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経理部が異世界転生したら無双した件  作者: shiki


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数字が語る商人の実態

翌朝から、琉架はゴルバの帳簿整理に本格的に取り掛かった。


作業場として使われている一階の一角に机を借り、キーンに過去の取引記録を全て持ってくるよう頼んだ。

「全部……ですか?」

キーンが目を丸くした。


「何年分ありますか」

「えーっと……三年分くらい?でも正直どこに何があるか把握してないっすよ。物置の棚に突っ込んであるもんで」

「それでも構いません。とにかく全部です」

「りょーかいっす!」

元気よくキーンは返事をした。


……大丈夫か、本当に。


だが結果として、キーンの几帳面さは琉架の予想を上回った。書類一枚一枚に、日付と取引相手の名前がきっちりと走り書きされていた。記録はしていた。ただ整理されていなかっただけだ。これは使える。


「キーン、これ日付順に並べることはできますか」

「それならお任せを。単純作業だけは得意なんで!」


一時間ほど後、書類は年ごとに束ねられて机の上に並んでいた。


琉架は一枚一枚を確認しながら、大きな羊皮紙に書き起こしていった。

売上。仕入。人件費。修繕費。港湾利用料。通行税。雑費。


「……思ったより複雑だな」


集計が進むにつれ、ゴルバの商売の全体像が見えてきた。毎月の収入は平均で金貨四百五十枚前後。そこから仕入れ費が百八十枚、人件費が五十枚、港湾使用料と通行税が合わせて六十枚ほど。計算上、手元に残るのは毎月百枚から百二十枚のはずだ。


年間にすれば千二百枚以上になる。


だが実際の手持ちは六百枚しかない。


差額が六百枚。


どこに消えた。


「キーン、金貨の残高と収支が合わないんですが、何か心当たりはありますか。とても大きな金額なので覚えているはずなんですが......」

「あー……」

キーンが声を少し小さくした。

「港の有力者への、まあ……色々と便宜を図ってもらうための支払いがありますね。金額はゴルバさんが直接決めてるやつで、俺も詳しくは知らないんですけど」

「なるほど、その金額を知っているのはゴルバさんだけですか」

「……まあ、そういうことになりますね」


数字を確認した。毎月二十枚から五十枚。金額が毎回違う。年間に換算すると四百枚以上がこの「特別支出」として消えていた。


実態として存在する以上、管理しなければ資金計画に差し支える。


琉架はゴルバを呼んだ。


「ゴルバさん、港の有力者への支払いについて確認させてください」


ゴルバは少し表情を固めた。


「…そこまで洗い出したか」


「年間四百枚以上出ています。この支出がなければ、現在の手持ちは六百枚ではなく一千枚を超えていた計算になります」


ゴルバはしばらく黙ってから答えた。

「港の荷揚げ優先権を得るための費用だ。払わなければ荷を後回しにされる。特に南方からの香辛料は日が経つと品質が落ちる。払わざるを得ない」


「その優先権を、正式な契約として結ぶことはできませんか」


「……契約?」


「毎月金額が変わっているということは、今は完全に相手のペースで払わされている状態です。書面で条件を固定すれば、少なくとも請求金額に上限ができます。相手もむやみには吊り上げにくくなる」


「相手は港を仕切っている連中だぞ。そう簡単にはいかん」


「いきなり正式化は難しいとしても」琉架は続けた。「まず記録を残すだけでいい。いつ、いくら払ったかを書き留めておく。それだけでも交渉の下地になります」


ゴルバが低く唸った。


「……なるほどな」


「次に、船についてです」


「ああ、そっちが本題だな」


「毎月の利益を百枚と仮定します。特別支出を交渉で圧縮できれば、月の余剰は百五十枚近くまで伸びる可能性があります。それでも中古船の七百枚を積み立てるには、最低でも五ヶ月はかかります。その間、南方航路の収益は半減したままです」


「わかってる。だから頭を抱えてるんだ」


「一つ、別の方法があります」


「言ってみろ」


琉架は羊皮紙に図を描いた。円をひとつ書き、そこにいくつかの矢印を加えた。


「複数の商人が資金を出し合い、共同で船を所有する仕組みです。たとえばゴルバさんが四百枚、別の商人が三百枚出せば、今すぐ中古船が一隻買えます。運航費用も、荷の利益も、出資額に応じて分け合う。一人が全リスクを抱えなくて済む」


ゴルバが腕を組んだ。


「……船の共同所有か。聞いたことはないな」


「この街にはないようですね。ただ理屈は単純です」


「面白い考えだが」ゴルバが一息ついた。「損した時にもめないか」

「だからこそ、書面で条件を決めておくことが重要です。出資割合、利益配分、損失負担の方法を事前に合意しておけば、後のもめごとは防げます」


ゴルバがしばらく黙った。


「……わかった。だが相手が問題だ。どこの商人に声をかける」


琉架は少し考えた。

ロンドの夫婦。まだ借金の返済途中だから資金はないが、収支が改善すれば話は変わってくるかもしれない。それと、市場を見ていた限り、それなりに資金力がある人は他にもいるはずだ。


「まず市場の商人たちの財務状況を把握してからです。帳簿のない状態では、誰に資金があって誰にないかもわからない。逆に言えば、帳簿を広めることでそれが見えてくる」


「帳簿を広めることで、出資できる相手を探す、か」


「そうです」


ゴルバはニヤリと口の端を上げた。

「……面白い。やってみろ」


また仕事が増えた。

しかも今度は、港町全体の話になりそうだ。


でも妙なことに、手が止まらなかった。


羊皮紙の上に数字が並んでいく。その向こう側に、この街が変わっていく気配がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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次話もお楽しみに!

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