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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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2/20

第七十二話「一晩中、岩を支えていた」

七十二話目です。


夜通し、力を使い続ける話です。


魔王の力にも、限界があります。限界まで使い続けるとき、何が見えるか。何を考えるか。


静かで、でも内側で大きなことが起きている話です。


では、どうぞ。

夕方になった。


岩は、まだ動いていた。


でも、私が力を送り続けている間は、落ちなかった。


ルースが、火を起こしてくれた。


「食事を作ります」とルースは言った。


「ありがとうございます」


「手は、離せますか」


「少しの間なら、離せます。でも、あまり長くは」


「では、食べる間だけ離してください」


「分かりました」


干し肉と、乾燥した野菜を煮たものが出来た。


手を離した。


岩が、少し動いた。


速くなった。


「急いで食べます」


かき込むように食べた。


「ゆっくり食べてください」とルースは言った。


「急いだ方がいいです」


「体が心配です」


「今は、岩の方が心配です」


食べ終えて、また地面に手を当てた。


力を送り込んだ。


岩が、また落ち着いた。


「戻りました」


「ありがとうございます」とルースは言った。「私の分の食事も、食べてください」


「いいんですか」


「私は、もう少し持っていますから。凪さんは、力を使い続けているから、食べた方がいいです」


「ありがとうございます」


ルースの分も食べた。


シロが、横で見ていた。


「シロも、食べてください」


シロが、ルースから干し肉をもらった。


食べた。


「ありがとうございます、ルースさん」


「シロさんは、食欲がありますね」


「シロは、食欲があります。それが、元気の証拠です」


シロが、尻尾を振った。



夜になった。


山の夜は、暗かった。


星が、木の間から見えた。


火の明かりが、揺れていた。


ルースが、記録帳に書き続けていた。


「何を書いているんですか」とルースに聞いた。


「今夜のことを、全部書いています。岩の状態、凪さんの様子、時間ごとの変化」


「私の様子を、書いているんですか」


「そうです。何時に力を送り始めたか、何時に食事を取ったか、表情がどう変わったか」


「表情まで記録するんですか」


「重要です。体の状態が、顔に出ます。疲れているとき、集中しているとき、限界に近いとき、表情が違います。それを記録しておけば、次に同じことが起きたとき、参考になります」


「次に同じことが起きるとは思えないですが」


「思えなくても、記録しておきます。思わぬところで役に立つことがあります」


「そうですね」


力を送り続けながら、話した。


「ルースさんは、記録係ではないですよね」


「地質調査員です」


「でも、記録の仕方が、カナさんやミアさんに似ています」


「影響を受けたと言いました。エン山での調査のとき、ミアさんが書く様子を見ていて、学びました」


「一度見ただけで、変わりましたか」


「一度見て、良いと思ったものは、取り入れます。それだけです」


「そういう人が、強いですね」


「どういう意味ですか」


「良いと思ったものを、すぐに取り入れられる人は、成長が速いです」


「凪さんも、そうですか」


「私は、気になることに向かうだけです。取り入れるというより、気になったら試す、という感じです」


「気になったら試す、か」とルースは言った。「記録してもいいですか、その言葉を」


「どうぞ」


ルースが、書いた。



夜中の二時頃、地鳴りが大きくなった。


岩が、急に力強く動こうとした。


「来ました」


力を、より強く送り込んだ。


汗が、額から落ちた。


「大丈夫ですか」とルースが立ち上がった。


「大丈夫です。ただ、力がいります」


岩が、唸るような音を立てた。


シロが、立ち上がった。


「シロ、大丈夫です」


シロが、私の横に来た。


体を、私の背中に当てた。


支えてくれていた。


「ありがとうございます」


力を送り続けた。


岩の唸りが、少し収まった。


「収まりました」


「岩が、どうなりましたか」とルースが聞いた。


「空洞が、少し変わりました。岩が動こうとした力で、空洞の形が少し変わりました」


「変わると、どうなりますか」


「予測が、変わります。今まで想定していた落ち方と、違う落ち方をするかもしれないです」


「それは、危険ですか」


「危険な方向に変わった可能性があります。明日、技術者と一緒に確認します」


「今夜、また大きな動きが来ると思いますか」


「来るかもしれないです。さっきの動きは、前触れだった可能性があります」


「前触れ、ということは、本番が来ますか」


「可能性があります」


ルースが、少し固まった。


「明日の朝まで、持ちますか」


「持たせます」と私は言った。


「さっきより、顔色が悪いですよ」


「そうですか」


「疲れています」


「疲れています。でも、続けます」


「無理しないでください」とルースは言った。


「無理を、していますが、限界ではないです」


「限界を超えると、どうなりますか」


「倒れます」


「倒れたら、岩は」


「落ちます」


「では、倒れるわけにはいかないですね」


「そうです」


「どうすれば、倒れないですか」


「話し続けることが、助けになります。意識が保てます」


「では、話します」とルースは言った。


「ありがとうございます」


「何を話しますか」


「エルドのことを、教えてください。川以外のことを」



ルースが、話し始めた。


エルドは、農業の国だった。


川が多くて、水が豊かで、作物が育ちやすかった。


でも、三年前から川が変動し始めて、農地が不安定になった。


農民が、不安になっている。


「農民の名前を、知っていますか」と私は聞いた。


「何人か、知っています」


「教えてください」


「なぜですか」


「名前を知ると、気になります。気になると、助けたくなります」


ルースが、少し考えた。


「マルという、六十代の農民がいます。代々、川のそばで作物を育ててきた家です。三年前から、毎年被害が出ています」


「マルさんが、一番困っているんですか」


「そうかもしれないです。川が上がるたびに、農地が水没します。下がると、水不足になります。その繰り返しで、疲弊しています」


「ダンさんに似ていますね」


「ダンというのは」


「アルドで会った農民です。水路が戻ったとき、水が来るのが遅すぎた、と怒っていた人です」


「怒っていたんですか」


「でも、怒りながら、記録に協力してくれました」


「ダンさんも、マルさんも、諦めていない人ですね」


「諦めない人が、困っているときが、一番気になります」


「なぜですか」


「諦めた人は、変わりにくいです。諦めていない人は、何かが変われば動けます。だから、助けたくなります」


「それが、凪さんの動く理由ですか」


「一つの理由です」


「面白い人ですね」とルースは言った。


「よく言われます」


「変な人、とも言われますか」


「よく言われます」


「そうですね」とルースは言った。「変な人の方が、こういうことは動けます」


「センさんも同じことを言っていました」


「センというのは」


「アルドの人です。ベルクさんの仲間です」


「ベルクさんとは、どんな人ですか」とルースは聞いた。


「記録が、最終目的の人です」


「記録が目的」


「記録が残れば、誰かが動ける。それが、ベルクさんの動く理由です」


「私も、似ているかもしれないです」


「そうですね」


「記録が残れば、次の人が同じ間違いをしなくて済む。それが、私が記録する理由です」


「全部つながっていますね」


「そうですね」とルースは言った。「つながっていますね、本当に」



夜明けの一時間前、また地鳴りがした。


今度は、大きかった。


「来ました」


力を、全力で送り込んだ。


今夜、一番大きな力を使った。


岩が、唸った。


ルースが、立ち上がった。


シロが、また背中を当ててきた。


「ありがとうございます、シロ」


岩の動きが、激しくなった。


「落ちそうですか」とルースが叫んだ。


「落ちません。今は」


「今は、ということは」


「今夜は、落とさない。それだけが、約束できることです」


岩が、また唸った。


力が、限界に近づいていた。


「持ちますか」


「持ちます」


「顔色が」


「見ないでください。気にすると、集中が切れます」


ルースが、黙った。


書き続けた。


シロが、背中をさらに強く当ててきた。


「シロ、重いですが、ありがとうございます」


シロが、動かなかった。


離れない、という意思だった。


「分かりました、一緒にいてください」


力を送り続けた。


岩の動きが、また少し収まった。


「収まりました」


息が、上がっていた。


「大丈夫ですか」とルースが聞いた。


「大丈夫です。疲れましたが、倒れていないです」


「あと、一時間です。夜明けが来れば、技術者も来ます」


「一時間、持ちます」


「言い切りましたね」


「一時間だけは、言い切れます」


ルースが、また書いた。


空が、少しずつ明るくなってきた。


鳥が、どこかで鳴き始めた。


「夜明けが来ますね」


シロが、空を見た。


「もうすぐです」


シロが尻尾を振った。


「頑張りましたね、シロも」


また振った。


「全員で、持ちましたね」


また振った。


空が、オレンジ色になってきた。


「あと少しです」


力を送り続けた。


疲れていた。


でも、岩は、まだ落ちていなかった。


夜明けが来た。


光が、山の中に入ってきた。


遠くから、足音が聞こえてきた。


「来ました」とルースが言った。「技術者が来ました」


「本当に、来ましたね」


「走ってきてくれたんですね」


五人が、木の間から来た。


装備を持っていた。


リーダーらしい人が、私を見た。


「凪さんですか。一晩中、支えていてくれたんですか」


「そうです」


「感謝します。今から、引き継ぎます」


「引き継いでもらえますか」


「引き継ぎます。ただし、凪さんにも、少し力を貸してほしいです。どこを固めればいいか、感じ取ってもらいながら、私たちが作業します」


「一緒にやれますか」とルースが言った。


「やります」と私は言った。


「大丈夫ですか、体が」


「大丈夫ではないですが、やります」


「正直ですね」


「正直に言わないと、後で困ることが多いので」


リーダーが、少し笑った。


「聞いていた通りの人ですね」


「誰から聞きましたか」


「ルースさんから、話を聞いていました。気になることに向かう転生者がいる、と」


「気になることがあったので、来ました」


「その川が、マエル川です。エルドの農民全員が、困っています」


「マルさんという農民を、ルースさんから聞きました」


「マルは、私の知り合いです。また川が暴れたら、もう終わりだと言っていました」


「終わりにしません」と私は言った。


「言い切りましたね」


「気になることは、終わりにしないので」


リーダーが、うなずいた。


「では、始めましょう」


「始めます」


シロが、立ち上がった。


一晩が終わって、新しい朝が来た。


まだ、仕事が残っていた。


でも、一人ではなかった。

七十二話目、書きました。


一晩中、岩を支える、という場面をこの話の核にしました。静かに力を使い続ける。でも、内側では限界に近づいている。表に出ない緊張感を、ルースとの会話と、シロの行動で表しました。


シロが背中を当てて支えた場面。今まで、シロが凪を支えるときは、横を歩くことで支えていました。今回は、背中を当てて、物理的に支えた。それだけ、危ない場面だったということでもあります。


「話し続けることが、意識を保つ助けになる」という凪の言葉から、ルースが話し続けてくれた場面。ルースという人物が、技術者でありながら、記録する人間でもあり、今回は話し続けることで凪を支えた。一人一人が、できることで支え合っています。


「マルさんという農民を知っている」という展開。名前を知ると気になる、という凪の性質が、また出ました。アルドのダンさんと同じ構造です。困っている農民に名前と顔があることで、凪が動く。


「一時間だけは言い切れます」という場面。全部は言い切れないが、一時間だけは言い切れる。範囲を限定することで、言い切れる。これも凪の成長です。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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