラ輝く小さな川があった。

 手を入れると、ちょうど良い冷たさである。


「睡蓮さん、わざわざ川の方に来たのは、何か話があるんですか?」


 ヒナタが睡蓮の差し出す布を受け取りながら尋ねると、最初はキョトンとしていた睡蓮だが、微笑みに変わり深く頷く。


「賢い娘よ。ここからならよく見えるであろう? 黄昏の空の端が……」

「端ですか?」


 ……ん? 遠くの方が少し暗い? まるであの部分だけ夜みたいな……。


 ヒナタが睡蓮を見ると、睡蓮は正解といった顔で頷く。


「僅かではあるが、この世界の時間が進んでおる。

 全てが夜になる時、この世界は終わる」

「……封印の方角から上がった、黒い光の柱が影響したんでしょうか?」

「……なんじゃと?」


 何気なく、荻を消滅させた時の出来事を口すると、睡蓮は初めて知ったような驚いた表情になる。


「他の人達も封印の方角と言っていたので、破滅の神の力だと思ったんですが……。封印には何も無かったんですか?」

「……分からぬ。我が気付かなかったじゃと? ふむ……」


 睡蓮は複雑な表情で考えこんでしまっていた。


「睡蓮さん、大丈夫ですか?」


 ヒナタが心配そうに睡蓮の様子を伺うと、睡蓮は真剣な表情で空を見上げる。


「ヒナタ、もしまた同じような事があったら、我に教えてはくれまいか」

「……はい、分かりました」


 ヒナタが返事をすると、睡蓮はやんわり微笑んで来た道を戻って行く。

 帰りの道に会話は無く、静かな竹林が広がっているだけであった。



 ***



 結局その日は睡蓮の屋敷で一旦睡眠を取り、疲れた体を休める事になった。

 一人一人に宛がわれた部屋で、ヒナタが布団の中でウトウトし始めていた時である――部屋の中にフワリと人影が現れ、ヒナタの横にスッと座った。

 浅い眠りの中で夢か現か分からない中、ヒナタが動かないでいるとその人影が笑いだす。


「実に愚かだな。思念の分際でお前に手を出すとは――――くくっ、なぁ、ヒナタ……私からの貢ぎ物は気に入っただろう?」


 この、声は……まさか――――。


 ヒナタの脳裏に夢の男が浮かぶと同時に、黒い光の柱が上がった時の声と同じだと気付く。

 急いで目を開けて、ヒナタは勢いよく起き上がった。

 そこにいたのは――――――。


 ……。

 …………。

 ………………。


「いい加減に起きなさい! まったく、いつまで昴様を待たせる気ですか!?」

「え!?」


 鋭い朔の声に飛び上がるヒナタ。

 鬼のような顔の朔と目が合ったが、すぐに辺りをキョロキョロ見渡して首を傾げる。


 ついさっき起きて、声の主を確認したはずだったのに……だけど、また寝ちゃってたみたい。

 姿も見たはずなのに、全然覚えてない…………。

 やっぱり、夢?


「何してるんですか? 聞こえてますか?」

「あっ、はい! すみません、すぐに準備します!」


 朔は深い溜め息をついて部屋を出ていく。

 それと入れ替わりに蛍が顔を覗かせた。


「あ、ごめんね蛍。もう起きたから、大丈夫だよ」

「うん――――――ん?」


 笑顔だった蛍の顔がだんだん険しくなり、部屋の中をじっくりと見渡し始めた。


「……ヒナタ、この部屋……誰か居た?」

「え?」


 ヒナタが困惑していると、蛍が布団の上に落ちていた物を拾い上げ、力強く握り締めた。


「……帰ったら昴に頼んで、僕達の近くに部屋を替えてもらおう」


 真剣な表情の蛍と、持ち主の分からない落とし物に、ヒナタは先程の出来事が夢ではないと確信する。


 じゃあ、あの人が……破滅の神――――。


 蛍の手の中で“チリン”と鈴の音が鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ