転‐5.再来
お待たせいたしました。(汗)
槐はヒナタを横抱きにして、森の中を素早く移動していた。
時おり後ろを気にするように振り返りながら、器用に木の枝を飛び移っている。
さすがにそろそろ四人に気付かれそうだけど……。
「槐君大丈夫?」
「……待って」
そう言うと槐は地面に降り立ち、横抱きにしていたヒナタをそっと腕から降ろした。
何かを探るように館の方角を見ている。
「何か、嫌な予感するし急ぐよ」
「ん? 嫌な予感? ――って! ま、待って槐君!」
ヒナタを待たずに、スタスタ歩いて行ってしまう槐を慌てて追いかける。
うぅっ、槐君速いんだから……こうなったら!
ヒナタは槐の手に狙いを定め、駆け寄り――――
「えいっ!」
「…………何で、僕の手握ってるわけ?」
あれ……驚かない? “うわぁ!”とか言わないんだ。
ちょっと、がっかり。
「残念そうな顔しないでくれる? さっきより全然マシなんだから、驚かないし」
「そっか、慣れたんだね!」
「……何か、嬉しくない」
槐君は優しいなぁ~納得いってないみたいだけど、しっかりと手を握ってくれてる。
嬉しくて手を軽く揺らすと、“子供みたいなことしないで”とか言われたけど、手は繋いだままでいてくれた。
「槐君、後どのくらいで着くのかな?」
「後、半分くらい。さっきみたいにアンタを運んだらすぐだけど……」
「そっか! じゃあ――」
ヒナタが話している途中、突然“キーン”と、か細い音が辺りに響く。
「槐君、変な音がする」
槐にもその音は聞こえるようで、辺りを警戒し始める。
不思議な音はしだいに大きくなり、ノイズのような音まで響き始めた。
ノイズ……まさか……この音――。
ヒナタは顔を真っ青にしながら、ゆっくり自分達の真上を見上げる。
――――その先に、音の原因があった。
空間を歪める黒い、何かが。
「え、んじゅ、く、ん……」
オレンジ色の空間に線が入り始め、ゆっくり左右に裂けていった。
槐は素早くヒナタを抱えて後ろに下がり、そのまま来た道を一直線に駆け戻って行く。
「槐君!? そっちに戻るの!?」
「……っ多分、逃げ切れない!」
槐が叫んだ瞬間、何かが割れる音と共に、辺り一面が灰色に染まった。
全てがスローモーションのように時間が流れる。
嘘……あれってもしかして、煌君達が逃げられた――――。
空間を割って侵入したのは、黒い塊。
そこから“人の腕の形をしたもの二本”と“脚の形をしたもの二本”を生やすと、獣のように四本で上体を起こした。
“ジジッ……ガガガ……”とノイズが鳴ると、黒い塊に人面が浮かび、逃げるヒナタ達を見つめてニィッと笑った。
「あの時の堕ち人っ!」
「ちょっ、声出すとかありえない!」
「もうこっち見てたから!」
「グ……ギャ……ァァァアアアアアアアアアッ!!」
まるで咆哮のように叫ぶと、地面を激しく抉りながらヒナタ達に向かって突進していく。
バキバキと木をなぎ倒し、四本の腕と脚はバラバラに激しく動いている。
「槐君! 何とかならない!?」
「何とかならないから逃げてるんだよ! 堕ち人は奈落の民が操ってるわけじゃないから!」
「そっか……」
「ちょっ! しっかり掴まってよ! 落ちても回収しないから!」
もしかして私が居なかったら……槐君だけなら逃げられるんじゃないかな。
槐のヒナタを抱き締める力が強くなる。
「槐君?」
「馬鹿な事、考えないでよ。何のためにわざわざこっちに来たと思ってんの?」
――――もしかして……。
「流石にそろそろアイツらと合流するはずだし。取りあえず堕ち人を何とかするために、今はだよっ!」
「ひゃっ!?」
話の途中で槐は勢いよく真横に飛びのき、ヒナタを抱えたままクルリと着地する。
ヒナタが顔を上げ辺りを見渡すと、槐達が元居たその場所の木が一瞬でなぎ倒され、砂埃が舞っていた。
槐はヒナタを支えながらゆっくり立ち上がる。
「ガガッ……アガァ!」
四本の腕と脚で空気を裂きながら、砂埃から堕ち人が姿を現した。
人面は相変わらずニィッと笑い、ヒナタを凝視している。
その視線からヒナタを隠すように槐が前に出た。
「ホントお前、邪魔」
槐は手を仮面にかざす。
すると白い仮面に蔓の模様が浮かび上がり、槐の手に一本の黄緑色の蔓が収まった。
そのまま挑発するかのように、その手を堕ち人に向ける。
「消えてもらうよ」
「ガアアアアアアアアアアアアァァァアァァアアァッッ!!」
辺り一面に空気を震わす叫びが響き渡った。
次は蛍ターン予定です、はい。




