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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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第七十六話「帰り道に、ルナから二通来た」

七十六話目です。


エルドを出発して、帰り道の話です。


今回は帰り道に、二通の手紙が来ます。一通は、予想していた手紙。もう一通は、予想していなかった手紙でした。


では、どうぞ。

エルドを出発したのは、翌朝だった。


ルースが、見送りに来た。


クレスも来た。


「また来てください」とクレスが言った。


「来ます」


「川の記録を、続けておきます。来たとき、見てもらえますか」


「見ます。楽しみにしています」


「楽しみにしてもらえると、続けやすいです」とクレスは言った。


「続けてください。その記録が、次の問題を早く見つける助けになります」


「分かりました」


マルが、後ろにいた。


「遠いところから来てくれて、ありがとうございました」


「来て、良かったです」


「また来てください。今度は、作物が実った頃に来てくれれば、持って帰ってもらえます」


「来年の秋に、来ます」


「言い切りましたね」とルースが言った。


「秋なら、言い切れます。気になることが、また出てくるかもしれないですし、マルさんの作物も気になります」


「作物が気になるんですか」とマルが言った。


「川が落ち着いた後の、最初の収穫が気になります」


マルが、少し笑った。


「来年の秋、待っています」


「待っていてください」



歩き始めて、二時間ほどして、ラグル族が一頭来た。


「連絡ですか」


ラグル族が、布を二枚、咥えていた。


「二通ありますか」


両方受け取った。


一通目を開いた。


ルナからだった。


「ナギへ。私はルナです。今日、ルミが初めて水面から顔を出しました。ほんの少しだったけど、出ました。ミアさんが記録しました。私は、すごく嬉しかったです。でも、なんか泣きたくもなりました。なんでか分かりません。ガルじいちゃんに話したら、嬉しいことでも泣くことがある、と言ってくれました。そういうものだと思います。シロに伝えてください。ルミが水面に出たこと。シロも知りたいと思うから。早く帰ってきて。石、持っています。ルナより」


「ルミが、水面に出たんですね」とシロに言った。


シロが、大きく尻尾を振った。


「知りたかったですか」


また振った。


「ルナが、伝えてほしいと書いていました」


シロが、また振った。


「嬉しいですね、シロも」


また振った。


「帰ったら、一緒に見に行きましょう」


シロが、さらに速くなった。


「急ぎますか」


振り返らなかった。


急ぐ、という後ろ姿だった。



二通目を開いた。


ルナではなかった。


カナからだった。


「凪さんへ。カナです。エルドでの調査、うまくいっていますか。集落は、引き続き安定しています。数字でいうと、二十七になりました。私が感じた限りでは、そのくらいです。凪さんに確認してほしいですが、おそらく合っています。それと、一つ報告があります。ルナが、先週から私に記録の指摘をするようになりました。この書き方だと、後で読む人に分かりにくい、と言ってきます。最初は驚きましたが、確かに合っていることが多いです。ルナの観察眼が、記録の評価にも使えるようになっています。良い変化だと思います。もう一つ。ミアが、精霊の記録帳を別に作り始めました。アオとルミの記録専用の帳面です。ルナが毎日話してくれることを、ミアが書いています。かなり詳しい記録になっています。これも、良い変化です。早く帰ってきてください。カナより」


「カナさんから、ですか」とシロに言った。


シロが耳を動かした。


「集落が、二十七になっているそうです」


また動いた。


「カナさんが、感じ取れるようになっていますね」


また動いた。


「それと、ルナがカナさんの記録に指摘をするようになったそうです」


シロが尻尾を振った。


「ルナらしいですね」


また振った。


「ミアさんが、精霊の記録帳を作ったそうです」


また振った。


「全部が、良い方向に動いていますね」


シロが、速くなった。


「帰りたいですか」


振り返らなかった。


「分かりました、急ぎましょう」



昼過ぎ、山道に入った。


歩きながら、二通の手紙を、また読んだ。


ルナの手紙は、短かったが、大事なことが詰まっていた。


ルミが水面に出た。嬉しくて泣きたくなった。ガルじいちゃんに話した。


「ルナが、感情を人に話せるようになっていますね」とシロに言った。


シロが耳を動かした。


「最初の頃は、感情を出しながらも、うまく言葉にできていなかったです。今は、嬉しくて泣きたくなった理由が分からない、と言えます。感情を、言葉で表せるようになっています」


シロが尻尾を振った。


「ガルさんに話した、というのも大きいです。ガルさんは最初、感情を表に出さない方でした。今は、ルナが話しかけられる存在になっています」


また振った。


「集落が変わっていますね。二十七になっているだけではなく、人の間の空気も変わっています」


シロが、私を見た。


「凪さんが来たから、と言いたいですか」


シロが尻尾を振った。


「受け取ります。少しはやりました」


また振った。


「でも、みんながやりました」


シロが、また前を向いた。


「両方、本当のことです。それで良いですね」


シロが耳を動かした。


そうだ、という感じだった。



夕方、野営の準備をしながら、返事を書いた。


ルナへの手紙を書いた。


「ルナへ。ルミが水面に出たこと、シロに伝えました。シロは、大きく尻尾を振りました。喜んでいると思います。嬉しくて泣きたくなること、私も分かります。大事なことが起きたとき、そういう気持ちになることがあります。それは、大事に思っている証拠だと思います。エルドの川が、落ち着きました。岩が原因でした。ゴルさんと一緒に、動かしました。帰ります。石を持っています。凪より」


カナへの手紙も書いた。


「カナさんへ。エルドの川の問題が解決しました。岩を動かしました。詳しくは帰ってから話します。集落が二十七になっているとのこと、カナさんが感じ取れるようになっていますね。それと、ルナが記録に指摘をするようになったこと、嬉しいです。ルナらしいですね。ミアさんの精霊記録帳も、良いと思います。帰ったら、ルミが水面に出た記録も見せてください。楽しみにしています。凪より」


二通を、ラグル族に渡した。


「お願いします」


ラグル族が、走り始めた。


夜の山道に、消えていった。


「手紙が、先に着きますね」とシロに言った。


シロが尻尾を振った。


「私より先に、着きます。ルナが読む頃、私はまだ山の中です」


また振った。


「でも、帰ります。遅れるかもしれないですが、帰ります」


また振った。


「三日で、着けますか」


シロが、少し考えるような顔をした。


「走れば、二日で着けますか」


シロが、腰を低くした。


乗れ、という意味だった。


「二日で帰れますか」


シロが、立ち上がった。


行こう、という顔だった。


「今夜は、休みますよ」


シロが、また腰を低くした。


「今夜は、休みます。明日の朝から、走りましょう」


シロが、また立ち上がった。


分かった、という顔だった。


「ありがとうございます」


火を起こした。


夜の山が、静かだった。


エルドの川が、今頃、静かに流れているはずだった。


マルが、久しぶりに心配せずに眠っているかもしれなかった。


クレスが、今日の川の記録を書いているかもしれなかった。


集落では、ルナが手紙を待っているかもしれなかった。


全部が、動いていた。


「帰ります」と火に向かって言った。


火が、揺れた。


返事のような揺れ方だった。


「明日、走ります」


シロが、横で丸くなっていた。


耳だけ、動いた。


聞こえている、という意味だった。


「おやすみなさい、シロ」


シロが、尻尾を一度だけ振った。


おやすみ、という意味だった。

七十六話目、書きました。


二通の手紙が来る、という構成にしました。ルナからの手紙は、ルミが水面に出た、という個人的な話。カナからの手紙は、集落の状態と変化の報告。二つを重ねることで、凪がいない間に集落がどう動いていたかが、立体的に見えます。


「嬉しくて泣きたくなった理由が分からない」というルナの言葉。感情を言葉にしようとしている。それ自体が成長です。そして、ガルに話した、というのも大きな変化でした。


「ルナが記録に指摘をするようになった」というカナの報告。ルナが、記録係を評価できるほどの目を持つようになった。教えた覚えはないのに、毎日続けていたら育っていた。


「集落が二十七になっている、カナが感じ取れた」という場面。カナが三週間、毎日触れ続けた結果です。感じ取る目が、育っていました。


「火が揺れた、返事のような揺れ方だった」という描写。自然の全部が、つながって応えてくれる感覚。凪の世界の見え方が、こういう小さな描写に出ています。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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