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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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第七十五話「マルが、息子を連れてきた」

七十五話目です。


ゴルが帰った翌日の話です。川が安定してきた頃、マルがまた来ました。今度は、一人ではありませんでした。


問題が解決した後に、何が残るか。その話です。


では、どうぞ。

ゴルが帰った翌朝、川を見に行った。


水位が、昨日より安定していた。


流れが、穏やかだった。


「良くなっていますね」とルースが言った。


「そうです。あと数日で、完全に安定すると思います」


「ヴァンたちに、確認してもらいます」


「お願いします」


ヴァンが、川の測定をしていた。


数値を見ながら、記録帳に書いていた。


「ルースさんの影響ですか」と私は聞いた。


「何がですか」


「ヴァンさんが、記録帳を使っています」


「そうですね」とルースは言った。「エン山の調査で、カナさんとミアさんが記録しているのを見てから、私も記録するようになりました。ヴァンには、私が影響を与えました」


「つながっていますね」


「カナさんとミアさんから私へ、私からヴァンへ。記録の習慣が、広がっていますね」


「広がるものは、続きます」


「そうですね」



昼前に、マルが来た。


今日は、若い男性を連れていた。


三十代くらいだった。


マルに似た顔だった。


「息子のクレスです」とマルは言った。


「凪です。よろしくお願いします」


クレスが、頭を下げた。


「昨日、父から話を聞きました。川が落ち着いたと」


「そうです。まだ完全ではないですが、安定してきました」


「本当に、岩が原因だったんですか」


「そうです。上流の岩の下に、空洞があって、川が部分的にせき止められていました。岩を動かしたら、流れが変わりました」


クレスが、川を見た。


「三年間、ずっと不安でした」


「そうでしたね」


「父が毎年、被害に遭うのを見ていました。原因が分からないまま、対処できないまま、三年が過ぎました」


「そうでしたね」


「なぜ、エルドに来てくれたんですか」とクレスが聞いた。


「気になったので」


「気になった、だけですか」


「そうです。川が変動していると聞いて、気になりました。気になれば、来ます」


クレスが、私を見た。


「変わった方ですね」


「よく言われます」


「でも」とクレスは言った。「変わった人が来てくれて、良かったです」


「そうですか」


「普通の人は、ここまで来ません。エルドは、辺鄙な場所です。遠いです。それでも来てくれた」


「気になることがあれば、遠くても来ます」


クレスが、少し考えた。


「一つ、聞いていいですか」


「どうぞ」


「これから、また同じことが起きたら、どうすればいいですか」


「どういう意味ですか」


「岩が原因だったなら、また別の岩が問題になるかもしれないです。そのとき、またここまで来てもらえますか」


「来ます」


「本当に」


「本当に」


クレスが、父のマルを見た。


マルが、頷いた。


「ただし」と私は言った。


「ただし?」


「来てもらうだけでは、続かないです」


「どういう意味ですか」


「私が来て、解決して、帰る。また問題が起きたとき、また呼ぶ。それだと、繰り返すだけです」


「では、どうすればいいですか」


「川を、普段から見ていてください。変化に気づけるようになれば、早く対処できます。大きな問題になる前に、小さな問題として発見できます」


「川を、見る」


「毎日見なくていいです。でも、週に一度でも、川の状態を確認する習慣があれば、変化に気づけます」


「どう見ればいいですか」


「水の色と、流れの速さと、水位です。その三つを、同じ場所で確認します。いつもと違う、と感じたとき、記録してください」


「記録ですか」


「ルースさんが、教えてくれます。記録の仕方を」


ルースが、横で聞いていた。


「教えます」とルースは言った。


「ルースさんに、習ってください」


クレスが、ルースを見た。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」とルースは言った。「難しくないです。書くだけです」



その日の午後、ルースがクレスに記録の仕方を教え始めた。


私は、少し離れた場所から見ていた。


ルースが、記録帳を開いていた。


クレスが、隣で聞いていた。


「何を書けばいいですか」とクレスが聞いていた。


「見たこと、感じたこと、それだけです」とルースが言っていた。「難しい言葉は、いらないです。今日の川は、いつもより色が澄んでいた。それだけでいいです」


「それだけでいいんですか」


「それだけで、十分です。毎日続ければ、変化が分かります」


「続けられますか、私に」


「クレスさんが、農地を毎日見ているのと、同じです。農地の変化に気づくように、川の変化に気づく。やっていることは、同じです」


クレスが、少し考えた。


「農地なら、毎日見ています」


「川も、農地と同じように見てください」


「農地と川は、つながっていますか」


「つながっています」とルースは言った。「川の水が農地に届いて、農地が育ちます。川が変わると、農地が変わります。どちらかだけを見ていても、全体は分かりません」


「両方、見ればいいですか」


「両方、見てください」


クレスが、記録帳に書き始めた。


「最初に、今日の日付を書きます」とルースが言った。


「書きました」


「次に、川の色を書きます。今日は、どんな色ですか」


クレスが、川を見た。


「少し、青い感じです」


「書いてください。少し青い、で十分です」


「書きました」


「次は、流れの速さです。いつもより速いですか、遅いですか」


「普通、だと思います」


「普通、と書いてください」


「書きました」


「最後に、水位です。いつもと比べて、高いですか、低いですか」


「少し、低い気がします」


「低い、と書いてください」


「書きました」


「今日の記録、完成です」


クレスが、記録帳を見た。


「短いですね」


「短くていいです」とルースは言った。「長く書こうとすると、続かなくなります。短くていいから、毎日続けることが大事です」


「そうですか」


「一年続ければ、去年の今頃はどうだったか、比べられます。三年続ければ、傾向が分かります」


「三年続けれ、ですか」


「三年続けてほしいですが、まずは一週間です。一週間続いたら、一か月を目指します」


「少しずつですね」


「そうです」



夕方、マルが私に話しかけてきた。


「息子が、記録を始めました」


「そうですね。見ていました」


「あの子は、頑固です。一度始めたら、続けます」


「そうですか」


「農地の管理も、誰よりも続けています。雨が降っても、暑くても、毎日確認しています」


「良い農民になりますね」


「なっています。でも、川のことは、分からなかった。どう向き合えばいいか、分からなかった」


「難しいですよ、川は」


「でも、今日、始めました。ルースさんが、教えてくれた」


「ルースさんが、良い教え方をしますね」


「そうですね。難しくない、短くていい、毎日続けることが大事。そう言ってくれました」


「カナさんとミアさんから、ルースさんが学んだことですね」


「カナさんたちというのは」


「アルドの記録係です。エン山の調査で、一緒に動きました。ルースさんが、記録する習慣を、カナさんたちから学びました」


「そうですか」


「全部がつながっています」


「そうですね」とマルは言った。「川も、農地も、人も、つながっていますね」


「そうです」


マルが、川を見た。


「凪さん、一つだけ聞いてもいいですか」


「なんですか」


「なぜ、こんなに遠いところまで来てくれたんですか。エルドは、アルドからも、セルドからも、遠いです」


「気になったので」


「川が変動していることが、気になったんですか」


「そうです。ルースさんから話を聞いて、気になりました」


「それだけですか」


少し考えた。


「それと、農民が困っていると聞いたからです」


「農民が困っているから」


「困っている人が、諦めていないとき、一番気になります」


「諦めていないと、思いますか、私たちが」


「思います。三年間、被害に遭いながら、農地を続けていました。諦めたら、やめています」


マルが、少し黙った。


「諦めていませんでした。でも、正直、もう少しで諦めていたかもしれないです」


「そうですか」


「三年目が、一番きつかったです。息子に、農地を継がせるべきか、迷っていました」


「迷っていたんですね」


「迷っていました。でも、来てくれました。来てくれた日に、まだやれると思いました」


「来て、良かったです」


「来てくれて、良かったです」


マルが、また川を見た。


「来年の春、農地に水が引けると思います。久しぶりに、心配せずに種を蒔けます」


「そうですね」


「息子が、記録を続けてくれれば、早く変化に気づけます」


「続けてくれると思います」


「続けます、と言っていました。あの子が言い切ったら、続けます」


「そうですね」


「凪さんも、言い切る人ですか」


「最近、言い切るようにしています」


「誰かに教わりましたか」


「色々な人から、少しずつ」


「どんな人たちですか」


「ルナという子と、ガレス王と、カナさんと。全員から、少しずつ」


「色々な人とつながっているんですね」


「そうです。全部がつながっています」


「良い言葉ですね」とマルは言った。「農民も、そうです。水とつながって、土とつながって、種とつながって、空とつながって。全部とつながって、やっと作物が育ちます」


「農民の言葉の方が、深いですね」


「長年、やっているので」とマルは言った。


「そうですね」



夜、ルースが来た。


「凪さん、一つ報告があります」


「なんですか」


「クレスさんが、今日の記録を書き終えた後、明日も書く、と言っていました」


「そうですか」


「始めた日に、明日も続けると言った。それが、一番良い兆候です」


「そうですね」


「カナさんが言っていました。続けることを決めた人と、とりあえず続けている人では、記録の質が違う、と」


「カナさんらしい言葉ですね」


「クレスさんは、続けることを決めた人だと思います」


「そうですね」


「記録が、エルドに根付き始めました」


「ルースさんが、伝えてくれたおかげです」


「きっかけを作っただけです」とルースは言った。


「今、私が言いそうなことを言いましたね」


「そうですか」とルースは言った。「凪さんと一緒にいると、そういう言い方になってきます」


「影響しましたか、私が」


「しました。気になることに向かう人と一緒にいると、気になることが増えます」


「それは、良いことですか」


「良いことです。気になることが増えると、動けることが増えます」


「全部つながっていますね」


「そうですね」とルースは言った。笑いながら言った。


シロが、川の方を見ていた。


夜の川が、静かに流れていた。


三年間、暴れていた川が、今夜は静かだった。


「マルさんが、久しぶりに心配せずに眠れるかもしれないですね」


シロが尻尾を振った。


「良かったです」


また振った。


「帰りましょう、そろそろ」


また振った。


「ルナが待っています」


シロが、速くなった。


「今夜は、まだ帰れないですよ」


シロが止まった。


「明日の朝、出発します」


シロが、また尻尾を振った。


明日が待ち遠しい、という感じの振り方だった。

七十五話目、書きました。


クレスという新しいキャラクターを出しました。息子が記録を始める、という場面が、この話の核心です。「解決して終わり」ではなく、「続けていける仕組みを残す」という凪のやり方が、ここでも出ました。


「農地なら毎日見ています。川も農地と同じように見てください」というルースの教え方。難しいことを、知っていることに例える。これは、凪が集落でルナに教えたときと同じ発想でした。


マルの「来てくれた日に、まだやれると思いました」という言葉。諦めかけていた人が、誰かが来たことで持ち直した。凪が来た、ということ自体が、変化の一つだった場面でした。


「農民も、全部とつながって、やっと作物が育ちます」というマルの言葉。凪の「全部つながっています」を、農民の視点から言い直した場面でした。農民が、一番深くつながりを知っているかもしれないです。


ルースが「きっかけを作っただけです」と言った場面。凪の言い方が、ルースにも伝わっていた。全部がつながっていく、という物語のテーマが、こういう小さな場面にも出ています。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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