結‐1.涙の欠片
槐君と朧さんが消えて、辺りの時間が戻って来た。
そのまま横に居た蛍を見ると――――
「ほ、蛍!? 何で泣いてるの? どうしたの?」
蛍は顔から微笑みを消し、苦しそうに眉を歪めており、琥珀色の瞳からキラキラとした雫が止めどなく溢れては、蛍の頬を濡らしていた。
「泣いているだと? 怪我したのか?」
「なら、私が治療を……」
ヒナタの声にわらわらと、蛍の様子を伺いに全員が近付く。
煌は心配した二人とは真逆に、少しもそんな素振りを見せなかった。
腕を頭の後ろで組み、蛍の顔を覗き込んでニカッと笑う。
「腹へってるだけじゃね?」
“お前だろ、それは”――皆の心が一つになった瞬間であった。
「ヒナ……タ」
「うん、蛍……どうしたの?」
潤んだ蛍の瞳がヒナタを映す。
「僕、ずっと空っぽだったけど――ちゃんと笑えてた?」
「え?」
真剣な表情でヒナタの答えを待つ蛍に、ヒナタは出会ってからの記憶を探る。
最初の挨拶から始まり、記憶を取り戻してからも、私には何時も微笑んでいたように思う。
「大丈夫、笑っていたよ」
優しい表情でヒナタが蛍に答えを伝えると、その言葉にハラリとまた、蛍の瞳から涙がこぼれた。
蛍の手がヒナタの腕を掴んで引き寄せる。
前の時みたいな強引さは無く、優しく包むように抱き締めた。
“今だけ、笑えない事を……許して――”ヒナタだけに聞こえるように呟いた、許しを乞う言葉に、ヒナタはゆっくりと蛍の背中をさする。
何だか……私まで泣きそうだよ――――。
蛍とヒナタの異様な雰囲気に、他の三人は固まっていた。
「な、な、なななんっ!? 何だよ!?」
「煌……真っ赤になりながら、どもりまくるな」
「破廉恥なっ! 昴様の視界を汚すとは、成敗――――」
「よせ、朔。お前くらいは空気を読んでくれ」
二人から少し距離を取りつつ、三人がワイワイやっていると、蛍は抱き締めた力をゆるめて、いつもの微笑みを浮かべる。
その微笑みは今までと格段に違う、自然な笑みであった。
「帰ろう――――お腹すいちゃった」
『……』
「おいっ……」
昴のこめかみがピクリと動き、何か言おうとした時であった。
茂みから勢いよく白銀の何かが飛び出す。
「腹がへってはなんとやら! 皆、我の屋敷に来るが良い! 飯じゃ」
現れた睡蓮が声高々に言うと、“ブチィッ!”と何かが切れる音がした。
それから2秒後、風が木の葉を揺らす森に声が轟く。
「――――――――空気読め!!」
やっと、結に入りました~!




