最後の作戦会議
重い扉が開いた。
衛兵に両腕を挟まれたまま、ゴルバが地下牢に連れてこられた。
案内されたのは、琉架の房の隣だった。格子が閉まる。鍵がかかる。衛兵が去った。
琉架はゴルバを見た。
「……ゴルバさん。とうとう捕まってしまったんですね」
「思ったより元気そうだな。すっかり牢の住人になっているように見えるぞ、琉架。奴らが来たのは火災未遂事件の翌朝だった。もう少し姑息な手を連発してくると思ったが」
ゴルバは牢の中を一度見回してから、格子に背をあずけて腕を組んだ。慌てる様子も、焦る様子もない。
「おいおい、随分と賑やかになったじゃないか」
反対側の房から、のんびりとした声がした。ライガーだった。藁の上に寝転んだまま、天井を見ている。
ゴルバがその声に顔を向けた。しばらく黙った。
「……まだ、牢にいたのか」
「見ての通り。何年ぶりだ」
「十二年だ」
「そうか。俺はそんなに牢にいたのか。
「なぜ脱獄しない。お前ならそんな牢、壊せるだろう」
ゴルバはライガーの肉体を見た。十二年経っているが、いぜんと変わらず筋肉隆々な戦士の姿に変化はなかった。
「戦士になれない俺に何ができる。今の王に仕える気は無いからな。外に出ても飯に困る。だからこうして仕えるべき王が来るまで牢屋でただ飯にありついていたんだ。それに、一度暴れたらやけに衛兵どもが従順になってな。頼めば酒も持ってきてくれるぞ」
ライガーが起き上がった。
「お前が商人をやってるって話は聞いていたぞ。本当か」
「本当だ」
「似合わんな」
「うるさい」
ゴルバが鼻を鳴らした。ライガーがにやりとした。
牢の空気が少しだけ違うものになった。
「マルセさんへは届けてきましたか」
衛兵の足音が遠ざかってから、琉架は小声で言った。
「届けてきた。あとはトッドたちが引き続き作業をしてくれる。俺が持っていたものは没収されたが、帳簿に関しては問題ない」
琉架は少し息を吐いた。ここまでは想定通りだ。
「あとは時間の問題ですね」
「ああ。時間がどれだけあるかだな」
ライガーが二人を見ていた。
ゴルバが通りかかった衛兵を呼んだ。
「手紙を一本出したい。書くものを貸してくれ」
衛兵が少し考えてから、紙と炭を差し入れた。ゴルバは格子越しに受け取り、短い文を書いた。
書き終えると、きっちりと折り畳んで衛兵に差し出した。
「これを頼む。牢を出たら礼をする」
「出れるとお思いですか。ゴルバ殿。あの王にはあなたを牢から出す気、ありませんよ」
「だったら俺が出れるよう祈っておけ。でなければ貴様は礼を受け取れんからな」
衛兵は少し口角を上げ、手紙を受け取り、懐に入れた。
その時、衛兵の腰に下げた革袋が小さく動いた。袋の口から丸い頭がのぞく。大きな耳、つぶらな黒目、背中に小さな翼。ゴルバの手紙を受け取った衛兵が袋から取り出し、紙片を足に括りつけた。魔物はぱたぱたと翼を動かし、廊下の奥へ飛んでいった。
「……あれで届けるんですか」
琉架が言った。
「伝達魔物だ。訓練されているから目的地に迷わず届く。ただ道中で他の魔物に食われる可能性もある。届け先によっては届く可能性が低いこともある」衛兵が答えた。「速度は速いぞ。戦闘能力は皆無だがな」
そのまま歩いていった。
「誰に出している」
ライガーが向こうから聞いた。
「ただの近況報告だ」ゴルバが壁に背をもたれながら言った。「届いているかどうかも分からん」
「ふん。見かけによらずまめなやつだ」
ライガーは藁の上に戻り、目を閉じた。
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翌日。
衛兵がゴルバを連れ出した。
謁見の間は以前と変わらなかった。玉座のエドガーがゴルバを見下ろしている。ソレルとドルクがその両脇に立っていた。
「面を上げよ」
「ゴルバ。そなたは虚偽の帳簿を作成し、民に流布することで王政への不信を煽ろうとした。国家の転覆を企てる行為に他ならない」
「帳簿は虚偽ではありません」
「黙れ。王の言葉の途中だ」
廷臣が一人、前に出た。
「国家反逆罪。および呪術書流布の主犯格として、死罪に相当すると判断する」
謁見の間が静まり返った。
「執行は一週間後とする。貴様の過去の功績を踏まえ貴様の配下のものは不問とする」
王が続けた。冷たく、事務的に、それだけを言った。
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一週間。そのことを知った琉架は言葉を失った。
捕まることは想定していた。王宮に引き込まれることも。だが死罪の宣告、しかも七日後というのは、想定外だった。
(時間がない)
数字が頭の中で並んだ。七日。何ができて、何ができないか。
「……驚いたか」
ゴルバが言った。
「少し。ただ」琉架は顔を上げた。「まだ終わっていないですよね」
「ああ」
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夜。
懐のピコが震えた。両手で包む。房が橙に光り、すぐに青白く変わった。
『琉架さん、俺です。トッドです。聞こえますか』
「聞こえる、トッド」
『ベルーナ様もここにいます。ティスとキーンも。今から話せますか』
琉架はゴルバを見た。ゴルバがうなずいた。
「話せます。ゴルバさんも今ここにいます」
『……捕まったと聞きました』ベルーナの声がした。
「死罪の宣告でした。七日後と」
通話の向こうが一瞬静かになった。
『七日か』ティスが言った。
「最後の作戦会議を始めましょう。チャンスは一度きり。失敗すればゴルバさんは死刑、俺は一生牢の中。この国は王によって搾取され続けます」
琉架が言った。七日しかない。ぐずぐずしている時間はなかった。
ピコの光が、石壁の上でじんわりと揺れていた。
22話。いよいよ大詰めです。次回もお楽しみに。お気に入り登録して頂けますと励みになります!




