千年の探し物
日が傾きかけている。
視界には、かつて車だったと思われる鉄の塊が、アスファルトの残骸の上に無造作に転がっていた。
私たちは、その間を進む。
ここは……?
どこか懐かしさを感じる。
かつて複合商業施設だったのだろう。
大きなコンクリートの箱が、いくつも並んでいる。
さっきまでの世界は、モンスターと戦う冒険ファンタジーのようだった。
でも、この場所はまるで終末世界でゾンビと戦うFPSホラーみたいだ。
ここが、旧界。
私を除く五人は、急ぎ足で進んでいく。
その足音と、自分の心臓の音が妙に耳に響く。
静かすぎる。
大丈夫なのか?
こういうシーンは、呼吸を整えて、冷静にエイムを合わせながら進むべきじゃないのか?
「おいおい、さっきまで寝てたくせに、やけに元気ねぇじゃねぇか?」
オニキがまた嫌味を言ってくる。
「ねぇ、ここって誰もいないけど……」
「旧界は命素が少ないからな。生き物は住めねぇんだよ。お前、なんも知らねぇな」
そう言って、オニキは笑う。
命素?なんだろう。聞いたことがない言葉だ。
「堕星の日に時間が止まった場所。それが旧界だ。無論、例えだがな」
無口イケメンが解説してくれる。
なるほど、堕星の日ということは、私が生きた世界の百年後ぐらいだったはず。
時が止まる。
例えだと言うけど、本当に時間の流れが遅いのではないかと思うほど、かつての世界の形が残っている。
「ねぇ、堕星の日って、隕石が落ちたんだよね?」
「ああ、そう言われている」
オニキに聞いたつもりだったけど、ジェドが答えた。
「えっ? でも、隕石一つで世界が滅んでしまったんですか?」
この人は怖いから、敬語を使おう。
「いや、人を滅ぼしたのは人だ」
「え?」
前方では、頭とルビさんが建物へ入れそうな場所で、崩れたコンクリートを退かしている。
「俺も当然、当時のことはわからない。
技術を失い、資源を奪い合い、異能をぶつけ合った。そう伝わっている」
彼の声は静かで聞き取りやすく、その言葉が耳に残る。
わからない。
たしかに、日々、事件や戦争もあっただろう。
でも、それらは私には遠い世界の出来事だった。
あれほど豊かで平和だった世界が、そんなにあっさりと滅んでしまうのか?
「よし、入るぞ」
不意に、瓦礫を退けていた頭の声が響いた。
頭を先頭に、みんなが建物の中へと入っていく。
私もその後を追う。
◇
所々天井が崩れ、辺りは砂っぽい。
アニメからのイメージだけど、こういった廃墟は大体、木々に侵食されているのがお決まりだ。
でも、ここには植物すらない。
命素とやらが少ない影響なのだろうか。
おっ!
エアコンや冷蔵庫の形を残した鉄屑が散らばっている。
たぶん、ここは家電量販店だったんだ。
私が眠った時代には、すでにネットでの買い物が主流になっていた。
その百年後にも、こういうお店は残っていたんだ。
「おい、トワ。知ってるか? あれはな、車って言ってな。かつて人を運んでいたんだぜ?」
オニキが、おそらくかつて洗濯機だった鉄屑を指差して、誇らしげに言う。
「へー、そうなんだ。オニキさんってなんでも知ってて凄いね」
「まぁな、俺は博識だからな」
こういうのは、ツッコまない方がいい。
ガタン、ガタン。
……ん?
美少女(男)が洗濯機の残骸の上に乗っている。
「凄いですね。これが人を運んだなんて」
彼女(彼)は、その綺麗なお顔で不思議そうに首を傾げている。
天然属性を持っているのだろうか?
それとも、マジなのだろうか?
……これは、萌える。
頭とイケメンは、拾い集めた鉄屑を大きな布袋に詰めている。
当然、金属は重要な資源なのだろう。
「よし、地下に潜るぞ」
頭のその声に、皆の表情が変わった。
けれど、私は別のことが気になっていた。
皆は、エスカレーターや階段があった場所を探している。
ゾンビも魔物もいないので、私もウロウロと探した。
なんとなく、わかる。
百年後も変わっていなかったなら、こういう建物は入り口の近くにエスカレーターがあるはず。
ほら!あった!
私はそのエスカレーターの跡を観察する。
二階や三階も、一応残っていそうだけど、道は断たれている。
ゲーム売り場やカード売り場は残っているのだろうか?
百年後だと、ゲームはほとんどクラウドになっていたのだろうか?
カードショップのストレージを漁って、お宝を見つけるときのワクワク感が蘇る。
だけど、私では上には登れなさそう。
私は、私の世界に入り込んでいた。
千年が過ぎたのかもしれない。
それでも、そのほとんどを眠っていた。
私は独り、何かを探していた。
エスカレーターの残骸と瓦礫が奇跡的に組み合わさっていて、下にはなんとか降りられそうだった。
女子高生の身体能力を限界まで使って。
段から段へと、よじ降りていく。
◇
私は独り、地下をウロウロしていた。
みんなはまだ、降りられる場所を探している。
先に呼ぶべきだってわかっている。
それでも、夢中だった。
それに、慣れていた。
あの世界で、こうやって独り、欲しい物を探して彷徨うことには。
そういえば、最後はメルルのために、ファミレスに向かっていた。
そう、千年前。
ここはゲームコーナーだ。そして、あっちはカード売り場だ。
私の時代には、地下にこういう売り場があることは珍しかった。
百年後だからなのだろうか?
私はカードコーナーへ走った。
ショーケースの残骸。
何もない。
他の棚も、隅々まで見て回る。
カードは風化してしまったのだろう。
それでも、探し続けた。
結局、何も見つけられなかった。
他の店を回っても意味がない。
プレミア価格に腹を立てたり、悩んだりすることすらできない。
そもそも、私は何を探していたのだろう?
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
この瞬間。
千年という時間だけが現実として残った。
皆を呼ばないと……
エスカレーターへ戻ろう……
そう思った瞬間だった。
「可愛いお嬢さん。可哀想に、探し物が見つからなかったのですね」
無機質なのに、どこか懐かしい声が響く。
その懐かしさがどこから来ているのか、すぐに分かった。
私が生きていた時代の言葉。
声のした方へ振り返る。
そこには、黒い法衣を纏った人影が立っていた。
顔は布で覆われている。
その布には、大きな目が一つ描かれていた。
何かの残骸の上に立つその人影。
描かれた目が、まるで全てを見透かしているかのように、こちらを見ていた。




