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転生したら、魔王と呼ばれた私が、ただ花を咲かせていた話 第四部  作者: マスター


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第八十一話「カナが、集落を去る日」

八十一話目です。


カナとミアが、アルドに戻ります。ベルクから、戻ってきてほしいという連絡が来ていました。


去る人と、残る人の話です。でも、去ることで、つながりが消えるわけではない。


では、どうぞ。

カナとミアが集落に来て、二か月が経っていた。


ベルクから手紙が来たのは、その頃だった。


「カナへ。国際調査の結果をまとめる作業が始まる。記録係が必要だ。戻ってきてほしい。ミアも一緒に。急ぎではないが、早い方がいい。ベルクより」


カナが、私に見せてくれた。


「戻らないといけないですね」とカナは言った。


「そうですね」


「集落にいたかったですが」


「まだいたかったですか」


「もう少し、いたかったです。でも、ベルクさんが呼んでいます。仕事があります」


「ベルクさんが呼んでいれば、動きますね」


「動きます。記録係として、やることがあります」


「ミアさんも、一緒に戻りますか」


「戻ります。ミアには、まだ話していないですが、戻ると言うと思います」


「ミアさんは、精霊の記録をもっと続けたそうにしていましたが」


「そうですね。でも、ミアは仕事を優先します。そういう子です」



ミアに話した。


「分かりました」とミアは言った。即答だった。「でも、一つだけ」


「なんですか」


「精霊の記録帳、ルナさんに預けていいですか」


「ルナに、ですか」


「私が戻っても、ルナさんが記録を続けてくれれば、精霊の記録が途切れないです。私が戻ったとき、また続きを書けます」


「ルナが続けてくれますか」


「続けてくれると思います。ルナさんは、続けることが得意です」


「そうですね」


「それと、記録の仕方を、もう少し教えていきます。今日と明日で、教えます」


「二日で教えられますか」


「基本は、もう分かっています。あとは、細かいことだけです。ルナさんなら、大丈夫です」



ルナに話した。


「カナさんとミアさんが、戻るそうです」


ルナが、少し止まった。


「いつですか」


「明後日です」


「明後日か」とルナは言った。


「寂しいですか」


「寂しいです」とルナは言った。あっさりと言った。「でも、戻ると言うのなら、仕方がないです」


「仕方がない、で終わりですか」


「終わりじゃないです。また来てもらえばいいだけです」


「来てもらえますか」


「来ます。約束してもらいます」


「そうですね」


ルナが、少し考えた。


「カナさんに聞きたいことがあります」


「なんですか」


「カナさんが、記録係になったのは、なぜですか。聞いたことがなかったです」


「聞いたことがなかったんですね」


「なかったです。そういえば、知らないな、と思いました。聞きます」


「聞いてみてください」



ルナが、カナに聞いた。


夕食の後、池のそばに全員で座っていたとき、ルナが聞いた。


「カナさんは、なんで記録係になったんですか」


カナが、少し考えた。


「忘れたくなかったからです」


「何を忘れたくなかったんですか」


「子どもの頃に見たものです。川がきれいだった日があって、その川の色を、ずっと覚えておきたいと思いました。でも、だんだん忘れていきました。もっとはっきり残しておけば良かったと思いました。それから、大事なものは書いておく、という習慣ができました」


「川の色を、忘れたくなかったんですか」


「そうです。きれいなものは、ちゃんと残しておきたかった」


ルナが、池を見た。


「私も、そうかもしれないです」


「どういう意味ですか」


「ルミが最初に水面に出た日を、忘れたくなかったです。だから、書きました。忘れたくないから書く、という意味では、カナさんと同じです」


カナが、少し目を細めた。


「同じですね」


「同じです」とルナは言った。


「記録を始める理由は、人それぞれ違いますが、忘れたくない、というのは、一番シンプルな理由ですね」


「シンプルが、一番続きます」とカナは言った。


「なぜですか」


「難しい理由で始めると、理由が分からなくなったとき、続かなくなります。シンプルな理由は、なくならないです。忘れたくない、は、何年経っても同じ理由です」


ルナが、うなずいた。


「じゃあ、私は続けられます」


「続けられます」とカナは言った。


「カナさんも、続けられます」


「続けます」


「約束ですか」


「約束します」


「よし」とルナは言った。



翌日、ミアがルナに記録の仕方を教えた。


一日、一緒に池に行って、一緒に書いた。


「今日の記録を、ルナさんが書いてください。私は、横で確認します」


「自分で書いていいですか」


「書いてください」


ルナが、書いた。


ミアが、横で見ていた。


「どうですか」とルナが聞いた。


「良いです。一つだけ、直した方がいい場所があります」


「どこですか」


「ここです。ルミが高い位置にいた、と書いていますが、どのくらい高い位置か、分からないです」


「どう書けばいいですか」


「水面から何センチくらい、と書けると、後で比べられます。毎回同じ基準で書くと、変化が分かります」


「なるほど」


「難しいですが、慣れれば自然に書けます」


「やってみます」


ルナが、また書いた。


「こうですか」


「良いです。これで、後で読んだ人が、どのくらいの高さかが分かります」


「後で読む人のため、ですね」


「そうです」


「カナさんから聞いた言葉ですね」


「そうです。先輩から教わりました」とミアは言った。「私が教えて、ルナさんに伝わった。またつながりました」


「全部つながってる」とルナは言った。


「そうですね」



出発の朝、集落の全員が見送りに来た。


カナが、ガルに向かって言った。


「お世話になりました。良い集落ですね」


「来てくれて、ありがとうございました」とガルは言った。「凪様が変えた集落ですが、カナ様とミア様が来てくれて、また変わりました」


「どう変わりましたか」


「記録が、増えました。記録する人が、増えました。見ること、感じること、言葉にすることが、集落の中に根付いてきました」


「良かったです」


「また来てください」


「来ます」とカナは言った。


ミアが、ルナに記録帳を渡した。


精霊の記録帳だった。


「続けてください」


「続けます」とルナは言った。


「困ったことがあれば、手紙を送ってください」


「送ります」


「返事を書きます」


「必ず?」


「必ず」とミアは言った。


「約束ですか」


「します」


ルナが、満足した顔をした。


カナが、私に向かって言った。


「凪さん、一つだけ言っていいですか」


「なんですか」


「施設から助けてもらったとき、凪さんが来てくれたことが、一番の支えでした」


「カナさんが、渡さない、と言い続けたから、助けられたんです」


「でも、来てくれたから、渡さないと言い続けられました」


「そうですか」


「来てくれると、信じていたから、続けられました」


「エイラさんが、根拠のない信頼と言っていましたね」


「根拠がなくても、信じていました。凪さんなら来てくれる、と思っていました」


「来ました」


「来てくれました」


「また、困ったときは、来ます」


「来てくれますか」


「来ます」


「それで、十分です」とカナは言った。


ミアが、私に向かって言った。


「凪さん、全部、記録しています」


「全部、ですか」


「凪さんが来た日から、今日まで。全部、残っています」


「それは、大事な記録ですね」


「大事な記録です。後で、誰かが読んだとき、凪さんが動いたことが分かります。消えないです」


「ありがとうございます」


「礼はいいです。記録することが、私の気になることなので」


「気になることに向かっていますね」


「凪さんから、うつりました」とミアは言った。笑いながら言った。



シロが、カナとミアの横についた。


少し離れたところまで、一緒に歩くつもりらしかった。


「シロも、見送りますか」


シロが尻尾を振った。


「そうですね、見送りましょう」


集落の外まで、全員で歩いた。


外に出たところで、カナが振り返った。


「また来ます」


「待っています」とルナが言った。


「ルミが、もっと大きくなった頃に、来てください」とルナは言った。


「来たとき、見せてください」


「見せます。一番いい日に、来てください」


「一番いい日は、いつですか」


「分からないです。でも、ルミを見れば、分かります」


「分かりました。見てから、判断します」


「そうしてください」


カナが、また歩き始めた。


ミアが、最後に振り返った。


「記録、続けてください」とルナに向かって言った。


「続けます」とルナは言った。


「信じています」


「信じていいです」


ミアが、笑いながら歩いた。


二人の背中が、遠くなった。


「また来てくれますか」とルナが聞いた。


「来ます」と私は言った。


「言い切りましたね」


「言い切りました。カナさんは、約束を守る人です」


「そうですね」


シロが、二人の後ろ姿を見ていた。


しばらく、見ていた。


それから、集落の方を向いた。


戻ろう、という顔だった。


「帰りましょう」


全員で、集落に戻った。


少し、静かになった集落だった。


でも、静かさが、寂しさではなかった。


あるものは、ちゃんとあった。


ルナが、精霊の記録帳を持っていた。


「今日の記録、書きます」


「書いてください」


「カナさんとミアさんが帰った日、と書きます」


「そうですね」


「でも、帰った、ではなく、アルドに戻った、と書きます」


「違いがありますか」


「帰った、というと、もう来ない感じがします。アルドに戻った、というと、また来てくれる感じがします」


「言葉で、変わりますね」


「変わります。同じことでも、どう書くかで、違って残ります」


「カナさんが喜ぶ記録の仕方ですね」


「そうですね」とルナは言った。


「書いてください」


「書きます」


ルナが、記録帳を開いた。


書き始めた。


集落が、また動き始めた。


八十一話目、書きました。


カナとミアが去る話でしたが、去ることで物語が終わるのではなく、つながりが別の形になる話として書きました。記録帳をルナに渡す、返事を必ず書く約束をする、また来ると言う。去る形が、次のつながりを作っていました。


「川の色を忘れたくなかったから記録係になった」というカナの答え。忘れたくない、というシンプルな理由が、記録を続ける一番強い動機だった。ルナの「ルミが水面に出た日を忘れたくなかった」という気持ちと同じ構造でした。


「帰った、ではなくアルドに戻った、と書く」というルナの言葉。言葉の選び方で、残り方が変わる。ルナが、記録の深いところを自分で気づいていた場面でした。


ミアの「全部記録しています。消えないです」という言葉。凪が動いたことは、記録に残っている。それが、一番の贈り物かもしれないです。


シロが二人の背中をしばらく見ていた場面。シロが、別れに何かを感じている。言葉では表さないが、見続けていた。それだけで十分でした。


また明日。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:クルス(Claude)

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