第10話:新生・日本と、お節介の始まり
第1章の完結編となる第10話をお届けします。
売国奴や腹黒い政治家、そして裏で操っていたA国のハンドラーたちまでが完全に一掃され、真の意味でクリーンになった日本。残された誠実な議員たちによる臨時政府とザーランド王国が、いささか強引ですが、歴史的な友好条約を結びます。
第1章の締めくくりとして、最高のカタルシスの余韻を残しつつ、ルシードたちの次なる「お節介チート」が炸裂して日本側がひっくり返る、コミカルで引きの強い結末をお楽しみください!
ドス黒いシミがすべて洗い流された国会議事堂は、信じられないほどの清涼感に満ちていた。
昨日の大洗濯が嘘だったかのように、
本会議場には澄み切った秋の終わりのような涼風が吹き抜けている。
あのヘドロのような私利私欲を撒き散らしていた数百人の政治家たち、
そして日本を影から家畜のように調教していたA国のハンドラーたちが身一つで強制転移させられた議場は、
いまや物理的な意味でも、
そして政治的な意味でも、
一切の曇りがない純白の空間へと生まれ変わっていた。
この前代未聞の「政界完全消滅」という超常現象は、国会中継を通じてリアルタイムで日本全国、そして全世界へと発信されていた。
当然、地球上は大パニックに陥っていた。
特に、自国の精鋭エージェントたちがホワイトハウスの作戦会議室の机の上や、情報本部の廊下に全裸同然でポコンと強制送還されたA国政府は大騒ぎとなり、事実上の機能停止に陥っていた。
他国を脅迫するための極秘データがすべて日本側に自動転送されてしまったため、カードをすべて失った大国たちは、日本に対して一切の手出しができなくなってしまったのだ。
一方で、日本の一般国民の反応は、大国たちの絶望とは真逆のベクトルで爆発していた。
『おいおいおい、本当に日本の腐った政治家が全員消えちまったぞ!』
『それだけじゃない、アメリカの裏金工作や脅迫の証拠データまで全部開示されてる!』
『異世界人、怖すぎるけど……最高にスカッとしたわ!』
『今まで誰もできなかった政界のデトックスを、まさか一瞬でやってのけるなんて』
インターネット上は歓喜の怒涛に包まれ、新宿の街頭では人々が恐怖を忘れ、空に浮かぶ黄金のシールドに向かって感謝の拍手を送る姿さえ見られた。
国民は、突然現れた超文明の隣人に対し、恐怖ではなく、底知れない感謝と親愛の情を抱き始めていたのだ。
そして大洗濯の翌日。
日本政府は、
奇跡的に議場に残された「泥を被った硝子の盾」こと鬼塚議員を最高顧問に迎え、小鳥遊議員をはじめとする誠実で志の高い若手たちを中心とした、前代未聞の「臨時救国内閣」を驚異的なスピードで発足させた。
「ルシード殿、そしてミリア殿。我が国の歪んだ膿を、その根底からすべて出し切ってくれたこと、新政府を代表して、何とお礼を言っていいか分からない」
新たに首相代行の座に就いた小鳥遊は、傍聴席から議場へと降りてきたルシードの手をがっしりと両手で握り締め、何度も深く頭を下げた。
その小鳥遊の隣では、最愛の家族の安全をザーランドの親衛隊によって完全に保護され、長年独りで背負い続けてきたドス黒い重圧から解放された鬼塚が、まるで憑き物が落ちたかのような、信じられないほど穏やかで優しい好々爺の笑顔を浮かべている。
「いえ、礼には及びませんよ、小鳥遊さん」
ルシードは、まるで近所のゴミ拾いでも手伝ったかのような、あまりにも当然の、そして濁りのない爽やかな微笑みを浮かべて首を振った。
「私たちはただ、魔法の防衛結界もないこれほど過酷な地球という環境で、生身の命を賭けながら、それでも自ら『戦争の放棄』を定めた世界最高峰に美しい憲法を掲げる、気高く健気な同志(日本)を応援したかっただけです。
そのような素晴らしい国を、内側から蝕む不純物が放置されているのが、同じ平和主義者としてどうしても見過ごせなかったのです」
ルシードの言葉には、1ミリの傲慢さも、見返りを求める下心も存在しなかった。ただひたすらに純粋な善意とお節介。だからこそ、老獪な政治の世界で生きてきた鬼塚たちにとっては、その眩しさが胸に染みる。
「日本の皆さんの魂の高潔さは、昨日の天秤によって完全に証明されました。
そこで――」
ルシードは仕立ての良い白い外套の懐から、きらきらと幾何学的な光の紋章が刻まれた、透明なホログラム輝板を1枚取り出した。それを空間に浮かべると、美しく洗練された文字列が空中に投影される。
「我がザーランド王国と、新しく生まれ変わった日本国との間で、正式な『不可侵および絶対専守防衛同盟』の締結を提案させていただきます。
我が国の至高の憲法に基づき、この条約を交わした同盟国には、我が国が誇る銀河最高峰の『絶対防衛システム』の全ネットワークが、無条件で共有されることになります」
「え……? ぜ、絶対防衛システムを、共有……!?」
小鳥遊首相代行をはじめ、議場に残った数人の若手議員、そして案内役として背後に控えていた陸上自衛隊の天野晴斗一尉の全員が、その言葉に文字通り顎が外れんばかりに驚愕した。
地球の常識、国際政治の冷徹な現実からすれば、核ミサイルすら高級クッションのように優しく弾き返すほどの超テクノロジーを他国に提供するとなれば、国家予算の半分を永遠に吸い上げられるような不平等条約や、領土の割譲、あるいは事実上の属国化を要求されるのが当然である。
「あの、ルシード殿……。我が国は今、先ほどの大洗濯によって国家の機能が著しく低下しており、そのような超技術の対価として支払えるような、莫大な資金も資源もありません。
それなのに、無償で共有していただけるというのですか……?」
小鳥遊がおそるおそる、騙されているのではないかという一抹の不安を抱えながら尋ねると、ルシードは不思議そうにパチクリと碧い目を瞬かせた。
「対価?
必要ありませんよ。
我が国は平和を愛する国ですから、テクノロジーを武器にして他国から利益を貪るような真似は、憲法で厳格に禁止されています。
同盟国が安全になることは、我が国の防衛にとってもプラスですからね。
……ああ、でも、もし可能であれば、ひとつだけ、本当にお礼の気持ちとして、我が国の国民のために許可していただきたいことがあるのですが……」
ルシードが少しだけ申し訳なさそうに、頬を微かに染めて切り出した。
小鳥遊たちは身構えた。やはり、何か恐ろしい裏の条件があるのではないか、と。
生体サンプルか、あるいは地球の未知のエネルギーか。
「何でしょうか、ルシード殿。我が国にできることであれば、なんなりと仰ってください」
「ありがとうございます。
実は昨日、案内役の天野一尉から、日本の文化の結晶であるという『漫画』の本を数冊、
それから『和食のレシピ』、
そして『アニメ』
という素晴らしい映像媒体のデータをいくつか共有していただいたのです」
ルシードは、まるで国宝でも扱うかのように、自身の端末を愛おしそうに撫でた。
「それを我が国の解析班に回したところ、信じられない事実が判明しました。
これらは、万物の根源たる精神を癒やし、魂の汚れを完璧にデトックスする、素晴らしい高位精神魔法の結晶です!
我が国の国民も、これを見た瞬間、あまりの素晴らしさに全員が感動の涙を流しました。
ですので、できれば今後、日本で制作される『アニメ』や『漫画』、そして『美味しいご飯の技術』のデータを、我が国へ定期的に輸出することを認めていただきたいのです。
これほど高度な精神魔法を日常的に生み出しているなんて、日本は本当に素晴らしい魔法大国ですね!」
「「「……は?」」」
議場内の全員の思考が、再び完全に停止した。
地球を丸ごと一瞬で消滅させられる超文明の、国家の安全を永久に保証する「絶対防衛条約」。その対価が、日本のオタク文化と和食のレシピ。
あまりにも次元が違いすぎる格差と、ザーランド側のお人好し極まるズレた大絶賛に、日本側は怒涛のカルチャーショックを受け、ただただ呆然とするしかなかった。
「えっ、あ、アニメのデータだけでいいんですか……!? 兵器のライセンスとか、レアメタルの採掘権とかじゃなくて、本当にアニメと漫画と唐揚げのレシピだけでいいんですか……!?」
天野一尉が、あまりの常識の崩壊に耐えかねて、カエルの潰れたような素っ頓狂な声を上げた。
「天野さん、何を仰っているので~すか!」
隣のミリアが、ぷくーっと頬を膨らませて天野を叱りつけた。
「アニメや漫画は、私たちの世界にない最高の宝物です!
あんなに美味しいラーメンや唐揚げの技術を、タダで教えてもらうなんて、むしろ私たちのほうが申し訳ないくらいなんですよ!?
ルシード様、早く条約にサインを!」
「ええ、そうですね」
ルシードの促しに、小鳥遊首相代行は震える手で万年筆を握り、ホログラム輝板へと自身のサインを滑らせた。
その瞬間、輝板が美しい黄金の光を放って空間へと溶け込み、ザーランド王国と日本国との間で、歴史的な友好同盟が正式に締結された。
日本が名実ともに、銀河最強の盾を手に入れた、歴史的な不戦国家となった瞬間であった。
「よかったですね、ルシード様! これで日本の皆さんも安心です!」
「ああ、本当によかった。
……さて、せっかく正式に同盟も結ばれたことですし、さっそく我が国の魔法科学の慣例に従って、日本全土へ『同盟国への初期防衛お守りパック』を遠隔適用しておきましたよ」
ルシードが、窓の外の青空を見上げながら、何気なく、本当に何気なく付け加えた。
その言葉を聞いた瞬間、天野一尉の脳内で、これまでの経験から培われた「嫌な予感」のアラートが大音量で鳴り響き、防衛本能がピクリと反応した。
「……あの、ルシードさん。ちょっと確認したいんですが。
その、初期防衛お守りパックって、具体的に……日本の何に、何をしたんですか?」
天野の額から、タラリと冷たい嫌な汗が伝い落ちる。
「ああ、本当に大したことではありませんであるですよ」
ルシードは爽やかに笑い、親指と人差し指で『ほんの少し』というジェスチャーを作ってみせた。
「まず、東京や新宿の周辺の空気に漂っていた、あの痛々しい化石燃料の毒素(排気ガス)や有害な電磁波が可哀想だったので、上空の艦隊から微小魔導ナノマシンを日本全土に散布して、一瞬で常に標高二千メートルの高原のロッジのような、澄み切った大気に清浄化しておきました。
これで日本国民の皆さんの健康寿命は、平均で三十年は伸びるはずです。
それから、自衛隊の皆さんの持っている武器や、あの危なっかしい戦闘機ですが……」
「戦闘機が、何かしましたか……っ!?」
天野の声が裏返る。
「ええ、あまりにも装甲が薄くて、防衛シールドも張らずに飛んでいて本当に危なっかしかったので、日本国内にある全ての自衛隊の戦車、護衛艦、そして戦闘機に、我が国の『核爆発・因果干渉耐性バリア』を無断で……あ、いえ、親愛のお節介で常時付与しておきました!
これで万が一、地球のどこかの乱暴な大国が日本に向けて核ミサイルや弾道弾を撃ち込んできても、日本列島に触れた瞬間に、優しい高級クッションのようにふわんと弾き返されて、すべて自動で無力化(花火に変換)されます。
自衛官の皆さんの命は、これで完全無敵に保護されましたので、安心してパトロールしてくださいね!」
「完全無敵……っ!? 無断で自衛隊をチート化しやがったーーーっ!?」
天野一尉は、ついに頭を抱えてその場にしゃがみ込み、白目を剥きそうになった。
日本政府や、世界中の軍隊が数十年かけても、何百兆円の予算を投じても絶対に不可能だった「日本全土の完全無敵化」と「環境問題の完全解決」が、同盟締結のお祝いの「おまけ(お節介)」として、勝手に、無断で、わずか一瞬のうちに完了してしまったのだ。
これでは、これからの地球の軍事バランスが根底からひっくり返ってしまう。
しかし、ルシードたちのお節介は、これだけでは終わらなかった。
ルシードの手の中の端末がピピピと電子音を鳴らすと、彼は楽しそうに画面を見つめ、小鳥遊たちに向けて微笑んだ。
「ああ、それからもうひとつ。東京の地下深くから、なんだか未知の、非常に高濃度な野生魔力の歪み……あなた方が『ダンジョン』と呼んで怯えている吹き溜まりを検知しました。
地球の皆さんは魔法シールドがない生身ですから、あそこからモンスターとかいう可哀想な燃え残りが溢れ出してきたら、大変なことになりますよね?」
ルシードは、まるで「台所の三角コーナーにカビが生えちゃったね」くらいの気軽さで、地球滅亡の予兆である新宿ダンジョンを指差した。
「ですので、明日は私たちがその『ダンジョン』とやらへ直接向かい、安全で綺麗な『全自動エネルギー回収ゴミ処理施設』にリフォームして差し上げようと思いであるでます!
そうすれば、モンスターも綺麗な電気に変換できて、日本の電力問題も解決しますからね!」
「だ、ダンジョンを……ただの全自動ゴミ処理施設に――!?」
日本の政治の闇をすべて洗濯した異世界の超文明は、今度は地球の常識と、人類最大の脅威を、その圧倒的すぎるピュアな善意で、平和的に蹂躙し始めようとしていた。
世界最強のお人好し国家と、それに振り回され続ける健気な日本の、凸凹で痛快な未来は、まだ始まったばかりである。
(第1章・完結 / 第2章へ続く)
第1章(第1話〜第10話)を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
日本の政治の闇を「国の大洗濯」として完全にデトックスし、正式な同盟を結んだことで、日本が事実上の「世界最強の安全保障」を手に入れる最高のハッピーエンドとなりました。
ルシードたちのズレた善意による「自衛隊の勝手に無敵化」や「環境の激変」に、天野一尉たちが大パニックになるオチ、楽しんでいただけましたでしょうか。
第2章(第11話〜)では、いよいよ地球を蝕みつつある「現代ダンジョン」への突入編が始まります!
ザーランド王国にとって、地球人が恐れるモンスターやダンジョンは、ただの「エネルギー資源(ゴミ箱)」に過ぎず、ここでも無自覚な超絶無双します。
もしこの第1章の完結が「最高にスカッとした!」「第2章のダンジョン編も早く読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひ感想の書き込みや、作品への評価・ブックマーク登録(星評価など)をぜひぜひ、よろしくお願いいたします! 皆様のご声援が、次の章を執筆する最大の原動力になります。




