6話.呪
ちょいシリアス……
オレンジ色の光が差し込む、神秘的な竹林の中に屋敷はあった。
話し合いの為に設けられた部屋から庭が見え、松の木や池などがある。
とても落ち着ける環境だった――――部屋の中の空気が凍てついてなければ。
――さっきから誰も話さないし、煌君だけじゃなくて、昴さんや朔さんまでこっち見てるよ……冷たい目で。
いけない、ため息が。
「さて、ギスギスの空気も堪能したところで、話し合いを始めようかの」
「楽しむな、睡蓮」
昴は呆れ、その姿を見て睡蓮は軽やかに笑った。
「まぁ、ここからはちと真剣な話だからの……ヒナタ」
「は、はい!」
「……そなたには、そこの四人が住まう屋敷に居てもらう」
「え?」
『は?』
睡蓮の言葉に蛍を除く三人の声が重なる。
「何言ってんだよ!? 女と一緒とかありえねぇ!」
「煌、何ゆえそのように……はっ!? もしや邪な感情が――」
いち早く拒否した煌に睡蓮はわざとらしく疑いの目を向ける。
「――ばっ! 馬鹿かてめぇ! ちっげぇよ! 男の中に女一人とか、ないって言ってんだよ!」
煌は顔を真っ赤にして怒鳴る。
そんな煌に感心したように睡蓮は微笑んだ。
「そなたに、そのような気遣いが出来るとは知らんかったぞ。――ならば、安心だのぅ」
「何でそうなるんだ!?」
「――馬鹿が」
「さすが煌……愚の骨頂でございます」
「ぐっ……うっせ!」
上手く転がされている煌に追い討ちがかかり、そのまま煌はそっぽを向いて黙ってしまった。
うわぁ……また、八つ当たりされそうだし、ちょっと離れとこ。
睡蓮さんが悪い笑顔をしてるよ……。
「さて、昴と朔はどうかの?」
睡蓮は二人に話をふる。
「……奈落の奴等の動きがまだ分からない以上、この女から目を離さないようにする為、傍におくのは得策だろう。破滅の神に呼ばれたなら、封印の近くに居ない方がいいしな」
「睡蓮は結界と封印の方で大変でしょうし……私は昴様の判断に従います」
「――では、決まりだの」
え、明らかに私に拒否権は無かったよね? つまり――。
睡蓮はヒナタが考えている事を見越し、輝かしい笑顔をうかべる。
「つまり、守られつつも囚われの姫になるしかない……とな!」
「何かそれ、おかしいと思います!」
「拒否権は無しじゃ! はっはっはっ」
睡蓮さん……笑い事じゃありませんよー!
しかも、姫って……。
「ただし、条件がある。――俺の領域に入るな。関わるな。話しかけるな」
昴はヒナタを冷たく見据えながら言った。
二人の間に冷たい空気が流れる。
私、ここの人達と上手くやっていく自信が無い。
完全拒否だよこの人!
後ろにいる朔さんも深く頷いているし、煌君は無視の状態。
蛍さんは……池の鯉と戯れてる……そのまま池にダイブしないか心配だ。
「これ蛍! こっちに来て話に交ざらぬか」
睡蓮が声をかけるが、蛍は池の中に手を突っ込み、鯉を触り続けている。
「ダメじゃな……」
睡蓮は深いため息をつく。
そういえば、蛍さんって出逢いからしてインパクトが強かったなぁ……。
他の三人とは何かが違う。
「睡蓮さん、蛍さんっていつもあんな感じなんですか?」
「……呪だ」
「え?」
しゅ? 呪?
「呪われてる――とかですか?」
「そうじゃ」
「睡蓮、この女にそこまで話す必要は無い」
昴は嫌そうに話を遮った。
「ダメじゃ、話しておかんと問題があった時に対応できぬ」
睡蓮の言葉に昴は“チッ”と舌打ちをして黙る。
――何だか深刻な話かも。
ヒナタは座り直して背筋を伸ばした。
「我の一族は、元々神に仕えし者でな、封印と結界の力は血に受け継がれていたのだ。しかし、昴達四人は普通にこの世界に住まう者。力を得るには代償が必要でな……失ったのだ――何かを」
「分からないんですか?」
「そうじゃ、何を失ったか気付けなかった――蛍以外はな」
睡蓮は悲しそうに鯉を触っている蛍を見つめた。
“パシャパシャ”と水の音だけが響く。
「蛍だけが、他の者が気付くほどのものを失った」
「それは……」
「――――――心……じゃな」
心…その言葉を聞いた瞬間、私の中で蛍さんがどうして不自然に微笑んでいたのか理解した。
何度も同じ言葉を言ったり、人が消える事にたいして微笑みながらさようならと言ったり……。
――――全ての感情が欠落していたんだ。
「そこまでして力を得たが、感情が無いからの……滅多に守護の力を扱わぬ。ただ、顔に笑顔を貼り付け出逢えば“こんにちは”消えれば“さようなら”。命じれば動く時や、ああして意味の無い行動をする時もある」
水の音が響く中、そっぽを向いていた煌はチラリと蛍を見た。
「……この世界を守りたいっていう気持ちは、蛍が一番強かったはずだぜ。――だけど、その気持ちを全部無くしちまって、無駄になっちまった……」
「そんな……」
守りたくて力を得たのに、守れなくなるなんて……。
ヒナタが池の方に目を向けると、蛍は鯉を触りながら振り向く。
そのまま、冷たい微笑みをして動かなくなった。
睡蓮はため息を一つこぼす。
「――他の三人も何かを失っているのは確かじゃ」
「俺は問題無い。何かを失っていようが、充分な力は得たからな」
「……私も、問題ありません」
ん? 一瞬、朔さんの表情が乱れたような……気のせいかな――。
そう思っていると、後ろからボソリと声が聞こえた。
「俺も、問題ねぇけど……分かるなら……」
煌君は何を無くしたか気になってるみたい。
話が一段落ついたようで、睡蓮はスッと立ち上がり、“パンパン”と手を叩く。
「さて、湿っぽい話はおしまいじゃ! 昴、ヒナタを屋敷に案内するのだ」
「……朔」
「畏まりました」
朔は先に部屋を出ていく昴に一礼する。
その横を煌が蛍を引っ張りながら通り過ぎ、出ていった。
朔は軽くヒナタと視線を合わせ、部屋の出口に向かう。
付いてきなさいって感じかな。
「それじゃ、睡蓮さん失礼します」
「うむ。また、来るがよい」
「はい、ありがとうございます」
ヒナタも部屋を出ていった朔を追うため、出口に向かう。
「――そなたになら、分かるやもしれんな」
「え?」
小さな呟きに振り返った。
しかし、睡蓮は微笑んだまま手を振っている。
「さらばだ、ヒナタ」
軽く頭を下げて今度こそ部屋を出ていく。
――失った何か……もしかしたら、その人にとって一番大切なものだったのかもしれない。
蛍さんが失った大事な気持ち……。
たぶん他の三人も――――――――。
斜め前を歩く蛍は、煌に引っ張られながらも後ろにいるヒナタをじっと見つめていた。
“サワサワ”と竹を風が優しく撫でる。
五人は会話も無く、番人の屋敷に足を進めた――――。
次回予告
一つ屋根の下、共に過ごす事になったヒナタ。
不安感がつのる中、事態は一気に動く!
「ワタシハカミダ…」
謎の神降臨!? もしや、THE ENDの予感!?
どうなるヒナタ!
次回最終回! お楽しみに!
煌「嘘ついてんじゃねーー!!」
……すみません(笑)




