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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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20/20

第九十話「第五部が終わる。でも、続きがある」

九十話目です。節目の話です。


第五部が終わります。でも、この物語はまだ続きます。


終わることと、続くことが、同時にある話です。


では、どうぞ。

集落が三十になってから、一週間が経った。


その一週間は、穏やかだった。


毎朝、ルナと集落を歩いた。


毎昼、木に触れた。


毎夕、池に行った。


毎晩、ガルと話した。


そういう一週間だった。


「この一週間、どこにも行かなかったですね」とルナが言った。


「そうですね」


「珍しいです」


「そうですね。いつもは、すぐ気になることが出てきますが、今週は出てこなかったです」


「出てこなかった、というのは、良いことですか」


「良いことだと思います。問題がなければ、出てこないです」


「問題がなければ、ナギがここにいられます」


「そうですね」


「だから、問題が出てこない方が、良いですね」


「そうですね」


「でも、出てきたら、行きますか」


「行きます」


「それも、良いですね」


「そうですか」


「ナギが気になることに向かうのを見ていると、私も気になることに向かいたくなります。だから、ナギが行くこと自体は、良いことです。ただ、ここにいてほしいとも思います。どちらも、本当のことです」


「矛盾していますね」


「矛盾していますが、どちらも本当です」


「そうですね」


◇


八日目の朝、手紙が来た。


二通、同時に来た。


一通は、ベルクからだった。


一通は、ルースからだった。


ベルクの手紙を開いた。


「凪へ。国際調査の記録まとめが、ほぼ終わった。カナとミアが、良い仕事をした。エン山の採掘は、予定通り進んでいる。条件内で、問題は出ていない。水脈の変化は、わずかだが記録の範囲内だ。ダロが、鉱山局の内部から安全基準を強化しようとしている。まだ時間がかかるが、良い方向だ。一つ報告がある。リドルが、復帰の話が出ている。失脚したが、証言に協力したことで、評価が変わってきた。完全な復帰ではないが、顧問として動ける可能性がある。ベルクより」


「リドルが、顧問になるかもしれないんですね」とガルが聞いた。


「そうです。失脚したが、証言に協力した。その行動が、評価されています」


「ベルクさんが動かしたんですね、最初に」


「そうです。リドルを動かしたのは、ベルクさんです。あのとき、一人でリドルに会いに行きました」


「報われましたね」


「そうですね」


◇


ルースの手紙を開いた。


「凪さんへ。エルドのマエル川の状態を報告します。安定しています。水位の変動がなくなりました。クレスが、毎日記録しています。先月から、クレスの息子も一緒に記録し始めました。三世代で農地と川を見ることになりました。クレスが、息子に記録の仕方を教えているそうです。私が教えたことが、クレスを通じて次の世代に伝わっています。それと、マルが来年の秋に待っています。作物を持って帰ってほしいそうです。約束の秋が、来ます。ルースより」


「クレスの息子も、記録を始めたんですね」とルナが言った。


「そうです。三世代で、川を見ることになりました」


「すごいですね。一人から、次の人へ、また次の人へ」


「つながっていますね」


「全部つながっています」


「来年の秋に、エルドに行きます」とルナに言った。


「約束していましたね、マルさんと」


「そうです」


「行ってきてください」


「怒らないんですか」


「怒らないです。約束を守ることは、大事です。来年の秋は、まだ先だから、しばらくはここにいますね」


「そうですね」


「しばらくは、ここにいます。来年の秋まで」とルナは言った。


「そうです」


「じゃあ、来年の秋まで、一緒にいます」


「一緒にいましょう」


「よし」とルナは言った。


◇


その夜、ガルが言った。


「凪様、第五部が、終わりそうですね」


「そうですね。竜の卵が孵化して、集落が三十になって、ベルクとルースから良い報告が来ました。一つの区切りです」


「次の部は、来年の秋からですか」


「そうなるかもしれないですね。エルドに行って、マルさんの作物を見て、ルースに会います」


「その間、何かが起きるかもしれないですが」


「起きるかもしれないですが、大きな動きは、来年の秋まで少ないと思います」


「集落で、ゆっくりできますね」


「そうですね」


ガルが、記録帳を開いた。


「第五部を、まとめます」


「まとめてくれるんですか」


「記録係として、まとめます。竜の卵が孵化したこと、ヒカルという名前がつけられたこと、竜から石が来たこと、集落が三十になったこと、ベルクとルースから良い報告が来たこと。全部が、第五部で起きたことです」


「短い部でしたね」


「短かったですが、大事なことがたくさんありました」


「そうですね」


ルナが、横で記録帳を開いた。


「私も書きます」


「同時に書くんですか」


「そうです。ガルじいちゃんの記録と、私の記録、両方残ります。後で読む人が、両方読めます」


「良いですね」


「同じ出来事を、二人が書く。どちらも、本当のことです。でも、少し違います」


「そうですね。見え方が、違いますから」


「ガルじいちゃんは、集落の長として書きます。私は、子どもとして書きます。どちらも、大事です」


「どちらも、大事ですね」


「あと、シロとして書ける人がいれば、さらに良かったですね」とルナは言った。


「シロとして、ですか」


「シロが記録したら、どんな記録になりますか」


「分からないですね。シロの目に映っていることを、私は知らないです」


「残念です」とルナは言った。「シロの記録が読みたいです」


シロが、横で聞いていた。


耳を動かした。


「シロも、何かを思っているんですね」


「そうです」とルナは言った。「シロも、記録したいと思っているかもしれないです」


「そうかもしれないですね」


◇


翌朝、ルナが言った。


「ナギ、一つ聞いていいですか」


「なんですか」


「この物語は、続きますか」


「物語、ですか」


「ナギの物語です。ミアさんが、全部の場所の変化を一つの記録帳にまとめていますね。あれが、物語だと思います」


「そうですね」


「続きますか」


「続きます」


「どこまで続きますか」


少し考えた。


「気になることがある限り、続きます」


「気になることは、なくなりますか」


「なくならないと思います」


「じゃあ、続きます」とルナは言った。


「そうですね」


「続く物語は、終わらないです」


「そうですね」


「終わらない物語が、一番好きです」とルナは言った。


「なぜですか」


「終わると、会えなくなります。終わらなければ、また会えます」


「そうですね」


「ヒカルとも、また会えます」


「会えます」


「レナさんとも、また会えます」


「会えます」


「カナさんとミアさんとも」


「会えます」


「全員と、また会えます」


「そうです」


「だから、続く物語が好きです」


「そうですね」


ルナが、池の方を見た。


「今日も、ルミに会いに行きます」


「行きましょう」


「全員で行きますか」


「全員で行きましょう」


「よし」とルナは言った。


◇


池に向かいながら、ガルが言った。


「凪様、一つだけ言っていいですか」


「なんですか」


「最初に来たとき、この集落がどうなるか、分からなかったです」


「そうですね」


「でも、凪様が来てくれて、変わりました。花が咲きました。精霊が来ました。ルナが記録を始めました。三十になりました」


「続けてきた結果ですね」


「続けてきた結果です。凪様が来て、始まって、みんなで続けました」


「そうですね」


「続くと思いますか、これからも」


「続きます」


「言い切りましたね」


「続けている人たちがいます。ルナがいます。ガルさんがいます。アオとルミがいます。続けている人がいれば、続きます。それは言い切れます」


ガルが、また笑った。


「そうですね。続けている人がいます」


「続けます」とルナが言った。


「続けます」とガルが言った。


シロが、尻尾を振った。


続ける、という振り方だった。


池に着いた。


アオが出てきた。


ルミが出てきた。


水面で、二つの光が揺れた。


「来ましたよ」とルナが言った。精霊に向かって言った。


アオが、光を強くした。


ルミが、水面から顔を出した。


「今日も、きれいですね」


「うん」とルナは言った。「毎日、きれいです」


「変わり続けているから、毎日きれいですね」


「そうです。変わり続けているから、続けたくなります」


「そうですね」


「だから、明日も来ます」


「来てください」


「来ます。ずっと、来ます」とルナは言った。


ルミが、また水面から高く出た。


光が、水面に映った。


アオが、ルミを見ていた。


「変わらないものと、変わるものが、一緒にあります」と私は言った。


「どういう意味ですか」


「アオは、ずっとここにいます。変わらない。でも、ルミは成長しています。変わる。どちらも、一緒にある」


「変わらないものが、変わるものを見守っていますね」


「そうです」


「アオが、ルミを見守っているように、ガルじいちゃんが私を見守っています」


「そうですね」


「ナギは、どちらですか。変わらない方ですか、変わる方ですか」


「どちらでもあると思います。気になることに向かう、という部分は変わらないです。でも、受け取れるようになった、言い切れるようになった、部分は変わりました」


「変わらない部分があって、変わる部分があります」


「そうです」


「私も、そうかもしれないですね」とルナは言った。「毎日来ることは変わらない。でも、感じ取れることは変わっています」


「そうですね」


「変わらないことと、変わることが、一緒にあります」


「一緒にあります」


「全部つながっていますね」


池が、静かに光っていた。


第五部が、ここで終わった。


でも、明日も続く。


ルナが来る。


ガルが記録する。


アオとルミが光る。


シロが見回る。


全部が、明日も続く。


続くことが、この物語の形だった。

九十話目、書きました。第五部、完結です。


「終わらない物語が一番好き、終わると会えなくなる、終わらなければまた会える」というルナの言葉。これが、この物語のテーマの一つでもあります。続くことで、また会える。


「変わらないものと、変わるものが一緒にある」という場面。アオとルミ、ガルとルナ、凪自身の変わらない部分と変わる部分。全部が、一緒に存在している。


ベルクの手紙でリドルが顧問に復帰する可能性、ルースの手紙でクレスの息子が記録を始めた報告。どちらも、一人が始めたことが、次の世代に伝わっていく形でした。


「シロの記録が読みたい」というルナの言葉。シロの視点から見た物語がある。でも、誰にも書けない。それでも、シロは確かにそこにいる。言葉にならない存在の記録もある、という示唆でした。


第一部から第五部まで、九十話。長い旅でした。第六部は、来年の秋、エルドへの再訪から始まります。


読んでくださっている方、本当にありがとうございました。また次の部でお会いしましょう。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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