第12話:ダンジョン突入! モンスターはただの電気資源です
第2章の本格的な幕開けです!
地球人が「世界滅奏の予兆」として震え上がっていた新宿ダンジョンと大氾濫。
その最前線に突入したルシードたちが、人類の天敵たる魔獣を「ただの動く生ゴミ」として、圧倒的な超魔法科学で次々と最高級のクリーンエネルギー結晶へとリサイクルしていく、爽快な格差蹂躙無双の始まりをではでは、お楽しみください!
世界中のあらゆる軍隊が頭を抱え、既存の近代兵器をことごとく跳ね返してきた人類の天敵、現代ダンジョン。
その日本最大にして最悪の陥没地帯である『新宿ダンジョン』の入り口は現在、重戦車や対空機関砲を並べた自衛隊の厳重な防衛線の内側にあった。
防護服に身を包んだ隊員たちが張り詰めた空気の中で銃を構え、数日後に迫る『大氾濫』の予兆を告げる、地下からの不気味な地鳴りに怯えている。
そんな絶望の最前線に、場違いなほど軽快な足取りで現れたのが、ザーランド王国の使節団長ルシードと、その部下のミリア。
そして、完全に胃に穴が空きそうな顔をした案内役の天野晴斗一尉であった。
「天野一尉! あちらの地下へと続く大穴が、産業廃棄物の集積所ですね。では、早速入りましょう!」
ルシードはピクニックにでも行くかのような爽やかな笑顔で、頑強なコンクリートで固められた地下への階段を指差した。
「待ってください、ルシードさん!
本当に入るんですか!?
この初層だけでも、世界中の偵察隊が何十人も犠牲になっているんです。突入した特殊部隊の装甲車が、化け物の爪一振りで缶詰みたいに切り裂かれたんですよ!」
天野が必死に引き止めるが、ルシードの横に立つミリアは、手にした『超高密度エネルギー吸引魔導ホウキ』を器用にくるくると回しながら、無邪気な声を上げた。
「大丈夫ですよ、天野さん! ルシード様が仰った通り、あそこにいるのはただの『エネルギーの燃え残り』です。ゴミがちょっと動いているだけですから、私のこのホログラフィック掃除機で、まとめて吸い取って綺麗な電気結晶に変えちゃいますであるよ!」
とあれだけの高度な科学ぎじゅっと魔法があっても、翻訳に関してはまだ完ぺきではないようだ。
「いや、動く生ゴミの規模が違うんだって……!」
天野のツッコミを置き去りにしたまま、ルシードとミリアは迷いのない足取りで、暗黒の口を開ける地下階段へと足を踏み入れてしまった。
天野は「もうどうにでもなれ!」と半ばやけくそで、自動小銃を抱え直してその後を追った。
階段を降りた先には、地球の近代的な地下街の面影をベースにしながらも、壁一面が不気味な紫色の結晶組織に浸食された、異様な大空間が広がっていた。
足元を進むにつれて、空気の粘度が上がっていくのがわかる。
地球の有識者たちが『魔素』と呼んで恐れている、生物を凶暴化させる未知の粒子だ。
「うわあ……これはひどいですね」
ルシードは眉をひそめ、仕立ての良い白い外套の襟元を少しだけ整えた。
「エネルギーの未処理ガスが完全に室内に充満しています。
換気システムが一切機能していない証拠です。
地球の皆さんは、こんな不衛生な空間に生身で調査に入っていたのですか?
呼吸器系に有害なカビの胞子が混ざっているようなものですよ」
ルシードにとっては、人類が戦慄する魔窟も、ただの「風通しの悪い汚部屋」にしか見えないらしい。
その時だった。
空間の奥から、――グルルルルッ……! という、地響きのような唸り声が響いた。
壁の結晶の影から姿を現したのは、体長4メートルを超える巨大な魔獣『ガルム』の群れだった。
鋼鉄以上の硬度を持つ漆黒の毛並みに、戦車の装甲を噛み砕く大顎。
その目は血のように赤く光り、口元からはドロリとした強酸性の涎がアスファルトの床に滴り落ちていた。
「出た! 突入部隊を壊滅させた、初層の門番『地獄の凶狼』だ! 天野一尉、下がれ!」
天野が本能的に銃を構え、安全装置を解除する。
自衛隊の装備にはルシードが無断で付与した『完全無敵バリア』があるため、噛み殺される心配はない。
しかし、あの巨体に押し潰されれば、ただでは済まないという恐怖が染み付いていた。
凶狼の群れは、侵入者を発見するなり、凄まじい爆風を巻き起こしながら弾丸のような速度でルシードたちへと跳躍した。迫り来る圧倒的な死の爪。
だが、ルシードとミリアの表情には、微細な動揺すら浮かばなかった。
「ミリア、お掃除を開始しなさい。
周囲の壁を傷つけないように、吸引の出力を調整してね」
「はい、ルシード様! 新宿ダンジョン大掃除、フェーズ1、スタートです!」
ミリアが手にした魔導杖を地面にコツンと突き立てた。
次の瞬間、彼女の周囲に淡いエメラルドグリーンの幾何学的な魔法陣が展開される。
――ふわん。
襲いかかってきた巨大な凶狼たちの爪が、ルシードの1メートル手前に展開された、目に見えない優しいバリアの膜に接触した。
戦闘機を押し返したあの絶対の拒絶。
ガルムたちは、まるで限界まで膨らませた最高級のウォーターベッドに突っ込んだかのように、その場にピタリと全運動量を吸収され、空中でマヌケに手足をバタつかせた。
「ギャンッ!?」
狼たちの困惑したような悲鳴。間髪入れずに、ミリアが杖の先端のトリガーを引いた。
「全自動・魔力クラッキング吸引、スイッチオン!」
――ズズズズズズズズズッ!!!
その音は、まさに家庭用の強力な掃除機が、絨毯の上のホコリを豪快に吸い上げるときの音そのものだった。
ただし、吸い込まれているのはゴミではなく、体長4メートルを超える地獄の凶狼たちである。
ミリアの持つ魔導杖の先端に、超小型の時空歪曲収束点が出現し、ガルムたちの巨大な身体が、まるで紙粘土か何かのようにグニャリと引き伸ばされ、その中心へとズブズブと吸い込まれていく。
近代兵器の機関砲すら弾いた強靭な皮膚も、超重力の吸引力の前には何の抵抗の役にも立たない。数万の自衛隊員が絶望していた怪物の群れが、文字通り「ズズッ、ズバババッ!」と、あっけなく杖の先端に吸い尽くされてしまった。
空間には、再び静寂が戻る。戦闘の硝煙も、怪物の血の匂いもない。
ミリアが杖をひと振りすると、カチャリと小気味良い音がして、杖の根元のスロットルから、親指ほどの大きさの、青く美しく輝く四角い結晶が数個、ポロンと床に転がり落ちた。
「よしっ! 凶狼型エネルギー廃棄物、合計5頭、綺麗に回収完了です!」
ミリアは嬉しそうにその結晶を拾い上げ、ルシードへと手渡した。
「うん、上質な仕上がりだ。不純物が綺麗に濾過されているね」
ルシードはその結晶を太陽にかざすように見つめ、感心したように頷いた。
「天野さん、これを見てください。
これが我が国のリサイクル技術です。
この結晶ひとつで、貴国の一般的な家庭の電力を、およそ30年間、完全無公害で賄い続けることができます。
もちろん、スマートフォンなら何千万回でも充電可能ですよ」
「……は? 30年……? スマホ何千万回……?」
天野は自動小銃を構えた姿勢のまま、完全に石化していた。
地球の科学者たちが莫大な予算をかけて研究している次世代エネルギーや核融合を、この異世界娘は「お掃除のゴミ」から、わずか数秒で、しかも完全なクリーンエネルギーとして精製してしまったのだ。
「す、凄い……。これがあれば、日本の火力発電所も原子力発電所も、全部必要なくなっちまうじゃないか……」
天野の呟きに、ルシードは満足そうに微笑んだ。
「ええ。ダンジョンの中層や最深部には、これの何万倍もの高濃度ゴミ(モンスター)が眠っているのでしょう? あと数日で大氾濫が起きるということは、それだけの莫大なエネルギー資源が、向こうから勝手に地表へ溢れ出てきてくれるということです。
なんて素晴らしい、資源大国(日本)なのでしょう! 私、日本の足元の豊かさに、また感動してしまいました!」
「いや、それ大氾濫だから! 地球が滅ぶレベルの災害だからね!?」
天野の必死の叫びも、ルシードの耳には「照れ隠し」程度にしか聞こえていないようだった。
「さあ、お掃除の効率を上げましょう。
ミリア、広域吸引モード(フェーズ2)に切り替えて、この層のゴミを一網打尽にしますよである」
「了解です、ルシード様!
日本の電力自給率1000%を目指して、ガンガン吸い取っちゃいま~す!」
銀河最強のお節介国家による、新宿ダンジョンの「大掃除」という名の無自覚な資源回収無双。
地球の常識とエネルギー革命の基盤が、今、新宿の地下深くで、恐ろしいほどの速度で書き換えられようとしていた。
第12話をお読みいただき、ありがとうございました!
体長4メートルの凶狼たちが、ミリアの『魔導ホウキ(掃除機)』によって「ズズズッ」とマヌケに吸い込まれ、日本の電力を30年賄えるクリーン結晶に変えられていく、圧倒的な格差描写を描かせていただきました。
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