小話.蛍2
黒蛍、降臨。
封印の欠片を破壊して、取り戻した力と記憶に、僕は“嬉しい”という感情しかなかった。
だけど目の前に居たヒナタは、感情が抜けたように動かなくなっていた。
――――いや、後ろを見てる。
“連れて行かれる”
何故かそう思った。
必死でヒナタを揺すると、ビックリした表情で僕を見て、後ろに男が居たなんて言う。
でも振り向いても誰も居ない。
気配が全然無かったんだから、当たり前なんだけど……。
ヒナタから少し離れてその場所の花を見る。
――――枯れてる。
その場所だけ不自然に。
しかもくっきりと人の足形の状態で……。
ここには確かに居たらしい……花の命を終わらせる何かが。
……封印に、影響出ちゃったか。
怒るだろうな、昴達……ヒナタも。
案の定、ヒナタに怒られた。
でも、やっぱり僕の心の中は“嬉しい”しかなかった。
嬉しさのあまりヒナタを抱きしめる。
ずっと会いたかった……。
僕の記憶の中の大事な女の子。
彼女との約束は山ほどしたけど、またもう1つ増えた。
この世界から、解き放ってあげる。
――だからお願い、傍にいて。
絶対に守る、もう一度約束するから……。
――。
――――。
――――――。
ヒナタの風当たりが激しくなっちゃった。
昴は何やら探ってくるし……でも、封印を解いたのにあんまり怒ってないね。
ヒナタと何かあったと言うか、ヒナタ“で”何かあったかな……。
ヒナタと会ってから、適度に距離を置いてたしね。
試しにちょっと揺さぶる。
――――あれ……あんまり反応良くないな?
朔と煌が来ちゃったし、また今度でいいか。
***
煌に捕まって話している時だった。
さっきまで、僕の話を間近で聞いていた煌の目付きが鋭くなる。
「――居やがる」
煌の言葉に、横から吹いてくる風に神経を集中させる。
風の中に僅かに、奈落の民の気配を感じた。
――その瞬間僕は、外からヒナタの部屋に走り出す。
「おい! 蛍!」
昴の声がする。
後ろから三人が追いかけて来るけど、待ってられない!
何で気付かなかった!?
封印を解く前なら、ほんの僅かでも分かったのに!
ヒナタの部屋の窓が見えた。
レースのカーテンが風になびいている。
恐る恐る開いている窓から中を覗く。
「ヒナタ……さっき、約束したばかりなのに……」
中はもぬけの殻。
部屋の中には、僅かに奈落の民の気配が残っているだけ。
今までは近付く奈落の気配を逃さなかった。
――――そんなの、人形だったから……余計な事考えないからだ。
後ろから来た三人が追い付いて来た。
僕の様子から察したようだ。
「攫われたか」
「まだ近くにいるかもしれません。追いましょう」
「……おい。蛍、大丈夫かよ?」
煌が心配して声をかけてくれる。
大丈夫、ヒナタの気配を追えばいい。
彼女の気配は甘く僕を誘う。
『ホ、ホ、ホ~タル来い。こっちのみ~ずはあ~まいぞ~……』
昔の思い出が甦る。
ほら、大丈夫だ……彼女の気配を感じる。
きっと、僕を待ってるんだ。
嬉しい、嬉しいよヒナタ……僕はやっぱり封印を解いて良かった。
――――僕、凄く怒ってるから……。
「また1つ、心が戻った」
ヒナタを攫うなんて、奪うなんて、絶対に許さない。
きっと、僕の顔は酷いんだろうな……だって三人の顔色が良くない。
でも、止められない。
僕の頭の中は怒りでいっぱいなんだから――――。
煌「笑ってやがる……目をギラギラさせて……」
朔「あれは、狩る者の瞳です……」
昴「闇夜の蛍の異名通り、か……」
蛍「ふふっ……待ってて、ヒナタ……」
『――――見なかった事にしよう!』




