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新世界のアリア ―交錯―

蒼い光が暗闇を照らしている。

後ろを振り返ると、シロの姿はほとんど見えなくなっていた。

渡り商人から借りた走竜だけど、引き取るならいくらぐらいするのだろう。

そんなことを考えてしまうくらい、愛着が湧いていた。


そういえば、犬を飼いたいと言って、お父さんに反対されたことがあった。


『先に死んじゃったとき、辛いぞ』


時の彼方に消えたはずの言葉が、まるでこの狭い空間に反響しているように感じた。


私が消えてから、私を知る人たちはどう思ったのだろう。

いつまで、私のことを覚えてくれていたのだろう。

もう、何度も考えたことだ。

やめよう。


「そろそろ、ここを抜けるぞ」


オニキの声が響いた直後、前方に外の光が見えてきた。

やはり、陽動が効いているのだろうか。

本当にここには警備がいなかった。


空を見上げる。

まだ三十分も経っていないというのに、どこか懐かしく感じた。

陽が傾き始めているからだろうか。


ゴーン。

ゴーン。

鐘の音が、すぐ近くから響いている。

冷たい風が吹き抜ける。

かなり高い場所。

見渡すと、さっきまでいた場所が遥か下に見えた。

そして、森の三箇所から炎が上がっている。

あそこでも、みんなが戦っている。


洞窟の出口は、アリアの中心部を見下ろす位置にあった。


この場所も含め、一帯を高い木の柵が囲んでいる。

その柵の所々に見張り台。

崩れかけたコンクリートを利用して建てられた建物。

空には無数のワイバーン。

ナラで見た祭堂に似た大きな建物からは、鐘の音が響いている。

私の想像していた砦というよりは、小さな町のようだった。


「ここはもう、アリアの中だ。トワ、気をつけて」


ミカが呟くように言った。


今も三方向の門が開かれ、沢山の騎馬が駆け出している。

どうやら、作戦は予定通りに進んでいるらしい。


「目的地はあそこだな!」


オニキが、あの祭堂を指差す。


そう。

私たちはまず、竜騎士長アーサーを抑える。

いや、討つことが最善だ。

陽動を終えた後続隊が、それぞれの入り口から侵入する前に、敵のトップを無力化する。


たぶん、私たちは暗殺部隊なのだろう。

物陰に隠れつつ、鐘の下を目指す。


騎士たちが巡回していたが、オニキがあっさり片付けている。

アリア内の警備は、驚くほど手薄だった。


おそらく、理由はわかる。

灰。

ライラさんたちの組織。

つい最近、蒼炎騎士たちは灰を討伐するため、大規模な作戦を実行したらしい。

かなりの戦力を投入し、消耗も激しかったのだろう。

この砦には、もうそれほどの人数が残っていないのかもしれない。

私のアーカイブでは、想定外の出来事でピンチになるのがお約束なのだが、どうやら物事は順調に進んでいるらしい。


既に鐘の音は真上から響いている。

祭堂は目の前だ。


「おら」


え?


オニキがドアを蹴り破った。

そんな正面から入るの?


私は仕方なく、二人の背を追った。


中には、いくつもの長椅子が並んでいる。

その正面には、祀られるように蒼炎の燭台が置かれていた。

蒼炎の燭台の前に、四人の騎士がいた。

あの鎧は、竜騎士。


「貴様ら何者だ?灰か?」


一人の騎士が声を上げる。


「竜騎士長、アーサー・ドレイク。貴方のお命を頂戴する」


ミカの声が、鐘の音に重なって響いた。


「ったく、うっせぇな。最近は異端者どもが元気で困るぜ」


どこからか、気怠そうな声が聞こえた。


声のする方を探した。

椅子だ。

四人の騎士とは別に、誰かが長椅子に寝そべっている。


寒い。

さっきまでも寒かった。

でも、何かが違う。

なんだ?


ミカ?


目の前に立つ彼の周囲だけ、息もできないほど冷たい。


「ドレイク卿、かなり強力な異能持ちのようです。お気をつけを」


一人の騎士が淡々と告げる。


「ったく、うっせーな。お節介なんだよ」


次の瞬間、ミカが剣を抜いた。

細い刀身が銀色に輝く。

そして、何かのゲームで見たような光景が広がった。

振り抜かれた剣から、氷の斬撃が放たれる。

凄まじい冷気が祭堂を包んだ。

四人の竜騎士が、四方へ跳んだ。


だが、一人がかわしきれなかった。

氷の閃きが脚を掠める。

そこから凍結が一気に全身へ広がり、乾いた音とともに砕け散った。


蒼炎をかすめた剣閃は、そのまま壁に大きな斬痕を刻み、その周囲を白く凍りつかせていた。


コホッ。

一瞬、ミカが苦しそうな顔をした気がした。

だけど、私は目の前に広がるゲームのような現実に圧倒されていた。


「ったく、もっとちゃんと注意しろよ。危なかったじゃねーか」


怒り混じりの声が響く。

蒼炎の前には、下半身だけ鎧をまとった、細身で背の高い男が槍を手に立っていた。


「ありゃまぁー、ほら、しっかり注意しねーから、氷像になっちまったじゃねーかよ」


男は、砕け散った竜騎士を見て、呆れたように肩をすくめた。


「なんだ、お前ら? あれか? 灰ってやつらか?」


男は興味なさそうに言う。

金髪に蒼い瞳。

だけど、ミカとはまるで似ていない。

どこか野暮ったい、中年の男だった。


「ドレイク卿、おそらくあの男、手配書にあった『氷界のミカ』です。ミタのハンターどもの一人かと」


竜騎士が男に近づき、耳打ちする。


「はーん、どっちの女が、その氷界だ?」


「あの、金髪かと」


「はーん、で、何しにきたんだ?」


「それは、おそらくこの拠点を――」


「そうか、そうか、わかった。

とりあえず、殺せばいいんだな?」


「そうなのですが、もう一つ気になることが、

あの女、伝令にあった女の特徴と似ているのですが」


「あーん?なんだそれ」


「あの、穢れし炎かと」


「あー、おっけそっちも、殺せばいいんだな?」


「いえ、そちらは、捕獲命令が」


「ったく、めんどくせー」


次の瞬間。

槍を構えたドレイクが、既に私の目の前にいた。

見えたのは、迫りくる槍の穂先だけ。


カーン!


何かに弾かれた。


息ができない。

何が起きたのか、まだ理解できなかった。


「アーサー・ドレイク。貴方の相手は僕だ」


綺麗な金の髪が、私の目の前で揺れている。

ミカ......


少し離れたところからも、剣戟が聞こえてくる。

オニキは既に、三人の竜騎士と戦っていた。

一人の剣を受け止めた瞬間、別の騎士が横から斬りかかる。

オニキは身をひねってかわしたが、さらに一歩、後ろへ追いやられた。

私の目にも、劣勢だった。

オニキ......


「うーん、俺の見立てじゃ五分もたねーぜ! 流石に無理だろ、三対一は」


ドレイクは私とミカから目を離し、興味深そうにそちらを眺めている。


「では、僕が貴方を三分で斬り、仲間を助けます」


ミカの声は淡々としていたが、いつもより強かった。


「そら、すげーや。だけど、お前じゃ十年あっても俺をやれねーよ」


ドレイクの槍がミカを襲う。

激しい剣戟が祭堂に響いた。


脚が震えていた。

仲間のために命を懸ける二人を、私はただ見つめることしかできなかった。

ここから、トワは勇気を出して一歩を踏み出します。


アリア編、そしてこの時代の物語も、いよいよ終盤に差しかかります。


不死の少女だからこそ避けられない結末を、描いていきたいと思います。


続きが気になると思っていただけたら、ぜひブックマークで応援していただけると嬉しいです!

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