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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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12/20

第八十二話「第四部が終わる。そして、石を返しに行く」

八十二話目です。第四部、最終話です。


ゴルのところへ、石を返しに行きます。


長く持ち続けた石を、返す。でも、返すことが終わりではなく、また始まります。


では、どうぞ。

カナとミアが去ってから、一週間が経った。


集落は、静かだった。


でも、悪い静かさではなかった。


カナが来る前より、ずっと良い静かさだった。


毎朝、ルナが精霊の記録帳を持って池に行った。


ガルが、毎日集落の記録を書いた。


私は、毎日木に触れて、土を感じた。


そういう一週間だった。


「落ち着きましたね」とルナが言った。


「そうですね」


「でも、ナギが次に動く気配がしています」


「感じますか」


「感じます。最近、遠くを見ていることが増えました」


「そうですか」


「ゴルのところに行きますか」


「行こうと思っています」


「石を返しに」


「そうです」


「いつですか」


「今週中に、出発しようと思っています」


ルナが、少し考えた。


「分かりました」と言った。


「怒らないんですか」


「怒らないです。帰ってくると分かっているから」


「そうですね」


「それと」とルナは言った。「石を返しに行くのは、大事なことだから。約束を守ることは、大事です」


「そうですね」


「行ってらっしゃい。早く行って、早く帰ってきて」


「早く帰ります」



出発の前日、荷物を整えながら、石を確認した。


レナからもらった石だった。


川に磨かれた石だった。


ずっと持ち続けていた。


「長く持っていましたね」


シロが、横で見ていた。


「レナさんが、最初に渡してくれた石です。返すと言っておきながら、何度も先送りにしました」


シロが耳を動かした。


「今度こそ、返します」


また動いた。


「ゴルさんに会いたいですか、シロも」


シロが尻尾を振った。


「一緒に行きましょう」


また振った。


ルナが、部屋に入ってきた。


「明日、出発ですね」


「そうです」


「石、持っていきますか」


「持っていきます」


ルナが、石を見た。


「私に渡してください」


「なぜですか」


「出発のとき、渡します。儀式みたいに」


「儀式ですか」


「そうです。石を渡したら、行く。石を返してもらったら、帰ってきた。そういう形にしたいです」


「もう、形になっていますね。ルナが渡して、私が帰ってきたら返す」


「でも、今回は少し違います」


「どう違いますか」


「この石は、ゴルのところに返す石です。帰ってきたとき、新しい石を持ってきてほしいです」


「新しい石ですか」


「ゴルの山の石。岩人の集落の石を持ち帰ってきてほしいです。それが、次の往復の石になります」


「往復する石が、変わるんですね」


「そうです。ゴルのところから来た石が、次の旅の石になります」


「分かりました。持ち帰ります」


「約束」


「します」


ルナが、石を受け取った。


明日まで、持っていてくれるらしかった。



出発の朝、ルナが石を渡してくれた。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


「石、ちゃんとゴルに返してきてください」


「返してきます」


「レナさんにも、よろしく言ってください」


「言います」


「ゴルに、私の手紙も持っていってください」


「書きましたか」


「昨夜、書きました」とルナは言った。


「読んでいいですか」


「読まないでください。ゴルに届けてください」


「分かりました」


手紙を受け取った。


「何を書いたかは、内緒ですか」


「内緒です」とルナは言った。「でも、ゴルが喜ぶことを書きました」


「そうですか」


「岩のことを書きました。エルドの岩を動かした話を、私なりに書きました。それと、東側の斜面に木の芽が出たこと、嬉しかったです、とも書きました」


「内緒と言いながら、教えてくれましたね」


「教えたくなりました」とルナは言った。


「そうですか」


「内緒にしておくより、知っていた方が、ゴルに渡すとき気持ちが込められると思って」


「そうですね」


シロが、先を歩いていた。


「シロが、急かしていますね」


「シロは、いつも急かします」とルナは言った。


「そうですね」


「でも、急かされた方が、ナギは動きやすいですか」


「動きやすいです」


「じゃあ、シロがいてくれて、良いですね」


「良いですね」


「シロ、ナギをよろしく」とルナがシロに言った。


シロが尻尾を振った。


任せろ、という顔だった。



山への道を、三日間歩いた。


三日目の昼過ぎ、ゴルの集落が見えてきた。


ゴルが、入口で待っていた。


「また会いましたね」


「来たか」とゴルは言った。


「来ました」


「石を持ってきたか」


「持ってきました」


「渡せるか」


「渡せます」


「良い」とゴルは言った。


「レナさんは、いますか」


「いる。作業中だ」


「後で、会えますか」


「会える。終わったら来る」


「ありがとうございます」


「それと」とゴルは言った。「手紙が来た。ルナから」


「私が届けたわけではないですが」


「別のラグル族が、昨日届けた。お前が来る前に、届いた」


「そうですか。ラグル族が、先に走ってくれたんですね」


「ルナが、ちゃんと送ってきた」


「内容を、読みましたか」


「読んだ」とゴルは言った。「良い手紙だった」


「そうですか」


「岩のことを、ルナなりに書いていた。エルドの岩を動かした話が、面白かった。それと、東側の斜面に木の芽が出たこと、嬉しかったです、と書いてあった」


「そうですね」


「嬉しかったです、という言葉が、良かった」


「ゴルさんが、嬉しかったですか」


「嬉しかった」とゴルは言った。短く、でも確かに言った。



夕方、レナが来た。


作業着のままだった。


「凪、来たじゃないか」


「来ました」


「石、持ってきたか」


「持ってきました」


「良かった」とレナは言った。


荷物から石を出した。


レナに渡した。


レナが、受け取った。


しばらく、石を見た。


「長く持っていてくれましたね」


「長く持っていました。すみませんでした、なかなか返せなくて」


「いいえ」とレナは言った。「長く持っていてくれた分、色々なところに一緒に行ったんでしょ」


「そうです。アルドに行って、セルドに行って、エルドに行きました」


「この石が、全部のところに行ったんですね」


「一緒に行きました」


レナが、また石を見た。


「旅した石ですね」


「そうですね」


「ありがとうございます。良い石になりました」


「良い石に、なりましたか」


「旅した石は、色々なものが染み込んでいます。川の水も、山の空気も、都の土も、みんな染み込んでいます」


「そうかもしれないですね」


「大事にします」


「そうしてください」


レナが、石を胸に当てた。


「凪に頼んで、良かったです」


「私に、ですか」


「この石を、ずっと持ちながら動いてくれた人間が、一人いるということが、良かったです」


「そうですか」


「石を持っている間、思い出してくれていたと思います。返しに来てくれるから、帰ってくることを覚えていた」


「そうです。石を持っていると、帰らなければと思いました」


「だから、良かったんです」とレナは言った。「石は、帰ってこさせる力があります」


「ルナも、同じことをやっています」


「池の底の石ですか」


「そうです。どこから聞いたんですか」


「ゴルが教えてくれました。ルナという子が、石を渡して、帰ってくることを約束させると」


「そうです」


「賢い子ですね」


「賢いです」


「いつか、会ってみたいですね」


「来てください。ルナが喜びます」


「行けるといいですが」とレナは言った。


「ゴルさんが、レナさんが外を見たいと言っていた、と教えてくれました」


「そうですね。最近、外が気になっています。凪が来るたびに、外の話をしてくれるから」


「気になってきましたか、外が」


「気になってきました」とレナは言った。「気になることに向かう、というのが、凪のやり方ですね」


「そうです」


「うつりました、私にも」


「そうですね」


「いつか、行きます。外に」


「来てください。案内します」


「約束ですか」


「します」


レナが、石を見た。


「この石が、旅したように、私も旅してみます。いつか」


「待っています」



翌朝、ゴルと一緒に東側の斜面を歩いた。


「木の芽が、どこですか」


「あそこだ」


ゴルが指さした。


岩の隙間に、小さな芽が出ていた。


緑色だった。


「これですね」


「そうだ。岩人の集落で、木の芽が出たのは、私の記憶にない」


「どのくらい前から、出ていますか」


「三週間前に、レナが見つけた」


「三週間前」


「レナが、記録に書いた。だから、日付が分かる」


「記録があって、良かったですね」


「そうだ」とゴルは言った。「記録がなければ、いつから出たか、分からなかった」


「記録があれば、残ります」


「残る。凪に、言われた言葉だ」


「私が、言いましたか」


「言ったかもしれないし、カナという記録係が言ったかもしれない。どちらにせよ、伝わった」


「全部つながっていますね」


「そうだな」


芽を、触れた。


小さかった。


でも、確かに生きていた。


「この芽が、大きくなるのに、どのくらいかかりますか」


「木によって違うが、十年はかかる」


「十年」


「岩人の集落は、時間がゆっくり流れる。十年は、そう長くない」


「そうですか」


「お前は、十年後も来るか」


「来ます」


「この木が、大きくなった頃に来い」


「来ます」


ゴルが、芽を見た。


「十年後、この木に、何かが変わっていればいい」


「変わっています」


「言い切ったな」


「十年続いていれば、変わります。それは言い切れます」


ゴルが、少し笑った。


岩みたいな顔が、少し動いた。


「良い返し方だ」


「ありがとうございます」


「それと、一つ渡すものがある」


「なんですか」


ゴルが、懐から石を出した。


「これを、持って行け」


受け取った。


ゴルの集落の石だった。


岩人の集落の、岩から取った石だった。


硬くて、重かった。


「これが、次の往復の石ですか」


「そうだ。お前が来るたびに、持ってこい。帰るたびに、渡せ。ルナと同じだ」


「ルナのやり方を、ゴルさんも使うんですね」


「良い方法だ。石を持っている間、帰ってこなければ、という気持ちになる。それで、帰ってくる」


「そうですね」


「次に来るとき、持ってこい」


「持ってきます」


「約束か」


「します」


ゴルが、また芽を見た。


「帰れ。ルナが待っている」


「そうですね」


「子どもを、長く待たせるな」


「急ぎます」


「急いで帰れ。でも、また来い」


「来ます」


「石を、忘れるな」


「忘れません」


ゴルが、山の向こうを見た。


「全部、つながっている」とゴルは言った。


「そうですね」


「お前が最初に来てから、色々がつながってきた。泉の水が増えた。東側の斜面に草が増えた。木の芽が出た。レナが外を見たくなった。全部、お前が来たから、始まった」


「きっかけを作っただけですが」


「受け取れ」とゴルは言った。


「受け取ります」


「ゴルも、受け取れ、と言う人間になってきたな」とゴルは言った。自分で言った。


「そうですね」


「ガレス王の言葉が、伝わってきた」


「全部つながっていますね」


「そうだ」


山の風が吹いた。


夏の終わりの風だった。


少し、涼しかった。


「帰ります」


「帰れ」とゴルは言った。


「また来ます」


「来い」


シロが、もう先を歩いていた。


「急いでいますね」


シロが振り返らなかった。


「ルナが待っているから、ですね」


また振り返らなかった。


「分かりました、急ぎましょう」


ゴルの集落を出た。


山の道を、歩き始めた。


石を、握った。


ゴルの山から来た石だった。


重くて、硬かった。


「帰ります」と山に向かって言った。


山が、静かに聞いていた。


シロが、速くなった。


第四部が、ここで終わった。

八十二話目、書きました。第四部、完結です。


「往復する石が変わる」というルナのアイデア。レナの石を返して、ゴルの石を新たに受け取る。石が変わっても、往復するという約束は続く。つながりの形が、少し変わりながらも、続いていく。


レナの「旅した石は、色々なものが染み込んでいます」という言葉。石を長く持ち続けていたことが、石を豊かにした。返すことが終わりではなく、石が旅したという事実が残った。


「十年後、この木が大きくなった頃に来い」というゴルの言葉。十年後を約束した。凪が十年後も来る、というのは、この物語がまだ続くという宣言でもあります。


「受け取れ、と言う人間になってきた」とゴルが自分で言った場面。ガレス王の言葉が、凪を通じてゴルに伝わった。そのゴルが、自分でそれを言えるようになっている。


ルナが手紙を先に送っていた場面。凪が届けるより、ラグル族が先に走っていた。ルナは、ちゃんと準備していた。


第一部から第四部まで、八十二話。読んでくださっている方、本当にありがとうございました。第五部では、また新しい場所へ向かいます。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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