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黄昏の箱庭  作者: 天音凛
第一章・蛍~忘れること無かれ、君との思ひ出~
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小話.蛍2

黒蛍、降臨。

 封印の欠片を破壊して、取り戻した力と記憶に、僕は“嬉しい”という感情しかなかった。

 だけど目の前に居たヒナタは、感情が抜けたように動かなくなっていた。

 ――――いや、後ろを見てる。


 “連れて行かれる”


 何故かそう思った。

 必死でヒナタを揺すると、ビックリした表情で僕を見て、後ろに男が居たなんて言う。

 でも振り向いても誰も居ない。

 気配が全然無かったんだから、当たり前なんだけど……。

 ヒナタから少し離れてその場所の花を見る。


 ――――枯れてる。

 その場所だけ不自然に。

 しかもくっきりと人の足形の状態で……。


 ここには確かに居たらしい……花の命を終わらせる何かが。

 ……封印に、影響出ちゃったか。

 怒るだろうな、昴達……ヒナタも。


 案の定、ヒナタに怒られた。

 でも、やっぱり僕の心の中は“嬉しい”しかなかった。

 嬉しさのあまりヒナタを抱きしめる。


 ずっと会いたかった……。

 僕の記憶の中の大事な女の子。

 彼女との約束は山ほどしたけど、またもう1つ増えた。

 この世界から、解き放ってあげる。

 ――だからお願い、傍にいて。

 絶対に守る、もう一度約束するから……。


 ――。

 ――――。

 ――――――。


 ヒナタの風当たりが激しくなっちゃった。

 昴は何やら探ってくるし……でも、封印を解いたのにあんまり怒ってないね。

 ヒナタと何かあったと言うか、ヒナタ“で”何かあったかな……。

 ヒナタと会ってから、適度に距離を置いてたしね。

 試しにちょっと揺さぶる。

 ――――あれ……あんまり反応良くないな?

 朔と煌が来ちゃったし、また今度でいいか。


 ***


 煌に捕まって話している時だった。

 さっきまで、僕の話を間近で聞いていた煌の目付きが鋭くなる。


「――居やがる」


 煌の言葉に、横から吹いてくる風に神経を集中させる。

 風の中に僅かに、奈落の民の気配を感じた。

 ――その瞬間僕は、外からヒナタの部屋に走り出す。


「おい! 蛍!」


 昴の声がする。

 後ろから三人が追いかけて来るけど、待ってられない!

 何で気付かなかった!?

 封印を解く前なら、ほんの僅かでも分かったのに!


 ヒナタの部屋の窓が見えた。

 レースのカーテンが風になびいている。

 恐る恐る開いている窓から中を覗く。


「ヒナタ……さっき、約束したばかりなのに……」


 中はもぬけの殻。

 部屋の中には、僅かに奈落の民の気配が残っているだけ。

 今までは近付く奈落の気配を逃さなかった。

 ――――そんなの、人形だったから……余計な事考えないからだ。


 後ろから来た三人が追い付いて来た。

 僕の様子から察したようだ。


「攫われたか」

「まだ近くにいるかもしれません。追いましょう」

「……おい。蛍、大丈夫かよ?」


 煌が心配して声をかけてくれる。


 大丈夫、ヒナタの気配を追えばいい。

 彼女の気配は甘く僕を誘う。


『ホ、ホ、ホ~タル来い。こっちのみ~ずはあ~まいぞ~……』


 昔の思い出が甦る。

 ほら、大丈夫だ……彼女の気配を感じる。

 きっと、僕を待ってるんだ。


 嬉しい、嬉しいよヒナタ……僕はやっぱり封印を解いて良かった。


 ――――僕、凄く怒ってるから……。


「また1つ、心が戻った」


 ヒナタを攫うなんて、奪うなんて、絶対に許さない。


 きっと、僕の顔は酷いんだろうな……だって三人の顔色が良くない。

 でも、止められない。

 僕の頭の中は怒りでいっぱいなんだから――――。




煌「笑ってやがる……目をギラギラさせて……」

朔「あれは、狩る者の瞳です……」

昴「闇夜の蛍の異名通り、か……」

蛍「ふふっ……待ってて、ヒナタ……」


『――――見なかった事にしよう!』

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