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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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19/20

第八十九話「集落が、三十になった日」

八十九話目です。


特別なことは、起きませんでした。


でも、特別な日でした。集落の状態が、三十になりました。


最初に来たとき、十でした。その三倍になった日の話です。


では、どうぞ。

朝、いつも通り集落を歩いた。


ルナと一緒だった。


木に触れて、土を感じて、水の流れを確認した。


「今日は、何か違う気がします」とルナが言った。


「何が違いますか」


「なんか、全体が良い感じがします。いつもより、まとまっている感じ」


「まとまっている、というのは」


「バラバラじゃなくて、一つになっている感じです。木も、土も、水も、全部が同じ方向を向いている感じ」


「そうですね」


「それが今日は、強いです」


「強いですね」


「どのくらいですか、数字で」


手を当てた。


感じた。


「三十です」


ルナが、止まった。


「三十」


「そうです」


「初めてですか、三十は」


「初めてです。今まで、二十九までは来ていましたが、三十は初めてです」


「三十が、どういう意味か、教えてください」


「二十が、自分で回れる状態でした。三十は、外から何か問題が起きても、自分で対処できる余裕がある状態です」


「余裕がある状態」


「そうです。十の余裕が、バッファになります。少しの問題では、崩れません」


「最初が十でしたね」


「そうです。来たときは十でした」


「三倍になったんですね」


「三倍になりましたね」


ルナが、集落を見渡した。


木が、緑だった。


土が、柔らかかった。


水が、流れていた。


空気が、清かった。


「きれいですね」とルナは言った。


「きれいですね」


「来たときも、きれいでしたか」


「きれいではなかったですね。乾いていて、木が疲れていて、水が少なかったです」


「今と、全然違うんですね」


「全然違います」


「でも、私は来たときの集落を、あまり覚えていないです」とルナは言った。


「前に言っていましたね。今の状態に、記憶が上書きされてきていると」


「そうです。記録を見ると、最初の頃の集落が分かります。でも、感覚では覚えていないです」


「記録があって、良かったですね」


「あって、良かったです」


◇


ガルに伝えた。


「集落が、三十になりました」


ガルが、少し目を細めた。


「三十ですか」


「そうです」


「最初が十でしたね」


「そうです」


「凪様が来てから、どのくらい経ちましたか」


「一年以上、経ちますね」


「一年以上で、十が三十になった」


「そうです。ルナが続けてくれたおかげです。ガルさんが記録してくれたおかげです。カナさんとミアさんが来てくれたおかげです」


「凪様が来てくれたおかげです」


「きっかけを」


「受け取ってください」とガルは言った。


「受け取ります」


「ありがとうございます」とガルは言った。


「こちらこそ」


ガルが、記録帳を開いた。


「記録します。今日、集落の状態が三十になりました。凪様が最初に来た日から、一年と少しが経ちました。最初は十でした。今日、三十になりました。この三倍の変化は、ルナが毎日続けたこと、ガルが記録を続けたこと、カナとミアが来てくれたこと、そして凪様がきっかけを作ってくれたことで、起きました。全部がつながった結果です」


「全部書きましたね」


「全部残します」とガルは言った。


「後で読む人が、分かりますね」


「分かります。それが、記録の目的です」


◇


ルナが、大事そうなものを持ってきた。


記録帳だった。


でも、普通の記録帳ではなかった。


「これは何ですか」


「特別な記録帳です」とルナは言った。


「特別な日の記録帳を、作っていたんですか」


「そうです。大事な日だけ、書く記録帳です」


「どんな日が書いてありますか」


「凪が初めて来た日、精霊が初めて触れた日、ルミが生まれた日、ルミが水面から出た日、カナさんが来た日、カナさんが帰った日、ヒカルが生まれた日、竜の石が来た日。そして今日です」


「今日も、特別な日ですか」


「そうです。集落が三十になった日です。書きます」


ルナが、書き始めた。


「何を書いていますか」


「今日の朝のことを書いています。ナギと一緒に集落を歩いて、まとまっている感じがして、三十だと分かった。そのことを書いています」


「私のことも書いていますか」


「書いています。凪さんが三十と言ったときの顔を、書いています」


「私の顔を、ですか」


「そうです。いつもと、少し違う顔をしていました」


「どう違いましたか」


「嬉しそうでしたが、それだけじゃなかったです。何か、やり終えた顔をしていました」


「やり終えた顔」


「何かが、区切れた顔です」


「そうかもしれないですね」


「何が区切れましたか」


少し考えた。


「集落が、三十になれば、私が来なくても続けられます。それが一つの目標でした」


「目標が、達成されたんですね」


「そうです」


「だから、やり終えた顔をしていたんですね」


「そうかもしれないですね」


ルナが、記録帳に書き続けた。


「もう、来なくてもいいですか」とルナは言った。


書きながら、聞いた。


「来たいです」と私は言った。


ルナが、書く手を止めた。


「来たいですか」


「来たいです。集落が三十になって、来る必要がなくなったかもしれないですが、来たいです」


「必要がなくても、来たい」


「そうです」


「なぜですか」


「気になるからです。ルナのことが、ルミのことが、集落のことが、気になります。気になれば、来ます」


「必要だから来るのではなく、気になるから来る」


「そうです」


ルナが、また書き始めた。


「書きました」と少し後に言った。


「何を書きましたか」


「必要がなくても来たいと言ったナギの言葉を書きました。それが、一番大事なことだったので」


「そうですか」


「そうです。三十になった、という事実より、それが大事です」


「なぜですか」


「三十になることは、いつかなります。でも、気になるから来る、という気持ちは、なくなることがありません。それが、一番長く続くものだからです」


「そうですね」


「だから、書きました」


◇


昼食の後、ルナが池に行った。


私も一緒に行った。


アオが、いた。


ルミが、いた。


二つの光が、水面で揺れていた。


「集落が三十になりましたよ」とルナが言った。精霊に向かって言った。


アオが、光を強くした。


ルミが、水面から顔を出した。


「喜んでいますね」


「喜んでいます」とルナは言った。「分かるんですね、精霊も」


「分かるんだと思います」


「数字は、分からないと思うけど、集落が良くなっていることは、感じ取れるのかもしれないですね」


「そうかもしれないですね」


「精霊が元気なのと、集落が元気なのは、つながっているから」


「そうですね」


「集落が良くなるほど、精霊が元気になって、精霊が元気になるほど、集落が良くなる。どちらが先かは、分からないですが」


「どちらも、一緒に育ってきましたね」


「そうです。全部つながってきた結果です」


ルミが、水面をくるくると泳いだ。


嬉しそうだった。


「ルミが、喜んでいますね」


「そうです。今日は、特別に喜んでいます」


「今日が特別な日だと、分かっているんですか」


「分かっていると思います。ルミは、賢いから」


「そうですね」


アオが、また光を強くした。


深い光だった。


長く続いてきた光だった。


「アオも、三十になったことを、知っているんですね」


「知っていると思います。最初から、ここにいましたから」


「最初から、アオはいましたね」


「そうです。最初に、凪が助けてくれた」


「弱っていましたね、アオが」


「弱っていた。でも、今は元気です」


「そうですね」


「全部、変わってきましたね」


「変わってきましたね」


「でも、ここにいるのは、同じです」


「そうですね。アオも、ルミも、ここにいる」


「私も、ここにいます」


「そうですね」


「ナギは、来たり行ったりしますが、ここに帰ってきます」


「帰ってきます」


「それで、十分です」


ルナが、水面を見た。


「十分」と、もう一度言った。


「そうですね」


「来たとき十で、今日三十になって、それでも十分、ということかな」


「どういう意味ですか」


「三十が目標じゃなくて、続けてきたことが大事だということかな、と思いました」


「そうですね」


「数字じゃなくて、毎日来ていたことが、大事でした」


「そうです」


「じゃあ、明日も来ます」


「来てください」


「明日も、ここに来ます」とルナは言った。精霊に向かって言った。


アオが、また光った。


ルミが、また出てきた。


「約束しましたね」


「約束しました」


「明日も来ます」とルナは言った。今度は私に向かって言った。


「来てください」


「来ます」


「ナギも、また来ますか」


「来ます」


「条件なし」


「条件なし」


ルナが、満足した顔をした。


「よし」


◇


夕方、ガルと三人で話した。


「三十になりましたね」とガルは言った。


「なりましたね」


「次の目標は、ありますか」


「ありますか」とルナも聞いた。


少し考えた。


「三十五かもしれないですが、数字はあまり関係ないかもしれないですね」


「どういう意味ですか」


「三十になったから、良かった、ではなくて、ルナが毎日来ていたから、ガルさんが記録していたから、良くなってきた。続けることが大事で、数字は結果に過ぎないです」


「結果より、続けることが大事」


「そうです。結果を目標にすると、達成したとき止まることがあります。続けることを目標にすれば、止まらないです」


「止まらない方が、良いですね」


「そうですね」


ルナが、記録帳に書いた。


「何を書いていますか」


「結果より続けることが大事、と書いています」


「それは、私が言ったことです」


「大事なことだから、書きます」とルナは言った。「誰が言ったかより、残った方がいいかどうかが、大事です」


「カナさんの言葉ですね、それは」


「カナさんに教わりました。誰が言ったかより、残す価値があるかどうかが大事だと」


「全部つながっていますね」


「そうです」とガルも言った。「全部つながっています」


三人で、夕暮れの集落を見た。


木が、夕日に染まっていた。


土が、温かい色をしていた。


水が、光を反射して、きらきらしていた。


三十の集落だった。


「きれいですね」


「うん」とルナは言った。「きれいです」


「三十の集落は、きれいです」


「毎日来ていたから、きれいになりました」とルナは言った。


「そうですね」


「続けることで、きれいになりました」


「そうです」


「じゃあ、明日も続けます」とルナは言った。


「続けてください」


「続けます」


シロが、集落の端を歩いていた。


見回りをしていた。


「シロも、続けていますね」


「シロも、止まらないですね」とルナは言った。


「止まらないですね」


「気になることに向かっていますね、シロも」


「そうですね」


「シロの気になることは、何ですか」


「集落の安全ですか」


「そうかな」とルナは言った。「それと、ナギのことも、気になっているんだと思います」


「そうかもしれないですね」


「だから、止まらない」


「そうですね」


ルナが、シロを見た。


「シロ、ありがとう」と言った。


シロが、振り返った。


尻尾を振った。


「全員が、止まらないですね」とルナは言った。


「そうですね」


「全員が気になることに向かっていますね」


「そうですね」


「全部つながってる」


夕暮れの集落に、その言葉が、静かに広がった。


三十になった日が、終わっていった。

八十九話目、書きました。


「三十になった」という特別な出来事を、地味に書きたかった話でした。劇的なことは何もない。朝の散歩で気づいた。でも、それが一番自然な形での到達でした。


「必要がなくても来たい」という凪の言葉をルナが「一番大事なことだから書いた」場面。三十になった事実より、その言葉が大事だとルナが感じた。気になるから動く、という凪の本質を、ルナが一番よく理解していた場面でした。


「続けることを目標にすれば、止まらない」という凪の言葉。結果を目標にすると、達成したとき止まる。続けることを目標にすれば、三十になっても止まらない。ルナがすぐに書いた場面が、その価値を示していました。


アオが深い光を放った場面。長く続いてきた光、という描写。アオも、最初から一緒にいた。集落の変化を、全部見てきた存在でした。


「明日も来ます」と精霊に約束したルナが、私にも「明日も来ます」と言った場面。精霊への約束と、凪への言葉が、同じ形をしている。ルナにとって、どちらも同じ大切さを持っている。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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