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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第一章・蛍~忘れること無かれ、君との思ひ出~
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転‐9. 奈落の長

 間違いない……神隠しの時の人だ。

 一度会っているからかな? どことなく懐かしくて切ない気持ちになる。

 ――もしかして、それ以前に何処かで……。


「……また、知り合いかよ」


 ヒナタと男が視線をかわしていると、ドスのきいた声が響く。


 うっ……最近こういうパターン多いなぁ。

 煌君の敵意がこもった視線が背中にビシバシだから!

 知らないと言えば嘘になるし、知り合いとまではいかない。

 昴さんと朔さんも疑わしく思っているだろう。

 唯一、蛍だけがいつも通りだ……それもどうかと思うけど。

 あれ、私って保護じゃなくて、監視対象っぽい扱いだね。


 コロコロ表情を変えるヒナタに、槐はやれやれといった雰囲気をかもし出すと、現れた人物に近付いて方膝をついた。


「朧様、この人間がお話ししていた娘です」

「?」

「……」


 一瞬、意味が分からなかったようで、朧は槐の言葉に少しだけ首をかしげていたが、蛍と目が合うと悟ったようですぐに頷く。


「………………そうか、やはりヒナタか」


 槐君が庇ってくれてる……ちょっとだけ、ビシバシがチクチク程度になったし、ありがとう!


 嬉しそうな表情のヒナタを確認すると、朧は振り返って荻を真っ直ぐ見つめる。

 苦しげに荻は顔を上げた。


「マサカ、奈落ノ長ガ直々ニ……オ出マシトハ、ネ」

「……荻、奈落の民は不死身ではない。じきに、お前は消滅する」

「アンタナラ……ナンとか、ナルンジャナイカネェ……? ソレトモ、見捨テルカネ? ヒ、ヒヒ!」

「っ! いい加減にしなよ荻。辛いなら、僕が今すぐ楽にしてあげるよ」


 荻の言葉に怒気を含んだ声色の槐が、仮面に手をかざし、蔓を取り出そうとした。

 しかし、すぐさま朧の制止がはいる。


「よせ、槐」

「朧様っ……」


 戸惑った様子の槐の前で、何一つ表情に変化がない朧は荻に語りかける。


「お前は自分の体が何故存在するか考えた事はあるか? 本来、奈落の民は肉体が無いただの思念の塊だ」

「何ガ……言イタインダネ」

「……奈落の民が肉体が失う――お前は、この世界に拒絶されたんだ。肉体の無い思念はこの世界に留まることは出来ない」

「何ヲ言ウカトオモエバッ! 肉体ナド、容易ク蘇ルサ!」


 荻の体はほとんど消滅し、頭だけがゴロンと地面に転がる。

 それでも荻は恐怖を感じていないかのようであった。

 朧はそんな様子の荻に目を細めると、後ろにいたヒナタにチラリと視線を移す。


「これを、望むか? ヒナタ」


 声をかけられたヒナタは、無意識に首を横に振っていた。

 ――その瞬間、ヒナタの体は何かと繋がったように、ドクドクとした二つの鼓動を感じた。


 “それが、お前の望みなら――叶えてやろう”


 え……頭の中に声が響く? この声は――


「昴様っ! 黒い光の柱がっ……」

「……封印の方角か」


 朔の声に全員の視線が、封印の方角上空にそそがれる。


「何……ダネ? ――マサカ……」

「あぁ、お前は手を出してはならない者に干渉した。この世界の――――――……」


 荻が朧の言葉を最後まで聞くことはなかった。

 黒い光は荻の頭上から地面に落ち、残っていた頭を一瞬にして灰に変え、中に宿っていた思念までも消してしまった。


「……」


 ヒナタが顔を青ざめさせて絶句していると、朧は手のひらに小さな玉を出現させた。

 その玉がふわふわと堕ち人の頭上に飛んでいき、光を放つと、たちまち堕ち人の顔が安堵の表情になり、ゆっくり玉の中へと吸い込まれていった。

 役目を終えたように玉の光は消え、朧の手のひらに戻っていく。


「あの、その人は……」


 ヒナタが不安な顔をして、朧の手のひらを見つめる。


「心配いらない……本来、生身の肉体でこの世界には来れないんだ。この人間の肉体は元の世界にあるはず……これは、魂。この人間や過去の堕ち人も含め、死んではいない」

「そう、なんですね……じゃあ、私も?」


 朧は首を横に振る。


「いや……お前は、生身のまま来た。この世界で命を落とせば死ぬ」

「……そんな事、させないけどね」


 蛍は微笑みながら朧と視線を交わした。

 朧は少しだけ蛍と見つめ合うと、ゆっくりと昴に視線をずらす。


「一番初めの封印は、完全に壊れていない。いつまでもつか――――」

「……」


 意味が分からないせいか、朔や煌が首をかしげる中、昴は不快そうに眉をつり上げていた。


 ――――あれ? そういえば昴さんとこの人、どことなく似てるような?

 背の高さや、顔のパーツなどかなり似ている。

 性格は、違うけど。


「奈落のお前が何故そんな事を知っている」

「……」

「他の奈落と雰囲気が違うようだが――何者だ」


 朧は何も答えず無表情のまま、“スッ”と腕を前に出すと横に動かす。

 とたんに辺り一面が淡く光り、次々に紅い彼岸花が咲き誇った。


 荻の、弔いかな……


「帰るぞ、槐」

「……はっ」


 槐はチラリとヒナタの方を気にしたようであったが、朧の言葉に逆らう事無く後ろに下がった。


「はぁ? そのまま逃がすと思って――」

「……煌、やめろ」

「昴様……よろしいのですか?」

「――あぁ、今は(・・)だ」


 昴は真っ直ぐ朧を見たが、朧の瞳はヒナタだけをみつめていた。


「貴方は……」

「俺は、朧。――また会おう、ヒナタ」


 朧はそう言うと体を翻す。

 肩にかけていた羽織がなびくと、咲き誇る彼岸花が一斉に光の玉となって弾け、その場から朧と槐の姿は消えてしまっていた。



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