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通信魔物 ピコ

無期限。


 その言葉が、頭の中でまだ響いていた。


 地下牢に戻されて一晩が経った。藁の上に横になっていたが、眠れたのかどうかもわからない。隣のライガーは静かに寝息を立てている。こういう状況に慣れているのか、それとも腹が据わっているのか。


 (さすがにやりすぎたな……)


 石の天井を見上げながら、琉架は思った。 松明の音だけが聞こえている。


--------------------

 翌朝。


 廊下に、聞き覚えのある足音が聞こえてきた。軽く、ゆっくりとした歩き方。


「琉架くん、おるかね」


 ベルーナだった。


 深緑の上着に、小脇に何かを抱えている。衛兵が一人ついているが、牢の扉は開けずに少し離れた場所で立っていた。ベルーナはそのまま格子に近づき、腰を折って琉架と目線を合わせた。


「ご無事で何よりじゃ」


「……死罪かと思って少し焦りました」


 老人は格子越しに琉架を見た。穏やかな顔の奥に、何かを抑えたような色があった。


「一つ聞いていいかね」


「はい」


「なぜあそこまで王を怒らせた。もう少し言葉を選べなかったのか」


「……嘘がつけなかったんです」


「嘘でなくていい。黙っていればよかった」


「帳簿に向き合う時と同じなんです。」


 ベルーナはしばらく琉架を見ていた。それからふっと笑った。


「難儀な性分じゃな、全く」


 呆れているようで、どこか嬉しそうだった。


「まあよい。それがあんたという人間じゃろう。それで、これを持ってきた」


 小脇に抱えていたものを、格子の隙間からそっと差し入れた。


 琉架の手の中に、丸くて柔らかいものが収まった。


 ……動いた。


「っ……!」


 見ると、手のひらにすっぽり収まるほどの小さな生き物がいた。全身がクリーム色の柔らかい毛で覆われていて、頭の上には小さな房のような突起が二本ついている。丸い黒目が、ぱちりと琉架を見上げた。


「……なんだこれ、かわいい」


「ピコというんじゃ。通信魔物、という種類でな。わしのところにも同じ個体がおる。こいつらに話しかけると特殊な電波で相手に声を届け合うことができる」


「すごい……」


「ここだと王宮の外ギリギリぐらいの距離じゃな。声が途切れることもある。じゃが繋がれれば話はできる」


 ピコは琉架の指をちょんと嗅いで、前足で顔を拭い始めた。


「どうやって使うんですか?」


「ピコの頬を両手でそっと包むと発信の準備に入る。試してごらん」


 そっと両手でピコを包んでみた。すると頬が、風船のようにぽわりと膨らんだ。頭の房が橙色に光る。


「聞こえますか」


 しばらくして、ピコの体がぶるっと震えた。房が青白く光り、老人の声が流れ出した。


『聞こえておるよ、琉架くん』


「すごい……」


 ピコは声が出ている間、体をわずかに揺らしていた。まるで歌っているようだった。通信が終わると房の光が消えて、ピコはまた前足で顔を拭い始めた。


「腹も減るし、なでると喜ぶ。普通の小動物と同じじゃよ。期限が悪いと声が届かないこともあるそうじゃ」


 琉架はピコの背中を指でそっと撫でた。ピコが目を細めて、小さな声を出した。


「ありがとうございます、ベルーナさん」


「三十年、この国に支えてきた。先王の時代の国をもう一度見てみたい。わしも歳をとった。最後に君にかけたいと思った。それだけじゃよ」


「この状況の俺に何かできるでしょうか」


「それはわしにもわからん」


 老人はゆっくりと立ち上がり、衛兵に向かって「では帰ろうかの」と声をかけた。足音が遠ざかっていった。


 ピコが琉架の膝の上でくるりと丸まり、目を閉じた。


--------------------------

 同じ頃、王宮の正門前には三人の人影があった。


「本当に謁見を求めるんですか」トッドが小声で言った。


「黙ってろ。行くぞ」


「俺たちまで捕まったらいよいよ商売が回らないですって」


「商売より人命が先だろ。琉架を見殺しにはできん。そんなに怖かったらお前はついてこなくていい」


「怖いとは言ってないっすよ。琉架さん殺されてないっすよね」

トッドがいつにもなく険しい顔をしている。


「それを確かめに行くんだ」


 ゴルバが大股で門衛に向かった。ティスが無言でついていく。


 謁見の申請は通った。三人は謁見の間へ通された。


15話です。まだまだ琉架が助かる道は見えませんね。次回は作戦会議です。お楽しみに。

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