転‐8.激昂なる時間-3
仕事バタバタで更新出来ず、申し訳ないです……。
蛍は堕ち人と対峙したまま、後方で出方を伺っていた昴達をチラリと見る。
「悪いけど、手をださないでね。うっかり切り刻むから」
いつもの微笑みは無く、真顔で蛍は昴達に言う。
“切り刻むとか、うっかりレベルじゃねぇよ……”という煌のツッコミもまたまたスルーし、蛍は鎌を構え直した。
「……っ、蛍」
「ヒナタ、じっとしてて。すぐに、助けるから」
ヒナタを安心させるように穏やかに微笑んだ後、表情を引き締めて地面を駆け出す。
当然、蛍を近付かせない為に、複数の触手が攻撃を仕掛けてきた。
蛍はそのままぎりぎりで左右に避け、逆に触手を足場に高く跳んだ。
鋭い刃を堕ち人の肉体に深く突き刺さし、一気に引き裂く。
――――しかし、引き裂いたと同時に素早い回復力をみせ、堕ち人の肉体は元に戻ってしまった。
「回復が速すぎる」
蛍が地面に降り立ち呟くと、荻がニンマリとした表情で様子を伺っていた。
「それじゃあ無駄だねぇ~さぁ、どうするんだい? アヒャヒャ!」
「……コイツ」
険しい表情をした蛍が、荻に向かって鎌を振り下ろすと、堕ち人の触手に跳ね返される。
蛍の驚いた表情に、荻はますます嬉しそうにしていた。
「なぁ、全員でやれば何とかなんねぇ?」
煌がじっとしていられないのか、昴に提案している。
しかし、昴は顔を横に振る。
「あの回復力では無理だな……こちらの体力が無くなった時点で終わりだ」
「狙うなら荻の方ですが、あの様子から自分には傷ひとつ付けられない自信があるのでしょう」
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ」
昴と朔の意見を聞き、煌は途方にくれながら堕ち人の方へ視線を移した。
ヒナタを取り込む動きは、蛍の攻撃で一旦停止しているようで、困惑した表情をしているヒナタと目が合う。
煌君の目が何か探せって言ってる気がする……そんな目をされても、何も無い……ん? あの目玉だけ、紅い?
ヒナタはもう一度、堕ち人の肉体にある無数の目玉を見渡す。
目玉の中心が黒いモノばかりだったが、一つだけ紅く輝く目玉があった。
ヒナタは望みをかけて、荻に見えないように右手で紅い目玉を指差す。
『!』
守護者達はヒナタの行動に一斉に気付く。
「蛍、任せるぞ」
「分かった」
昴の声に何をするのか悟った蛍が鎌を構えると、昴・朔・煌は堕ち人と荻の気をそらすため、バラバラに攻撃を仕掛けていく。
昴の刀が触手を切り離し、朔が宙を舞う触手の切れ端を木に突き刺す。
煌の炎は触手に移り、燃え続けて再生を遅らせていた。
「そんな事をしてどうするんだい!? ヒャーヒャヒャ!」
荻は仰け反り高らかに笑う中で、蛍も微笑むと素早く動く。
そのまま触手を切り刻みながら、一気に紅い目玉に刃を振り下ろした。
「があああああああああああぁぁっ!」
「!?」
――――え……今の叫び声って……荻?
ヒナタがビックリして声の主を見ると、荻は手で右目をおさえたまま、体を震わせていた。
見開いた左目は血走り、ゼィゼイと荒い呼吸を繰り返している。
そのうちに、右目をおさえていた指の間から黒い液体が滴ると、荻の体は傾いて地面に落下した。
「さっき干渉しないって言ってたけど、どうやら繋がってたみたいだね」
「ぐっ……あっ……何だねコレハ……血カネ……? ヒハッ! ヒャハッ!」
荻は黒い液体を見て、面白そうに顔だけを上げて笑っている。
そんな様子の荻に蛍が鎌を差し向けた。
「……さようなら」
蛍が止めを刺そうと鎌を振り上げた時であった。
「ヒャハッ! まだだネェ!……モット、タノシマナイトネェ!?」
荻の左目が光ると、堕ち人に刺さったままのステッキに力が集まっていく――――しかしその瞬間、ステッキに蔓が巻き付き、一気に引き抜かれた。
宙を舞ったステッキが“カラン”と音を立てて、蛍と荻の間に落ちる。
「エンジュゥゥゥッッ! キサマァァァァァッ!」
「……」
叫ぶ荻を無視し、槐は何も言わずに蔓を仮面に戻した後、その場から動かなくなった。
それと同時に荻と繋がりが無くなった堕ち人の肉体は、サラサラと灰へと変わる。
「オォ……オォ――――――」
「ひゃっ!?」
「ヒナタ!」
触手に捕まっていたヒナタは反動で投げ出されたが、蛍がギリギリで受け止める。
「ッ! あり……がとう、蛍」
「うん、ヒナタ……よかった、無事だね」
抱き締める蛍越しに、ヒナタは堕ち人を見る。
大半が灰となる中で、顔の部分が悲しくこちらに視線を向けていた。
「何とか、ならないの……?」
「ヒナタ……」
ヒナタの表情に蛍は困った顔をした。
そんな中、息も絶え絶えな荻が笑う。
「ヒ、ヒヒ……ムダ、ダネェ……オチタラ、オワリ、ダカラネェ……ギャハッ!」
「……そうだね」
「……」
荻に同意するように言う槐に、ヒナタが何も言えないでいると、槐は続く言葉を放つ。
「あんたもだよ――――荻」
「ナンダッテ……?」
槐の言葉に荻は自らの体を、呆けたような表情で見つめる。
指先から少しずつ、この世界に溶けるように消滅を始めている自分の体に、唇をわなわなと震わせた。
「ナンダネコレハ!? 不死身ノ……奈落ノ民ガッ! ナゼッ!」
「――――それが、干渉した代償だ」
動揺する荻に答えるように、ゆらりと空間を歪ませて一人の男が姿を現した。
黒いサラサラとした髪に切れ長の紅い瞳。
肌は陶器のように白く、全体的に中性的な容姿である。
裾に彼岸花が咲き誇る漆黒の着物に、純白の羽織を肩にかけていた。
その人物は荻を一見し、すぐに振り向きヒナタを見つめる。
「貴方、もしかして……」
紅い瞳が懐かしげに細められ、薄い唇がゆっくり開く。
「……ヒナタ」
ヒナタの脳裏に、神隠しにあった時の黄昏がよみがえっていた。
睡眠か……執筆か……(泣)




