表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/19

第七十一話「第四部、開幕。エルドの川は、暴れていた」

七十一話目です。第四部、開幕です。


エルドへ向かいます。ルースから聞いた話では、川が不規則に変動している、ということでした。


着いてみたら、思っていたより深刻でした。


では、どうぞ。

エルドに向けて出発したのは、集落に戻ってから二か月後だった。


その二か月は、穏やかだった。


カナとミアが、集落に残って記録を整理してくれた。


ルナが、毎日池に行き続けた。


ガルが、毎日記録した。


私は、毎日木に触れて、土を触れて、水を感じた。


集落の状態は、二十六になっていた。


「来たときの倍以上ですね」とルナが言った。


「そうですね」


「どこまで上がるんですか」


「分からないですが、上がり続けることはないです。どこかで安定します」


「安定したら、どうなるんですか」


「自然に循環する状態が続きます。特に誰かが手を入れなくても、続きます」


「じゃあ、ナギがいなくても大丈夫になる」


「そうですね」


「いつ」


「もう少しです。あと数か月、ルナが続けてくれれば」


「じゃあ、続ける」とルナは言った。


「ありがとうございます」



出発の朝、ルナが石を渡してくれた。


「帰ってきたら返して」


「返します」


「帰ってくる、は」


「帰ります」


「条件なし」


「条件なしで、帰ります」


「よし」


ルナが、手を振った。


今回は、集落の入口で振った。


走ってこなかった。


外まで来なかった。


入口で、振った。


「入口になりましたね」


「うん」とルナは言った。「次は、窓から振るかもしれない」


「それは、寂しいですね」


「寂しくない。信じているから」


「そうですね」


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」



エルドへの道は、初めての道だった。


ルースが、地図を持って待っていた。


都の外で合流した。


「来てくれましたね」とルースは言った。


「来ました」


「急いで来てほしかったですが、二か月待てました」


「準備してもらっていたんですか」


「しています。エルドの農業省が、調査の受け入れを決めました。現地を案内できます」


「川の状態は、今もですか」


「今も続いています。むしろ、悪化しています」


「悪化」


「不規則な変動が、より激しくなっています。先月は、三日間で水位が二倍になりました」


「二倍」


「それから、元に戻りました。でも、三日後また上がりました。農地が水没しかけています」


「不規則な上下ですか」


「そうです。下がるときも、急です。水があると思って農地に水を引いたら、翌日には干上がっていた、という事例が出ています」


「農民が、対処できない状況ですね」


「そうです。予測できないから、何もできない状態です」



エルドの都に入った。


アルドと、少し違う雰囲気だった。


川が、都の中を流れていた。


都の中心部に、川があった。


「これが、問題の川ですか」


「そうです。マエル川といいます。エルドの生命線です」


川を見た。


水量が、多かった。


でも、色が少し濁っていた。


「今日は、水量が多い日ですか」


「そうです。昨日から、上がっています。明日以降、どうなるか分かりません」


川の流れが、少し速かった。


普通の川より、速かった。


「急いでいますね、この川」


「急いでいます。水が、どこかで詰まっているのではないかと、思っています」


「詰まっていて、ためていて、一気に流れる」


「そういうことが起きているのではないか、と。ただ、確認できていないです」


「川の上流に、行けますか」


「行けます。ただ」


「ただ?」


「上流は、山の中です。険しいです。それに、最近、山で地鳴りのような音がすると、村人が言っています」


「地鳴り」


「そうです。何かが起きているかもしれないですが、山の中には入れていないです」


「入れない理由は」


「危険だと判断して、立入禁止にしています」


「私が入るのは」


「できれば止めてほしいですが、凪さんが行くと言えば、止めません」


「行きます」


ルースが、少し困った顔をした。


「危険かもしれないですが」


「気になるので」


「そうですか」


「ルースさんも、一緒に来ますか」


「行きます」とルースは言った。


「ありがとうございます」


「記録する人間が必要です。私が行きます」


「頼りになりますね」


「記録係ではないですが、記録する習慣はあります。カナさんたちに、影響を受けました」


「全部がつながっていますね」


「そうですね」



翌朝、川の上流に向けて出発した。


ルースと、エルドの案内係が二人、私とシロ。


山の入口まで、半日かかった。


立入禁止の看板があった。


「ここからです」とルースは言った。


「入ります」


「気をつけてください」


「気をつけます」


看板を越えた。


山の中に入った。


木が、密だった。


足元が、湿っていた。


「川が近いですね」


「この辺りから、川の源流が始まります」


歩きながら、感じた。


地下の状態を、感じた。


「何か変ですね」


「何が変ですか」とルースが聞いた。


「水が、地下に大量に溜まっています」


「地下に」


「地表には見えないですが、地下に水が集まっています。大量に。それが、少しずつ漏れているような感じです」


「漏れると、川に流れる」


「そうです。漏れる量が増えると、川の水位が上がります。漏れが止まると、水位が下がります」


「その繰り返しが、不規則な変動ですか」


「そうだと思います。ただ、なぜ地下に水が溜まっているのかが、分からないです」


「どこに向かえば分かりますか」


「もっと奥です。感じ取れる範囲を、超えています」


「奥に行きますか」


「行きます」



さらに奥に入った。


一時間ほど歩いたとき、地鳴りがした。


低い音だった。


地面から来る音だった。


「鳴りましたね」


「これが、村人が聞いた音ですか」とルースが言った。


「そうだと思います」


シロが、止まった。


耳を立てた。


前方を向いた。


「何がいますか」


シロが、低く唸った。


危険、という唸り方だった。


「危険ですか」


シロが、また唸った。


「どこですか」


シロが、前方の、少し高い方向を向いた。


見た。


木の間から、岩が見えた。


大きな岩だった。


いくつかの岩が、重なっていた。


その岩の一つが、少し動いていた。


「動いています」


「岩が動いているんですか」とルースが言った。


「少しずつ、動いています。地鳴りは、あの岩が動く音かもしれないです」


「あの岩が、どこかに落ちると」


「川に落ちれば、川がせき止められます」


「せき止められた川は、どうなりますか」


「上流に水が溜まります。そして、溜まりすぎると、一気に流れます」


「だから、不規則に変動していたんですか」


「そうかもしれないです。あの岩が、少しずつ動いて、川を部分的にせき止めていた。そして、圧力で流れが変わっていた」


「今後は」


「岩が完全に落ちれば、もっと大規模なせき止めになります。それが起きると」


「どうなりますか」


「一気に流れるとき、洪水になる可能性があります」


ルースが、記録帳を出した。


「書きます。岩が動いている、川がせき止められる可能性がある、洪水のリスクがある」


「急いで書いてください。後で話しますが、まず現状を確認します」


「分かりました」


岩に、近づいた。


シロが、前に出た。


止まれ、という動きをした。


「もう少し近くで確認したいですが」


シロが、また止まれという動きをした。


「シロが、危ないと言っています」


「引き返した方がいいですか」とルースが聞いた。


少し考えた。


「遠くから、感じ取ります。近づかなくても、分かることがあります」


地面に手を当てた。


力を、遠くに向けた。


岩の方向に、送り込んだ。


感じた。


岩の下が、空洞になっていた。


「空洞があります。岩の下が、空洞です」


「空洞があるから、岩が落ちそうになっているんですか」


「そうです。空洞が広がっています。おそらく、地下水が長い時間をかけて、石灰岩を溶かして空洞を作りました。それが、ある大きさを超えると、岩が支えられなくなります」


「自然にできた空洞が、原因ですか」


「そうだと思います。人間が何かをしたのではなく、長い時間をかけて、自然に起きたことです」


「では、どうすれば」


「空洞を、何かで埋めるか、岩を別の方向に誘導するか、どちらかが必要です」


「どちらが、可能ですか」


「難しいですが」と私は言った。


「どちらも難しい」


「どちらも難しいです。でも、どちらもやってみます」


ルースが、私を見た。


「一人で、できますか」


「できません。でも、方向は分かりました。できないことと、できることを、分けて考えます」


「できることは、なんですか」


「まず、岩が落ちるタイミングを、遅らせることができます。空洞に、力を入れることで、少し補強できます。完全ではないですが、時間を稼げます」


「時間を稼いで、何をしますか」


「この岩の状況を、記録に残して、エルドの工事部門に伝えます。専門の技術者が、対処法を考えます。その間、私が補強します」


「補強はいつまで、できますか」


「分かりません。体の状態を見ながら、できる限りやります」


「できる限り、ですか」とルースは言った。


「今回は、正直にできる限りです。言い切れないです」


「なぜですか」


「力の使い方が、今まで経験したことがないくらい、大きくなります。どのくらい持つか、試してみないと分かりません」


「正直ですね」


「正直に言わないと、後で困ることが多いので」


ルースが、また記録帳に書いた。


「記録します。岩の下に空洞がある、凪が補強を試みる、工事部門への連絡が必要」


「急いでください」


「書いています」


シロが、私を見た。


大丈夫ですか、という顔だった。


「やってみます」とシロに言った。


シロが、横についた。


「ありがとうございます」


地面に両手を当てた。


今まで使ったことがないくらいの力を、送り込んだ。


岩の下の空洞に向けて。


支えるように、固めるように、力を流し込んだ。


汗が出た。


「持ちますか」とルースが聞いた。


「今のところ、持っています」


「どのくらい続けられますか」


「分かりません。でも、今日一日は持てると思います」


「今日一日で、エルドの技術者を呼べますか」と案内係の一人が言った。


「呼べますか」とルースが聞いた。


「走れば、都まで四時間です。戻るのも四時間。明日の朝には来られます」


「走ってください」とルースは言った。


案内係が、走り始めた。


「もう一人は、ここに残ってください。何かあれば、知らせてください」


「分かりました」ともう一人の案内係が言った。


「凪さん、私もここにいます」とルースは言った。


「ありがとうございます」


「記録しながら、見ています」


「そうしてください」


力を送り続けた。


岩が、少し落ち着いた。


まだ、動いていたが、速さが遅くなった。


「効いていますか」とルースが聞いた。


「効いています。ただ、ずっとは続けられないです」


「明日の朝まで、持ちますか」


「持たせます」と私は言った。


「言い切りましたね、今回は」


「持たせます。それだけは、言い切ります」


シロが、私の横に来た。


「シロ、今日はここにいてください」


シロが、横に座った。


動かない、という姿勢だった。


地鳴りが、また鳴った。


低い音が、山に響いた。


でも、岩は、さっきより動かなかった。


「まだ、持っています」


ルースが、書き続けた。


第四部が、始まっていた。

七十一話目、書きました。第四部の開幕です。


「エルドの川が暴れていた」という展開。不規則な変動の原因が、岩の下の空洞だと分かった場面。地下水が長年かけて石灰岩を溶かした自然現象。今回は、人間が何かをしたのではなく、自然のプロセスが問題の原因でした。これが、今までの問題と違う点です。


「できる限り、と言い切れない」という凪の正直さ。今まで言い切るようになってきた凪が、今回は「できる限り」と言った。力の限界を超えた場面では、正直に言えないことがある。その使い分けが、成長の証でもあります。


「持たせます。それだけは言い切ります」という場面。言い切れないことと、言い切れることを分けた。明日の朝まで持たせる、それだけは約束できる。


ルナの出発場面で「次は窓から振るかもしれない」と言った場面。信頼が積み重なるにつれて、送り出し方が変わっていく。窓から、というのは距離ではなく信頼の大きさを表しています。


第四部は、自然現象との戦いが軸になります。悪意のある人間ではなく、自然そのものが問題。どう向き合うか、凪のやり方が問われます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ