第八十三話「第五部、開幕。帰ってきたら、ルナが変わっていた」
八十三話目です。第五部、開幕です。
ゴルのところから帰ってきました。でも、帰ってきたら、何かが変わっていました。
変わったのは、集落ではなく、ルナでした。
では、どうぞ。
シロが、帰り道も速かった。
ルナが待っているから、という速さだった。
集落の手前で、シロが止まった。
いつもと違う止まり方だった。
「どうしましたか」
シロが、耳を立てた。
前方を向いた。
それから、首を傾けた。
「不思議な感じですか」
シロが、また首を傾けた。
「何がいますか」
シロが尻尾を振った。
危険ではない、という振り方だった。
「ルナですか」
シロが、また首を傾けた。
ルナだが、少し違う、という感じだった。
「行きましょう」
◇
集落に入った。
ルナが、広場にいた。
でも、いつもと違った。
目を閉じて、立っていた。
両手を、少し広げていた。
「ルナ」と声をかけた。
ルナが、目を開けた。
「あ、帰ってきた」
「何をしていましたか」
「感じていました」
「何をですか」
「集落の状態を」
「目を閉じて、感じていたんですか」
「そうです。手を広げると、少し分かりやすい気がします」
「いつから、そういうことをしていますか」
「カナさんが行ってから、一週間くらいです」
「カナさんが帰った後から、ですか」
「そうです。カナさんが感じ取っているのを、ずっと見ていました。どうやっているのか、真似してみました」
「感じ取れましたか」
「少し、分かります」とルナは言った。「全部は分からないですが、今日は昨日より土が柔らかい、とか、あの木は元気、とか」
「それは、大きな変化ですね」
「そうですか」
「そうです。感じ取れることが増えると、変化に早く気づけます」
「そうですね。今日、一つ気になることを感じました」
「なんですか」
「北側の、端の木が、少し水が足りていない感じがします」
「そうですか。確認してみましょう」
北側の端の木に行った。
手を当てた。
「そうですね。少し乾いています。昨日の雨が、届いていないようです」
「合っていましたか」
「合っていましたよ」
ルナが、少し誇らしそうな顔をした。
「合いましたね」
「合いましたね」
「毎日やっていたら、少し分かるようになりました」
「そうですね。毎日続けることで、感じ取る目が育ちます。ルナが一番よく分かっているはずですね、その経験が」
「精霊で学びました」とルナは言った。「毎日来ていたら、精霊が何を感じているか、少し分かるようになりました。それと同じでした」
「精霊から、集落の感じ方を学んだんですね」
「そうです。全部つながっていますね」
「そうですね」
◇
ガルが来た。
「お帰りなさい、凪様」
「ただいまです。ルナが、感じ取っていましたね」
「そうです。カナ様が帰られた後から、始めました。最初は、何も分からない、と言っていましたが、一週間で少し変わってきました」
「ガルさんは、見ていたんですか」
「見ていました。毎朝、同じ場所で、目を閉じて立っています。最初は、数分で諦めていました。今は、三十分ほどやっています」
「三十分も、やっているんですか」
「そうです。好きなことは、続けられます」
「そうですね」
「凪様、集落の状態が、また変わりました」
「どのくらいですか」
「ルナが感じ取り始めてから、集落の状態が良くなっています。感じ取れると、問題に早く気づいて、早く対処できます」
「そうですね」
「数字でいえば、二十八になっていると思います」
「ガルさんが感じましたか」
「感じました。凪様が確認してください」
地面に手を当てた。
感じた。
「二十八、ありますね。二十七よりも、余裕があります」
「そうですね」
「ルナが感じ取り始めたことで、変わりましたね」
「そうだと思います」
◇
夕食の後、ルナに石を渡した。
「ゴルの山から持ってきました」
ルナが、受け取った。
「重い」
「ゴルの集落の岩から来た石です」
「硬い」
「そうですね」
「ゴルらしい石ですね」
「ゴルらしいです」
ルナが、石を持った。
「これが、次の往復の石ですね」
「そうです。次に行くとき、また渡してください」
「分かりました」
ルナが、石を置いて、レナの石と並べた。
「レナさんの石と、ゴルの石が、並んでいます」
「そうですね」
「レナさんの石は、川に磨かれた石です。ゴルの石は、岩から来た石です。形が違います」
「そうですね」
「でも、どちらも、大事な石です」
「大事な石ですね」
「ナギが返してきた石と、ナギが持ち帰った石。どちらも、つながりの証拠です」
「そうですね」
ルナが、二つの石を並べたまま、私を見た。
「ゴルのところで、何がありましたか」
「石を返しました。レナさんに」
「喜んでくれましたか」
「喜んでくれました。旅した石は、色々なものが染み込んでいると言ってくれました」
「旅した石、いい言葉ですね」
「いい言葉ですね」
「記録帳に書きます」とルナは言った。
「書いてください」
「それと、東側の斜面に木の芽が出たのも、見ましたか」
「見ました。小さな芽が、岩の隙間に出ていました」
「ゴルは、喜んでいましたか」
「嬉しかった、と言っていました。短く、でも確かに言っていました」
「ゴルらしいですね」
「そうですね」
「手紙、届いていましたか」
「届いていました。ラグル族が先に走ってくれたので、私より先に届いていました」
「それは、計算通りです」とルナは言った。得意そうに言った。
「計算していたんですか」
「そうです。凪より先に届けたかったから、早めに送りました」
「そうでしたか」
「ゴルが読んでいてくれれば、凪が来たとき、話が早いかと思いました」
「計算できるようになりましたね」
「カナさんの影響です」
「カナさんが計算しながら動くのを、見ていたんですね」
「見ていました。計算することが、大事だと分かりました」
「そうですね」
◇
その夜、池に行った。
ルナと一緒に行った。
アオが出てきた。
ルミが出てきた。
水面から、顔が出た。
「ルミ、元気そうですね」
「元気です。私が感じ取り始めてから、ルミの動きが変わりました」
「どう変わりましたか」
「前より、積極的になった気がします。私が感じ取ろうとしているから、ルミも積極的に出てくるようになった気がします」
「精霊が、感じ取られることで、活発になる」
「そう思います。感じ取る人がいると、精霊も動きやすくなるのかもしれないです」
「面白い考え方ですね」
「記録で確かめてみます」
「どうやって確かめますか」
「感じ取る日と、感じ取らない日を作ってみます。また実験です」
「また実験をするんですね」
「気になることは、確かめます」とルナは言った。「凪みたいに」
「そうですね」
ルミが、水面をくるくると泳いだ。
嬉しそうな動きだった。
「ルミが喜んでいますね」
「帰ってきたから、ですかね」
「そうかもしれないですね」
ルナが、水に指を入れた。
ルミが、触れた。
「くすぐったいですか」
「くすぐったいです。でも、今日は少し違います」
「どう違いますか」
「なんか、強いです。触れてくる力が」
「強くなりましたね、ルミが」
「そうです。前は、もっと弱かったです」
「成長していますね」
「成長しています。毎日会っているのに、毎日少し違います」
「変わり続けているんですね」
「そうです。変わり続けているから、毎日来たいです」
「止まらないですね、ルナも」
「止まらないです」とルナは言った。「気になることがあるから、止まれないです」
「気になることに向かっていますね」
「うつりました、ナギから」
池の水面が、夜の光を受けて揺れていた。
アオが光って、ルミが光って、二つの光が水面で揺れていた。
「きれいですね」
「うん」とルナは言った。「毎日来ているのに、毎回きれいです」
「変わり続けているから、毎回きれいですね」
「そうです。前に言ったことを、ナギも覚えていますね」
「覚えています」
「記録しなくても、覚えていることがあります」
「そうですね。大事なことは、覚えています」
「ルナが言ったことが、大事なことですか」
「大事なことです」
ルナが、また池を見た。
「第五部は、どこに行くんですか」
「まだ分からないですが、気になることが出てくると思います」
「どこから出てきますか」
「色々なところから来ます。今まで、ゴルから来たり、ベルクから来たり、ルースから来たりしました」
「次は、どこから来ますか」
「分からないですが、出てくると思います」
「出てきたら、教えてください」
「教えます」
「私も、気になることが出てきたら、教えます」
「どんなことが気になっていますか、今」
「精霊が、どこから生まれるか、まだ気になっています」
「そうですね」
「それと、感じ取る力が、もっと育つか、気になります」
「育ちますよ」
「言い切りましたね」
「育つことは、言い切れます。続けていれば、必ず育ちます」
「じゃあ、続けます」
「続けてください」
「続けます」とルナは言った。
ルミが、また光を強くした。
「ルミも、続けてほしいと思っているかもしれないですね」
「思っていると思います。全部つながっているから」
「そうですね」
夏の夜が、続いていた。
第五部が、静かに始まっていた。
八十三話目、書きました。第五部、開幕です。
「帰ってきたら、ルナが変わっていた」という展開にしました。凪が去っている間に、ルナが自分で感じ取る練習を始めていた。カナが去ったことで、ルナが自分でやるしかなくなった。離れることが、成長を促すこともある。
「精霊から、集落の感じ方を学んだ」というルナの言葉。毎日精霊と向き合うことで育った感性が、集落の感じ取りにも応用できた。全部がつながっている、が、こういう形でも出ました。
「計算通りです」とルナが言った場面。手紙を先に送ることを、計算していた。カナの影響が、ルナの思考の仕方を変えていた。去った人の影響が、残っている。
集落が二十八になった、という数字。ルナが感じ取り始めてから変わった、というガルの観察。一人が感じ取れるようになることで、集落が変わる。これは、凪だけが感じ取ることができなくなっても、集落が続いていける状態になってきたことを示しています。
第五部では、どこから新しい気になることが来るか、まだ決まっていない。でも、来ると思います。
また明日。
原案・構想:マスター
物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)




