生きる力
魔物討伐のため、ロイさんと森にやってきた。
「ワンワン」
何故かポチもいる。
まぁ、私よりは強そうではあるが。
この島で暮らし始めて、すでに三週間が過ぎている。
毎日ポチを散歩させているうちに、ご近所さんからは、ロイさんの孫だと思われている。
おかげで、色々な話を聞く機会もあった。
その内の一つがロイさんの過去の話だ。
なんでも、かつては玄甲流という剣術を極めた、凄腕の剣士だったとか。
だからこそ、今でも集落のため魔物を討伐しているのだ。
ロイさんはよく着ている布の服の上に年季の入った皮のマントを羽織り、腰には立派な剣を携えている。
私は集落の人からもらった布の服に、ロイさんの家にあったマントを羽織り、腰には短剣を差している。
そして、気合を入れるために髪を後ろでひとつに括った。
ポチは……
いつも通りだ。
しばらく歩いたが、全く魔物は見当たらない。
もしかしたら、ロイさんが何か殺気のようなものを放っているのではないかと思うほど、何もいない。
「グルルルゥ」
ん?
ポチが何かに反応している。
エンカウントか?
茂みの奥に、小さな影が見えた。
私の脳内で、フィールド曲が戦闘曲に変わる。
緑の皮膚に黄色い瞳。手には棍棒。
あいつだ!
ゴブリン!
今回は前回とは違う。ポチも入れると三人パーティーだ。
よし、いけ、ロイさん。
あれ?
ロイさんとポチは、ゴブリンを素通りして、さっさと先へ進んでいた。
ゴブリンも一人と一匹からは視線を逸らし、あからさまに雑魚を狙うようにこっちを見ている。
やばい。
まずい。
何でだ?
私はしぶしぶ短剣を抜いた。
ゴブリンが、奇妙な声を上げながら距離を詰めてくる。
私も雑魚だが、ゴブリンも下級の魔物だ。
大体のゲームでそうだった。
「ぐぉおおおお」
叫びと共に、緑の身体が私に飛びかかってきた。
空中で振り上げられた棍棒が、私目掛けて迫る。
私は左足を一歩踏み出し、地面を踏み締めた。
そして、右手の短剣を構えた。
何故だろう。
ゴブリンの動きがまるでスローモーションのように見える。
私は棍棒が振り下ろされる先に、短剣を合わせた。
ガンッ
鉄と木がぶつかり合った鈍い音が響く。
そして、棍棒が宙を舞っていた。
えっ?
私は立ちすくんだ。
ゴブリンは少し先で、尻もちをついていた。
すぐに立ち上がったが、武器を弾かれ、明らかに動揺していた。
お互いに怯み合う奇妙な時間は、すぐに終わった。
ゴブリンが棍棒を拾い、再び間合いを詰めてくる。
今度は横薙ぎに、棍棒が迫ってくる。
やばい。
構えが間に合わない。
茶色い影が視界いっぱいに迫った瞬間、私は目を閉じた。
だけど、私の身には何も起こらなかった。
目を開けると、ゴブリンが倒れていた。
「また、一人なら死んでたぞ」
ロイさんが剣を抜いていた。
……助けられたんだ。
「じゃが、まぁ、一度はよう防いだ」
ロイさんは、ゴブリンに剣を突き立て、とどめを刺した。
紫の血が地面に流れる。
私は目を逸らした。
「自分の身すら、守れんもんは、誰も守れんぞ」
その言葉は、目の前の現実と同じくらい厳しかった。
だけど。
「次は目を背けないから、お願いします」
私はゴブリンの亡骸を目に焼き付けようとした。
手が震えていた。
その瞬間ざらりとした感触が、右手に伝わった。
気づけば、ポチがまるで慰めるように、短剣を握る私の手を舐めていた。
◇
その後も何度も魔物と遭遇した。
そのたびに、魔物の武器や牙、爪を弾こうとした。
うまくいくこともあれば、失敗することもあった。
幸いにも、大きな怪我を負うことはなかった。
襲ってきた魔物は全て、ロイさんがあっさりと討伐した。
空がオレンジ色に染まる頃、私たちは森を出た。
遠くに集落が見えてきた。
「トワ、食いたいもんはあるか?」
「早くお風呂、入りたい」
ロイさんは呆れたように私を見ていた。
私は、頼りになるその背中と、大きな犬の後を追った。




