帳簿で店主を守れ②
「法外とはどういうことだ」
ゴルバの声のトーンが一段下がった。
「計算します」
琉架は羊皮紙に数字を並べ始めた。
「借入額は金貨300枚。月利1割、つまり毎月30枚が利息分ですよね。ロンドさんはこれまで何ヶ月支払ってきましたか」
ロンドが指を折りながら答えた。
「……8ヶ月だ」
「8ヶ月で合計240枚支払っています。では元本への返済はどう計算されていましたか」
ゴルバが黙った。
「ちゃんと答えていただかないと計算できないんですが」
「……全額、利息に充当している」
なるほど。8ヶ月で240枚。すべて利息のみ。元本は一切減っていない。
「8ヶ月で240枚。これは明らかに違法な利息です。闇金もいいところだ」
「金を貸した側で利息は決めることができる」
「では契約書を見せてください」
ゴルバの動きが止まった。
「……契約書?」
「貸し付けた際の書面です。利率や返済条件が記載されているはずですが」
「口約束だ。この街ではそれが普通だ」
「口約束であれば、返済条件は貸し手の一方的な主張では決められません。双方が合意した条件のみが有効です。ロンドさん、月利1割という説明を事前に受けていましたか?」
「いや、借りた後に利息の話をされた」
「ということは、利息ついては何も合意していない。つまりこちらで正当な計算をすることができます。さらにこのことが噂になるとあなたの信用問題になりますよ。事前に重要な内容を共有せずに貸付をした悪徳業者だと」
琉架は羊皮紙をゴルバに向けた。
「8ヶ月分の支払い240枚のうち、単利計算の正当な利息は合計240枚です。ただし元本300枚に対して8割近くを支払っており、このまま利息のみに充当し続けることは不当です。元本への返済分として組み込むべきです
ゴルバはしばらく羊皮紙を眺めた。
数字がきれいに並んでいる。読めているのかどうかはわからない。だが、言っていることの筋は通っている、と理解しているようだった。
「……わかった。今月の利息は半額の金貨15枚でいい。元本も半分は返済済みとして扱う。元々ロンドさんからは今月までの利息にするつもりだったからな」
.........え。利息を永久に搾取し続ける魂胆ではなかったのか。
ロンドの奥さんが「本当かい……」と小声で呟いた。
「ありがとうございます」
琉架が頭を下げると、ゴルバはふんと鼻を鳴らした。
「礼はいらん。……琉架とか言ったな」
「はい」
「今夜、俺の店に来い」
「……は?」
「話がある」
それだけ言うと、ゴルバはさっさと歩き去った。
なんなんだ。
「琉架さん」
奥さんが声をかけてきた。涙目だ。
「ありがとう。本当にありがとうございます」
「いえ、当然のことをしただけです」
ロンドがぐしゃぐしゃの顔で言った。
「お前……すごいな。俺の嫁より頼もしいぞ」
「あんた。また余計なことを言う」
相変わらず仲がいいんだか悪いんだか。
琉架はほっと息をついた。
だがゴルバの目が気になった。怒りでも恐れでもない。値踏みするような目だった。
あれは俺を使おうとしている目だ。
経理部で何度も見てきた。仕事を押し付ける直前の上司の目と、まったく同じだった。
……また激務の予感がする。
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