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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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第七十八話「夜の池で、ルミが水面から出た」

七十八話目です。


ルナが、夜に池に行こうと言っていました。今夜、行きます。


見たことのない場面が、見られるかもしれない。でも、見ようとして行くより、行ったら見えた、という形の方が、本物らしい。


では、どうぞ。

翌日の夕方、ルナが来た。


「今夜、池に行こう」


「昨夜、そう言っていましたね」


「覚えていた」


「覚えています」


「カナさんとミアさんも、来ますか」とルナが聞いた。


「声をかけてみましょう」


カナに聞いた。


「行きます」とカナは言った。即答だった。


「精霊の夜の様子を、記録したいです」とミアが言った。こちらも即答だった。


「全員で行きますね」


「シロも」とルナが言った。


シロが、耳を動かした。


「シロも、来ますか」


シロが尻尾を振った。


当然だ、という顔だった。


「じゃあ、全員で行きましょう」


「夜になったら、出発します」とルナが言った。


「夜というのは、どのくらいですか」


「星が出てから」


「分かりました」



夕食を終えた後、空を見た。


星が、出ていた。


「出ましたね」


ルナが、既に外に出ていた。


「待っていましたか」


「待っていた」とルナは言った。


「いつから」


「さっきから」


「さっきとは、どのくらいですか」


「星が出る前から」とルナは言った。


「待ちきれなかったんですね」


「そうです」


カナとミアが来た。


ミアが、記録帳と、小さな明かりを持っていた。


「準備がいいですね」とルナが言った。


「夜の記録は、明かりが必要です」とミアは言った。


「そうですね」


「ただし、明かりが強すぎると、精霊が驚くかもしれないです」


「どのくらいの明かりが良いですか」


「小さな明かりで、記録帳だけ見えれば十分です」


「持ってきた明かりは、ちょうど良いですか」


「ちょうど良いです。用意しておきました」


「ミアさん、準備がいつも良いですね」とルナが言った。


「記録係は、準備が仕事の半分です」とミアは言った。


「半分ですか」


「準備が整っていれば、いざというとき書ける。準備していなければ、大事な場面で書けないです」


「そういうものですか」


「そういうものです」


ルナが、また空を見た。


「行こう」


「行きましょう」



夜の森を、歩いた。


暗かった。


でも、星の光が木の間から差していた。


明かりを持っていたが、あまり必要なかった。


「夜の森、好きですか」とルナが聞いた。


「好きですね」と私は言った。


「どこが好きですか」


「静かなところです。昼間より、感じ取れることが増える気がします」


「なぜですか」


「音が少ないので、別のものが聞こえるようになります」


「別のもの、というのは」


「水の音とか、木が動く音とか、地面の下から来る何かとか。昼間は、色々な音に隠れていて気づかないものが、夜は聞こえます」


「私も、夜の方が感じ取れることがあります」とルナは言った。


「どんなことを感じ取りますか」


「池の精霊が、昼と夜で違う感じがします。昼は、活発です。夜は、深い感じがします」


「深い、というのは」


「なんか、広がっている感じ。池の中だけじゃなくて、もっと遠くまで広がっている感じ」


「精霊が、夜に広がる」


「そう感じます。気のせいかもしれないですが」


「記録に書いてありますか」とミアが聞いた。


「書いていないです。言葉にできていなかったから」


「今夜、観察して、書きましょう」とミアが言った。


「そうします」



池に着いた。


夜の池は、昼と違って見えた。


水面が、暗かった。


でも、暗い中に、光があった。


青い光だった。


「アオです」とルナが言った。


「いますね」


「昼より、光が強いです」


「そうですね。暗い分、光が目立ちます」


「でも、それだけじゃない気がします」とルナは言った。「本当に、強くなっているような気がします」


カナが、水面を見た。


「確かに、強いですね。昼に見たときより」


「夜の方が、精霊の力が強くなるんですか」とミアが書きながら言った。


「分からないですが、そう感じます」と私は言った。


「凪さんも、感じますか」


「感じます。力が、違います。同じアオですが、昼と夜で、少し違う」


ルナが、水辺にしゃがんだ。


「ルミは」


光が、一つだけだった。


「まだ来ていないですか」


「待ちます」とルナは言った。


全員で、静かに待った。


池が、静かだった。


虫の声が、周りから聞こえた。


風が少し吹いた。


水面が、揺れた。


揺れた水面の中に、小さな光が見えた。


「来ました」とルナが言った。小声で言った。


「そうですね」


ルミが、ゆっくり上がってきた。


昼より、動きが違った。


昼は、ぐるぐると動き回る。


夜は、ゆっくりと、真っ直ぐに上がってきた。


「動き方が違いますね」とカナが言った。


「そうです」とルナが言った。「昼と、違います」


「夜の方が、落ち着いた動き方ですね」


「深い感じ、というのは、こういうことかもしれないです」と私は言った。


「凪さんが言った、夜に感じ取れることが増える、と同じですか」


「そうかもしれないですね。ルミも、夜は深いところから動いている気がします」


ルミが、水面近くまで来た。


止まった。


水面から、少し顔が出た。


「出ています」とルナが言った。


「そうですね」


「昼より、もっと出ています」


「確かに、高いですね」


「夜の方が、出やすいのかもしれないです」


ミアが、書き続けていた。


「書けていますか」とルナが聞いた。


「書けています。小さな明かりで、なんとか見えます」


「何を書いていますか」


「ルミが夜に水面から出た高さ、動き方の違い、光の強さ、全部書いています」


「全部書けますか」


「全部は書けないですが、できる限り書きます」


ルミが、また少し高く出た。


今まで見た中で、一番高かった。


「今日、一番高いですね」とルナが言った。


「そうですね」


「なぜ今日が一番高いですか」


「分からないですが」


「ナギが帰ってきたから、ですか」とルナは言った。


「そうかもしれないですが、確かめる方法がないですね」


「記録で確かめます」とルナは言った。「また来ない日を作って、比べます」


「実験ですね」


「そうです」


カナが、少し笑った。


「ルナが、実験という言葉を自然に使うようになりましたね」


「カナさんに教わりました」


「教わって、使えるようになった。それが大事です」


「うん」とルナは言った。


ルミが、また高く出た。


今度は、水面から完全に顔が出た。


「出ました」とルナが叫んだ。


小声で叫んだ。


「完全に、出ましたね」


「全部、出ました」とルナは言った。「頭まで」


ルミが、水面の上で、光っていた。


青い光が、夜の空気の中で揺れていた。


全員が、動かなかった。


見ていた。


ミアが、書こうとして、止まった。


「書かないんですか」と私は聞いた。


「書きます。でも、少し、見たいです」


「そうですね」


ミアが、記録帳を持ったまま、ルミを見た。


全員で、ルミを見た。


ルミが、水面の上で、光り続けた。


アオが、下で見ていた。


親が子どもを見守るように、静かに下から見ていた。


「アオが、見ています」とルナが言った。


「そうですね」


「なんか、誇らしそうです」


「誇らしそうですね」


「子どもが、初めて一人で何かをしたとき、親はそういう顔をするのかもしれないですね」


「そうですね」


ルナが、水面を見た。


「私も、こういう顔をされたことがありますか」


「どういう意味ですか」


「私が何かを初めてしたとき、ガルじいちゃんとかナギが、こういう顔をしていましたか」


少し考えた。


「していたと思います」


「どんなときですか」


「ルナが、初めて精霊と指が触れたとき。初めて、集落の状態を数字で言ったとき。初めて、カナさんの記録に指摘をしたとき」


「全部、初めてのことですね」


「初めてのことが、一番誇らしいです」


ルナが、またルミを見た。


「ルミ、初めてだね、今日が」


ルミが、光を強くした。


返事のような光だった。


「聞こえていますね」とルナは言った。


「聞こえていると思います」


「やっぱり、全部つながっているんだ」



しばらくして、ルミが水に戻った。


ゆっくりと、沈んでいった。


アオの横に、戻った。


「戻りましたね」


「戻りました」とルナは言った。


「満足しましたか」


「しました。見られて、良かったです」


「良かったですね」


「ミアさん、記録できましたか」とルナが聞いた。


「できました」とミアは言った。「ルミが水面から完全に出た時刻、高さ、光の強さ、アオの動き、全員の反応、書きました」


「全員の反応まで書いたんですか」


「書きました。ミアも、しばらく書くのを止めて見ていた、と書きました」


「自分のことも書くんですか」


「書きます。記録者が何を感じたかも、大事な記録です」


「そうですか」


「そうです。記録者が動かされたことが、その場面が大事だった証拠になります」


ルナが、少し考えた。


「じゃあ、私が叫んだことも、書きましたか」


「書きました。ルナが、出ました、と小声で叫んだ、と」


ルナが、少し照れた。


「小声で叫んだ、というのが正しい表現ですか」


「正しいと思います。叫んでいましたが、小声でした」


「そういう記録の仕方、好きです」とルナは言った。


「どういう意味ですか」


「正確に書く。実際にそうだったことを、そのまま書く。小声で叫んだ、という矛盾しているような言葉でも、実際がそうだったなら、そう書く」


「そうです」とミアは言った。「正確に書くことが、記録の命です」


「カナさんに、教わりましたか」


「教わりました。カナさんから教わって、私が使っている。ルナさんに伝わった。つながっていますね」


「全部つながってる」とルナは言った。


また言った。


でも、今夜は特に、本当だった。



帰り道、ルナが言った。


「来て、良かった」


「そうですね」


「昼間だけじゃ、見られなかったものが見られました」


「そうですね」


「夜にも、来よう。また来よう」


「来ましょう」


「カナさんとミアさんも、また来る?」


「来ます」とカナは言った。


「来ます」とミアは言った。


「よし」とルナは言った。


「四人と一頭で、また来ましょう」


「また来ます」


シロが、尻尾を振った。


森の夜道を、歩いた。


星が、木の間から見えた。


「今夜、見られたものを、記録しておきます」とルナが言った。


「夜に書くんですか」


「書きます。書かないと、忘れるかもしれないから」


「そうですね」


「ルミが水面から完全に出た日、と書きます。それが、一番大事なことだから」


「良い記録になりますね」


「なります」とルナは言った。確信を持って言った。


集落の明かりが、遠くに見えてきた。


ガルが、まだ起きているようだった。


「ガルじいちゃん、待っていてくれているんだ」とルナが言った。


「そうですね」


「毎回、待っていてくれる」


「そうですね」


「嬉しい」とルナは言った。


シンプルに言った。


「そうですね」


「全部が、嬉しいです」とカナが言った。


「そうですね」とミアが言った。


四人と一頭で、集落に帰った。


今夜は、帰ってきた後も、良い夜だった。

七十八話目、書きました。


「夜の精霊」を見る場面を書きたかった話でした。昼と夜で、精霊の様子が違う。ルミが夜の方が高く出てくる。水面から完全に出た。これが、この話の一番の場面でした。


「書こうとして、止まった」というミアの場面。記録係が、書くことより見ることを優先した。でも後で「記録者が動かされたことが、その場面が大事だった証拠になる」と言った。書き続けることが仕事でも、見ることをやめられない場面がある。それを正直に書いたミアが、今回一番良かったです。


「小声で叫んだ」という記録の表現。矛盾しているように見えて、正確に実態を表している。ルナが「そういう記録の仕方が好き」と言った場面は、ルナが記録の本質を理解してきていることを示していました。


「ルミが完全に出た日」という記録を、夜に書くと決めたルナ。書かないと忘れるかもしれないから。記録を続けることで、忘れないようにする。これが、記録の最初の動機です。難しい理由ではなく、忘れたくないから書く。それで十分でした。


次話も、第四部の続きです。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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