第11話:新宿ダンジョンと、世界滅亡の予兆
ここから第2章『現代日本の脅威? ダンジョンなんてただの資源です』がスタートします!
第1章で日本の政界と安全保障を完全に「洗濯」したルシードたち。今回からは、現代地球を蝕みつつある未曾有の脅威――『現代ダンジョン』へと、その圧倒的なお節介の矛先が向けられます。
地球人が絶望するモンスターパニックの予兆を、ザーランド王国がどのように「無自覚」に、そして「平和的」に蹂躙していくのか。
ではでは、新章の幕開けを大ボリュームでお楽しみください!
日本の政治界に巣食っていた売国奴や利権政治家、
そして影から糸を引いていた超大国の工作員という名の「不純物」が物理的に一掃され、
空気が高原のロッジのように瑞々しく澄み渡った新生・東京。
長年どんよりと漂っていた排気ガスや有害な電磁波までもが、ザーランド王国の散布した微小魔導ナノマシンによって完全に無害化され、秋晴れの青空はどこまでも透き通り、国民は「永田町の洗濯」に今なお歓喜の声を上げ続けていた。
しかし、その輝かしい平和の裏側で――地球の自衛隊、そして臨時政府に集められた一部の最高有識者たちは、もう一つの、文字通り「人類滅亡のカウントダウン」に直面し、血の気の引いた顔で頭を抱えていた。
「――天野一尉。
君がザーランド王国の使節団に同行し、国会のリセットに立ち会っている間に……
地上の事態は、我々の想定しうる最悪の局面を迎えてしまった」
防衛省の最深部、厳重なセキュリティに守られた極秘地下作戦室。
大型メインモニターに映し出された不気味に明滅する日本地図の前に、臨時政府の首相代行となった小鳥遊や、最高顧問の鬼塚、そして各幕僚長たちが険しい表情で立ち並んでいた。
その視線の先、案内役である陸上自衛隊の天野晴斗一尉の目の前で、東京の、それも新宿の中心地が禍々しい深紅の光で激しく点滅している。
それは、数ヶ月前から世界各地の主要都市に突如として出現し始め、核兵器を含む既存のあらゆる近代科学兵器がほとんど通用しない、凶悪な魔物の巣窟――『現代ダンジョン』の監視レーダーだった。
「世界中にできたダンジョンの中でも、我が国の足元にある通称『新宿ダンジョン』の最深部で、過去に類を見ない異常な魔力濃度の上昇、および空間歪曲の拡大が確認された。
……これが何を意味するか、君にも分かるな?」
小鳥遊が、唇を噛み締めながら声を絞り出す。天野の背中に、冷たい汗がドッと噴き出した。
「ダンジョン内の許容量を超えた数万、数十万の魔物が、一斉に地上へと溢れ出して周囲のすべてを蹂躙する大災害――『大氾濫』だ。
現在の予測データによれば、あとわずか三日……いや、下手をすれば四十八時間以内に、新宿駅の地下からおぞましいモンスターの軍勢が津波のように噴き出す。アメリカの諜報機関が消滅した今、他国からの支援も期待できない。
我が国の、いや、地球の現有戦力では、東京という首都が文字通り血の海に変えられ、壊滅していくのを、ただ指をくわえて見ていることしかできないんだ……!」
小鳥遊は、あまりの無力感と悔しさから、血が滲むほどに固く拳を握り締め、作戦机の鉄板を激しく叩きつけた。ガシャァンと悲鳴を上げるモニター。
第1章のラストで、ルシードが「友好同盟の締結祝いのお守りパック」として、日本全国の自衛隊の戦車、護衛艦、戦闘機といった全装備に『核爆発・因果干渉耐性バリア』を無断で付与してくれた。
おかげで、自衛隊員たちの命はどんな攻撃を受けても絶対に傷つかない、完全無敵の肉体を得ている。
しかし、それはあくまで「防御」の話なのだ。隊員の命は守られたとしても、数万頭の魔物が街に溢れ出せば、高層ビルは破壊され、一般市民は虐殺され、文明のインフラは完全に物理粉砕されてしまう。
東京を守り、怪物の進撃を止めるための「絶対的な攻撃力」は、今の日本にはどこを探しても存在しなかった。
「あの……それについてなんですが」
あまりの重苦しい絶望に全員が息を詰まらせる中、天野一尉だけが、顔の筋肉をピクピクと引きつらせた、なんとも言えない奇妙な苦笑いを浮かべながら右手を挙げた。
「君にこんな過酷な現実を突きつけてすまない、天野一尉。だが、君の意見も聞かせて――」
「あ、いえ、そうじゃなくてですね。
……実は昨日、同盟条約にサインした直後、ルシードさんが『東京の地下に怪しい野生の歪みを見つけたから、明日お守り代わりに安全な全自動ゴミ処理施設に変えてあげるね』って、ものすごく爽やかな笑顔で言ってたんですが……」
「…………は?」
小鳥遊首相代行の口から、間の抜けた声が漏れた。
作戦室にいた各幕僚長や有識者たちの思考が、あまりの文脈の崩壊に完全に停止した、まさにその瞬間だった。
――プシューッ。
重厚な防爆自動ドアが、これ以上ないほど軽快な電子音を立てて左右に開いた。
「お待たせしました、天野一尉! いやあ、日本の地下施設は潜るのが少し大変ですね。
さあ、健気な日本の平和を足元から脅かす、あの不愉快な地下の歪みを、私たちの魔法科学できれいにデトックスしに行きましょう!」
自動ドアの向こうから現れたのは、部屋全体の空気を一瞬で華やかに変えるほどの、眩いばかりのピュアな笑顔を輝かせたルシードだった。
そしてその背後からは、お出かけ用の軽装(といっても地球の最新鋭戦車の徹甲弾を直撃させても傷一つ付かない超魔導絹織物のドレス)に身を包み、ご機嫌な様子で鼻歌を歌っている聖騎士のミリアが続いて入室してきた。
「ル、ルシード殿……! ミリア殿……!」
小鳥遊が慌てて机を回り込み、すがるような、しかし狂気をはらんだ目でルシードの前に立ち塞がった。
「し、新宿の地下に何があるか、本当にご存知なのですか!?
あそこは、あなた方の言うような単純な歪みなどではない!
近代兵器の直撃すら耐えうる強靭な皮膚と、人間を一噛みで噛み砕く牙を持った、恐ろしいモンスターが数万頭もひしめき合っている暗黒の魔窟なのです!
あと三日もすれば、それらが地上へ一斉に這い出し、この東京を、日本を完全に滅ぼし尽くす悪夢の大氾濫が起きようとしているのですよ!?」
大真面目に、人類の存亡を賭けた絶望を熱弁する小鳥遊。
だが、その必死な訴えを聞いたルシードは、驚く様子を一切見せず、それどころか「なるほど……可哀想に」と、まるで怪我をした野良犬を見つめるかのような、底知れない哀れみを含んだ聖母のような微笑みを浮かべて深く深く頷いた。
「ああ、なるほど……そういうことでしたか。地球の皆さんは、本当にどこまでも健気で、そして……あまりにも可哀想だ。
魔法の保護障壁すら持たない脆弱な生身の身でありながら、あのような『未精製の野生エネルギーの塊』が足元にプンプンと湧き出している過酷な環境で、毎日怯えながら暮らしていたのですね。私、改めてあなた方の健気さに胸が締め付けられそうです」
ルシードは、そっと目元を拭うような仕草をしてみせた。
「……あの、ルシードさん。未精製の野生エネルギーの塊、とは……?」
調子を狂わされた天野一尉が、恐る恐るオウム返しに尋ねる。
「ええ、天野さん。我が国の超魔法科学の定義から言わせていただければ、あなた方が『現代ダンジョン』と呼んで絶望しているあの場所は――
ただの『時空の歪みに溜まった、未処理の高濃度魔力エネルギーの産業廃棄物(生ゴミ箱)』に過ぎません。そこから湧き出てくる『モンスター』とかいう生物のようなものは、そのゴミ箱の中で行き場を失った不純なエネルギーが、周囲のチリを吸って一時的に実体化した、いわば『動くエネルギーの燃え残り』です」
ルシードは、まるで
「台所の三角コーナーを放っておいたら、ちょっとカビが生えちゃったであるね」
くらいの、極めて日常的で些細な家庭の衛生問題について語るかのような気軽さで言い放った。
地球を、人類を数ヶ月で滅亡の淵へと追いやった、全人類の天敵たるモンスターの群れ。それが、銀河最強の国にとっては、ただの「未処理の生ゴミ」「三角コーナーの燃え残り」扱いなのである。圧倒的すぎる格差。
「我が国の建国千年前の、まだ魔法科学が未発達だった原始的な時代にも、そのようなエネルギーの吹き溜まりは街のあちこちにありました。
放置すると確かに悪臭がしたり、燃え残りが暴れて壁を傷つけたりして危ないので、我が国の環境テクノロジーで、あそこを『全自動エネルギー回収ゴミ箱』にリフォームして差し上げます。
そうすれば、モンスターとかいう可哀想な燃え残りも、システムが自動で綺麗にクラッキングして、すべて無公害なクリーン電力(結晶エネルギー)に変換できますからね! 日本の電力問題も、これで一発で解決です!」
「クリーン電力……地球を滅ぼす大氾濫のエネルギーを、そのまま発電に回すっていうのか……!?」
各幕僚長たちが、あまりの次元の違いに白目を剥いてガタガタと震え出した。
「さあ、案内してください、天野一尉! 健気な日本国民の皆さんが、二度と足元の生ゴミに恐怖しなくて済むように、我が国の最高技術で徹底的に『年末の大掃除』をいたしましょう!」
「はい、ルシード様!
私、お掃除用に最新型の『超高密度エネルギー吸引魔導ホウキ(※惑星間通信機能および大気圏突入耐性付きのチート魔導杖)』をバッチリ持ってきました! モンスターさん、全員まとめて綺麗にチリ紙に変えちゃいま~す!」
元気いっぱいに、遠足へでも行くかのような笑顔でチート杖をぶんぶんと振り回すミリア。
その後ろ姿を見送りながら、天野一尉は確信していた。
地球の全人類が絶望し、世界の終わりを予感していた「現代ダンジョン」という名の最大最悪の悪夢が、今、銀河最強のお節介国家の「大掃除」という名のお節介によって、文字通りただのクリーン資源として平和的に蹂躙されようとしているのだ、と。
天野は、これからの地球の「常識」が跡形もなく崩壊していく激しい胃の痛みに耐えながら、新宿の地下深くへと続く、誰もが恐れる絶望の入り口へと彼らを案内するため、重い足取りで歩き出すのだった。
第2章の第11話をお読みいただき、ありがとうございました!
地球人が「世界滅亡の予兆」として絶望していた大氾濫と新宿ダンジョンを、ルシードたちが「足元の生ゴミ」「産業廃棄物」と一蹴する、圧倒的な格差描写を描かせていただきました。
次回、第12話ではついにルシードたちがダンジョン内部へ突入! 地球の調査隊が総がかりでも突破できなかった初層の凶悪モンスターたちを、ルシードたちが「お掃除」感覚で次々と綺麗なエネルギー結晶(電気)に変えていく、爽快な無自覚無双が始まります!
もし新章の幕開けもワクワクした、続きが早く読みたいと感じていただけましたら、ぜひぜひ感想の書き込みや作品への評価(ブックマーク・応援)をよろしくお願いいたします!




