転‐4.誘い
やっぱり、このキャラ好きだな……。
「ねぇ、聞いてる?」
「はっ!」
目の前に居る人物が現実なのか分からず、ボーッとしちゃった。
え、本物? 本物の――――。
「槐君ーーーー!」
「は?」
感動のあまり本能のまま、槐君目掛けて走り寄る。
槐君が呆気に取られたような声を出したけど、全然気にしない。
何だか凄く会いたかった気がしたからだ。
そのままギュッと――――!
“バシッ”といい音がした。
あれ、前に進めない? と言いますか、痛い。
「何、しようとしてるわけ?」
「イタタ……」
槐は抱き着こうとしたヒナタの頭を片手で押さえ、ギリギリと握る。
「ちょっ、加減して……痛い」
「アンタが馬鹿な事しないならね」
「分かったから! もうしないから! ついでに仮面の下も見えないかな~とかも、画策しないから!」
「……」
余計に“ギリギリ”と手に力が込められた。
何で!?
「はぁ、もういいよ。とにかく、抱き着かないで」
「うん、ごめん」
ヒナタが答えると、頭から手が離れていく。
怒られたけど、やっぱり落ち着くな~。
「アンタ何なの? ニヤニヤして気持ち悪い。それにいきなり抱き着こうとか、頭おかしくなった?」
「久しぶりに会ったのに槐君酷い。異世界初出会いに免じて許してくれてもいいのに」
「アンタやっぱりおかしいよ」
間を置く事なく槐君にズバッと言われて、私の心が傷付いた。
ヒナタがしょんぼりしていると、槐が居心地悪そうにソワソワし始めた。
「な、何? アンタ、僕が奈落の民って知ってるでしょ? だから、その僕に抱き着こうとしたのがおかしいって言ったんだよ! ……別に、アンタの全部が変って言ってないんだからな!?」
……槐君の手足がプルプルしてる。
何か、赤い?
「槐君?」
「アンタがらしくないからでしょ! 変な事言わせないでくれる!?」
「あぁ、デレだね~」
「――ムカつく」
そう言って槐の手がまた、ヒナタの頭に狙いを定めたかのように動く。
それに気付きヒナタは笑いながら避けた。
「ちょっ、バカみたい! 遊んでるみたいじゃん」
「ごめんって、槐君。……でも、ありがとう。何だか元気でたよ」
「――――何? 何かあったわけ?」
槐がヒナタを追いかけるのをやめ、気遣うように尋ねる。
「ううん、何でもない」
「ふーん……僕からみたら窓全開で不用心、だけど扱いは軽ーく軟禁みたいに見えるけど? 馴染んでないみたいだし」
いや、窓はさっきそこから出たからなんだけどね?
まぁ、言わないでいいか。
「確かに歓迎されてないけど、しょうがないよ。私が封印を壊す存在かもって思われてるから」
「……あぁ、あのバカのこと?」
「――えっと……誰?」
「赤髪」
あぁ、煌君か……バカって、槐君も煌君もどことなく似てるんだけどね。
言ったら怒るだろうけど。
「さっき、バカに最低な事言われてたしね。てっきりそれで落ち込んでるかと思ってたけど」
そういえば、最後は聞こえなかったんだよね。
「“殺っときゃよかった”とか、あり得ないんだけど」
「――へ?」
え? 煌君が言ったのってそれ?
「……何その“初めて聞きました”みたいな」
「だって、風で聞こえなかったから!」
凄く、悲しい。
歓迎されてないって分かってたけど、そこまでとは思わなかった。
俯いて動かないヒナタに、槐は近付き顔を覗き込む。
「まさか、泣いてる?」
「――泣いてないよ。ショックなだけ」
「ウソつき! そんな泣きそうな顔してさ! 調子狂うでしょ!?」
な、何だか槐君の方が大変そうだけど……。
“どうする? どうしたらいいわけ?”とか、ブツブツ言ってるし――あぁ、やっぱりどんな顔をしているか見たいなぁ~。
「……いいよ」
「いいの!? 顔見て!」
「ばっ!? そっちじゃない!」
――なんだ、一瞬私の心が読めたかと思ったよ……ん? “そっち”って、何?
「そっち?」
「ここをか、貸してあげるって言ってんの! やりたかったんでしょ? さっきはダメって言ったけど、今なら――今だけだから!」
“ここ”と槐が手を置いたのは胸であった。
――つまり、“胸を貸す”は“抱き着いていいよ”って事!?
「え、槐君ーーーー!」
「う、うわぁっっ! やっぱ、やめ――――!」
槐君の言葉を遮り胸に飛び込む。
突然だったから、槐君を押し倒すかと思ったけど、いざ抱き着くと何とか踏みとどまったようだ。
――女の子みたいに華奢だと思ったけど、男の子なんだな……。
「――っ! 今、失礼な事考えてたでしょ!?」
「……槐君、エスパーさんだったんだね~」
「何それ。そうやって……甘く見てると、痛い目みるよ――僕だって、男なんだ」
槐は抱き着かれてさまよっていた両手を、ヒナタの背中にぎこちなく回す。
「ふふっ、分かってるよ。槐君ありがとう、とっても暖かいよ」
「全然分かってないし……僕ばっかり暑いし!」
「え、離れる?」
“暑い”と言う槐にヒナタが離れようとすると、槐は背中に回した腕に力を込めた。
「槐君?」
「……ねぇ、今もあいつら僕がここに居る事気付いてないよ」
「分かるの?」
“コクリ”と頷く槐君の動きを感じる。
私の部屋に注意を向ける事がないからね……。
私から何処かに行くとは思ってないだろうし、そもそも昴さんは近付くなって言うし、朔さんも昴さんと同意見。
煌君は消えろって感じだし……。
別に居なくなっても……あ、ちょっと悲しくなってきた。
蛍は……封印を解いてから、笑顔が黒い。
私を何故かかなり大事にしてくれるけど、笑顔が黒い。
大事な事だから二回言う。
あぁ、だからかな……槐君の胸は癒しかもしれない。
「――――ない?」
「え?」
槐君の声が聞こえて、勢いよく顔を上げる。
考え事に夢中で、槐君の言葉を聞いてなかった。
「何キョトンとした顔してるわけ?」
「ごめん、槐君の胸が凄く安心出来て全然聞いてなかった!」
「ちょっ、バカじゃないの!?」
槐君は慌てたように、私の身体から手を放す。
“男として、どうなのそれ”とか言ってるけど、槐君独り言多いんだね。
「あぁ、もう! “僕の所に来ない?”って言ったの! 色々あるけど、ここよりマシでしょ!? 荻と椿は、近付けなきゃいいし――――」
え? 槐君と一緒に?
確かに、ここよりは……でも、全部が悲しい事ばかりじゃないし……。
それに万が一出て行ったら……鬼のような四人の顔が浮かぶ。
ヒナタが頭を抱えて悩んでいると、槐がヒナタに手を伸ばし、ふわりと抱き寄せる。
「槐君、あのね」
「いいよ、黙って。アンタは何も考えなくていいから――――このまま、攫われて」
そう言った槐君の身体はかなり暖かい。
槐君……悩む私の為に、言ってくれたんだね。
でも、耳元で囁かれるように言われて――――。
「槐君」
「何?」
「何だかすっごく、ドキドキするよ」
「……今、それ、無しだから!!」
槐君は仮面で見えない顔を隠すかのように、私を強く抱きしめていた。
次回、来ます。
――――闇夜で光る、蛍が。




