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二つの道

今日も紙芝居を披露し終えた。

私が好きだったアニメを題材に、これまでたくさんの作品を作ってきた。

何せ1000年前の作品たちだ。もはや著作権なんて残っていないはず。

それに、私はこういった作品を生み出した方々を、心から崇拝している。

だから、どうか許してください。

……いや、ほんとに。


「ほら、リザードマンのカードだぜ」

「ええ、いいなぁー!」


目の前で、子供たちがはしゃいでいた。

紙芝居の後にカードを配るのも、いつものお決まりだ。

私の作った、しょうもない紙切れ。

もちろん手書きで、個体差しかない。

それでも、この集落の子供たちにとっては、数少ない娯楽の一つらしい。

しかも、みんな大切にしてくれている。


カードは、私がこの世界で目にした生き物や人物をモデルに作っている。


先週だったか。

部屋であのワイバーンを描いていたら、珍しくルビさんに怒られた。

一応、子供たちへの警鐘の意味も込めて、私なりに悪いやつらは黒いカード、味方は白いカードにしていた。

もちろん、ワイバーンも黒いカードにしていた。

だけど、あの生き物は……ダメなのだろう。


私だって知っていた。

カイが何度も警戒していた。

ナラの村の上空を舞っていた。

それに、襲われたことだってある。

なんなら、運ばれたことまである。


あの生き物は、炎を見張る「蒼の使い」と呼ばれている。

あの目が、人々を苦しめている。

そんな存在は、描くことすら許されないのだろう。

私は能天気だからなのか、理解していても、分かっていない。

でも、素直にルビさんの言うことを聞いて、カードを破いた。


「トワは、子供たちの人気者だね」


美少女(男)、ミカのエンジェルスマイルが眩しい。

彼女(彼)は、たまに紙芝居を見に来てくれる。

そして、カードまで集めてくれている。

今も、旧界で見たアンデッドのカードを嬉しそうに眺めている。


「いつか、僕の絵を描いてよ」


さらっとこんなことを言ってのけても、嫌味すらない。

いや、眩しすぎて描けない。

芸能人を目の前にしたら、こんな感じなのだろうか。


「うん。でも、ミカは尊いから、もっと上達してからね。約束」


私の言葉に、ミカは神々しい笑顔で頷いた。


「ミカ姉、剣、教えて!」


子供たちが集まってくる。

男なのに「姉」なのは気になるが、この人は相当強いらしい。

なんでも、集落で一番の剣士だとか。

それに、「古の異能者」らしい。

それが何なのかは、知らない。


それから、彼は子供たちと一緒に木剣を振っていた。

一歩踏み込み、木剣を薙ぐ。

長い金髪が、遅れてふわりと揺れた。

真夏の日差しの下、その剣筋は、まるで氷の刃が舞っているように涼やかだった。


◇


あれから数ヶ月が過ぎた。

すっかり寒くなり、集落には雪が積もっていた。

相変わらず、私はルビさんの家に居候している。

頭たちは、あれから何度かあの旧界へ探索に出ていた。

けれど、私は一度も呼ばれなかった。

当然だろう。荷物が増えるだけだ。

やはり、結果は思わしくないようだった。


私は相変わらず、創作活動を中心とした生活を送っていた。

それと、住民たちの治療。

怪我人は多い。

集落の周囲にいる魔物を駆除するため、戦う人たちがいるからだ。

この治癒だけは、役に立っているはずだ。


この世界では、紙やペンは高かった。

とっくに私の貯金は底をついていた。

でも、渡り商人が来るたびに、ルビさんが「治癒の給料だから」と言って買ってくれた。

食費だって払っていないのに。


明日は、渡り商人がやって来る日だ。

ルビさんが、一緒に行こうと誘ってくれた。


◇


翌日。


「相手方が、今日こそ決断を聞かせてほしいって。だから、今日は一緒に行けない。ごめんね、トワ」


ルビさんが何を言っているのか、私には分からなかった。


「……ううん。やっぱり、トワ。あなたにも一緒に来てほしい」


ルビさんの声は、かすかに震えていた。

彼女は、まっすぐ私を見つめた。


私は迷わず深く頷いた。


◇


やって来たのは頭のテントだった。

そういえば、ここに来るのはあの日以来だ。

あのときは夏で、耐えられないほど暑かったのを覚えている。

今は辺り一面、雪に覆われていた。


ルビさんの後を追って、中へ入る。

外よりはましだけど、やっぱり寒い。

何枚も重ねた毛皮のおかげで、どうにか過ごせている。

こんな季節に、火を自由に使えない。

奥には、頭とジェド、オニキ。そして、見覚えのある顔があった。

いや、誰だっけ?

……ああ、確か渡り商人の長だったような。


「ルビ、なぜそいつを連れてきた」


イケメンがいきなり攻撃してきた。

私は彼が苦手だった。


「聞いてるぞ。子供たちと日々遊び呆けて、まったく何の役にも立っていないそうじゃないか」


なぜか、ずっと彼のターンだ。


「トワはみんなを治癒してくれてるし、それに、私たちの希望よ」


ルビさんがガードしてくれる。

……辛い。


「違うな。お前は、そのガキにアイツを重ねてるだけだ」


何を言っているのか分からないが、まだイケメンのターンらしい。


「おいおい、ジェド。言い過ぎだ」


いつも嫌な奴のオニキまで参戦した。

状況は分からない。

更に辛い。


「で、ダイさん。答えを聞かせてください」


私へのイケメンの攻撃が止むと、渡り商人の長が口を開いた。


なぜか、頭が私の目を見た。

そして、黙り込んだ。


「頭、もう何ヶ月も皆で話し合って決めたことです。我々はここを諦める。それで決まったはずだ」


普段は淡々としているジェドが、声を荒らげた。

少しずつだけど、話が分かってきた。

ここを発つか、残るかの話なのだろう。

発つなら、私も連れて行ってもらえるのだろうか?

また独りになってしまうのだろうか。

気づけば、私はルビさんの目を見ていた。

なぜだろう。

彼女の目は、そんな私よりも辛そうに見えた。


「そうですか。残念です。あなたたちの――」


「待って。蒼炎に抗うべきよ。私は、戦うべきだと思う」


商人の長の言葉を、ルビさんが遮った。


ジェドが何かを言おうとしたが、頭がそれを制した。


「おい、トワ。ルビはお前を信じてる」

「だが、俺にはわからねえ。お前がミノアの伝承にある不死鳥ならと、期待はしていた。だが、今まで見せたのは治癒の異能ぐらいだ」


何を言っているのか分からない。

確かに、ミノアの人たちも私を不死鳥の巫女と呼んでいた。


「私は何も知らないの。ただの女子高生で、運動だってできないし……」


私はルビさんの方を見た。


「でも、ルビさんやみんなのために、何かできるなら……私だって、何かしたいよ」


ルビさんが、じっと私を見ている。

ジェドが口を開く。


「かつて、蒼き災い燃えしとき。

銀の瞳を持つ紅き不死鳥、

その永劫の炎をもって、蒼を祓いし。

その永遠の炎をもって、我らを救いし。

千年の後に目覚めし、かの器。

我ら、これを助けんと契りし」


「これがミノアに伝わる伝承だ。だが、お前の瞳は黒い、それに千年も人が生きれるわけがない」


その伝承は、これまでに聞きかじった話と、そう変わらなかった。

だけど、二つの言葉が妙に引っかかった。

銀の瞳。

そして、永劫の炎。

……どこかで、聞いたことがある。

いや、違う。

私は、それを知っている。


「私は、千年前に生まれた。それは真実」


蓋の下で、何かが震えているように感じた。

ルビさんが、何かを確信したように私を見ていた。


「でも、それ以外は知らない」


それも真実だった。

確信なんて、何もなかった。


頭はしばらく黙っていた。

そして、うつむくジェドへ目を向けた。


「俺が決断する。長。お前らの提案に乗ってやる」


そして、頭は言い放った。


「俺たちは、アリアの蒼炎騎士の拠点へ進攻する」


その言葉に、ジェドはうつむいたままだ。

オニキは、珍しく表情を引き締めている。

ルビさんは……なぜだろう。

申し訳なさそうに、私を見ていた。


私に、何ができるのだろう。

蓋の上に築かれた、私の大切な日常。

守りたかった。

あの銀の瞳。

『貴方は、これから一人だけ時間に置いていかれます』

いつか彼女に告げられた言葉が、また近づいてくるようで怖かった。

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