転‐3.亀裂
あくまで蛍の章です(汗)
洞窟を抜けると、入り口は元の形に戻り、岩でふさがってしまった。
「ヒナタ、この場所は内緒ね」
口許に人差し指を当て、ニッコリ蛍は笑う。
何やら蛍は凄く楽しそうであった。
ヒナタが頷くと、蛍は屋敷の玄関に歩き出す。
二人が玄関に近付くと、森の方からガサガサと音をたてながら昴が姿を現した。
昴は鉢合わせて驚いた様子だったが、直ぐに険しい表情になった。
「……蛍、失っていたモノは取り戻したのか?」
「全てじゃないけどね。力と、この世界での記憶は戻ってるよ」
「やけに落ち着いているな……一応聞くが、封印の記憶はあるのか?」
「それは無いかな。……やっぱり、封印に何か問題あったんだ。でも、今回の件で封印に何かあったんなら僕達は関係してたってことだね」
淡々と話す蛍と昴に、ヒナタはただ黙って聞いているだけしか出来ないでいた。
昴さんも蛍もだいたい何があったか把握してるみたい。それにしては、封印を解いた蛍を怒ってもいいはずなのに、昴さん怒ってないような……。
ヒナタがチラリと昴を見ると、昴も視線に気付きヒナタを見た。
その目は何かを探るような目付きである。
「……こいつは、何か関係してたか?」
昴がヒナタを見ながら蛍に尋ねた。
その言葉に蛍は微笑みながら首をかしげる。
「何で? ヒナタが喚ばれた存在だから?」
「……」
昴は黙ったまま、ヒナタを見つめる。
え? もしかして、封印に関係してるとか!?
でも、私はこの世界の人間じゃないし……。
焦りで昴から視線をそらしたヒナタを、蛍は自分の背に隠す。
「昴、いじめないで。ヒナタは関係ないよ」
蛍は昴を見ながらいつも通り微笑みながら続ける。
「それに、いいの? そんなに近付いて」
「は?」
蛍の言葉に昴は意味が分からず険しい顔をした。
「だって――――――」
蛍が話し出したとたん、森がまた騒がしくなる。
ガサガサと激しい音をたてながら、こちらに近付いて来るのが分かった。
「やっと追い付いたぜ! 待てよ陰険執事!」
「貴方は野生児ですか。速すぎませんか? そして、陰険じゃありませんが」
「うっせ!」
あ、朔さんと煌君だ。
三人の視線が森に移ると、二人が言い合いをしながら姿を現した。
「申し訳ありません昴様。道中、野生動物に会いまして……」
「オイ」
二人のコントに、昴はため息をつきながら蛍を見ると、“またね”と口許が動いた。
昴と蛍の不穏な空気に、今更ながら二人は気付いたようだ。
「何か、ありましたか?」
「……いや、何でもない。とりあえず、堕ち人が強くなった原因も分かったし、蛍は力を取り戻した。残りの補助封印は解かない方針だ」
「封印の解け方は色々みたいですから、何か思い出したら連絡しましょう」
「僕は、解いちゃったけどね」
蛍のあっけらかんとした言い方に、朔が“悪いと思ってませんね”と呆れており、昴は複雑な表情をしている。
そんな中、煌がヒナタに近付く。
「――結局封印は完全じゃ無くなっちまったし、いつ壊れるかわかんねぇけどな」
煌は真っ直ぐヒナタを見つめていた。
「お前の事、やっぱり――――」
突然風が吹き荒れ、煌の最後の言葉が掠れて聞き取りづらくなる。
しかし、煌の怒ったような瞳を見て、あまり良くない事を言われたのだと悟った。
「煌君……」
「お前、部屋から出んな」
それだけ言うと身を翻し、昴達の輪に入った。
また、煌君を怒らせたみたい……このままここに居ても邪魔みたいだし……部屋に戻ってようかな。
ヒナタは昴達の横を通り、玄関に向かった。
「あ、ヒナタ! 僕も行く――」
「てめぇは封印解いた時の事を話しやがれ!」
屋敷に戻るヒナタに気付き、蛍も行こうとしたが煌に止められる。
「イタタ……何でそんなに怒ってるの?」
「あったりまえだボケ! 勝手な事しやがって!」
「ごめん、ごめんって。……うぅっ、ヒナタごめんね? 僕、行けない」
「だ、大丈夫! 部屋に戻るだけだから!」
謝る蛍にヒナタは慌てて手を振り、そのまま玄関に駆け込んだ。
後ろから蛍の声が聞こえた気がしたが、扉を閉じてしまい、ズルズルとその場に座りこむ。
目の前には静まり返った玄関ホールが広がっている。
……もしかしたら煌君は、蛍の封印も私が関係してるって思ってるのかも。
凄く怒ってたな……。
それに、昴さんも何か言いたげだったし。
――――悩んでも分からないし、部屋に戻ろう。
ヒナタはトボトボと屋敷の一番奥に宛がわれた部屋に歩いていく。
ため息をつきながらドアを開けた時である。
何故か視界に若竹色の長い三つ編みが見えた。
開け放たれた窓から風が入り込み、ゆらゆら髪がゆれている。
窓際に居た人物がゆっくりと顔を上げた。
白い仮面を着けており、表情は分からない。
「――――不用心。アンタ、馬鹿でしょ?」
仮面の人物は呆れたような声を出した。
久しぶりの登場ですね~




