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第6話 何で私が怒られるん?

 職員たちの机が並ぶ広い空間を抜けた先、境界審査部の奥に重厚な扉があった。


 その扉を開き、真紘が入るよう促す。


 奥には大きめの執務机と革張りの椅子、手前には、応接用のテーブルとソファがあった。


 扉の近くには、職員と同じサイズの執務机と椅子が置いてあった。


「楽にしていいよ」


 私は迷いながらも、応接用のソファに腰を下ろした。


「僕はだいたいいつもこの統括官室にいるよ。

 明日からはここに来てね」


 真紘はソファの後ろ、壁際の小さな台に置かれたポットを手に取った。


 カップにお茶を注ぎ、私の前に置いた。


「……いつからここで働いてるの?」


「魂環管理局ができた時から」


「創設メンバー?」


「というより、同時に生まれた」


「……え?」


 理解が追いつかなくて首を傾げる。


「この組織に境界を管理する神格が必要になって、それで僕が生まれたんだ」


「……職場と同い年なの?」


「そうなるね」


「生まれた瞬間から社畜やん!」


「神だからね」


「……それは、元人間の私は逃げられないね」


「理解が早くて助かるよ」


「……明日から?」


「明日から」


「今日は?」


「制服を合わせたら、お母さんの所に連れて行ってあげるよ」


 お茶を少し飲んでから、統括官室を出た。


 制服を受け取るため、真紘に連れられて審査部を抜け、総務部へ向かった。


「!!」


「境界審査部統括官!!」


 足を踏み入れると、慌てたように、総務の職員が駆け寄って来た。


「彼女に制服を用意してくれるかな?」


「は、はい」


「こちらへどうぞ」


 総務部は、境界審査部と違って女性職員の姿も多かった。


「莉奈、1人で統括官室に戻って来られるかな?」


「え?! 何で待っててくれないの!?」


 総務部の職員たちが何故か一斉にこちらを見た。


 皆目を見開いている。


「?」


 この世のものとは思えないものを見た、という表情だった。


 私やっぱり幽霊なのかな?


 少しうなだれる。


 来たばかりの私と、元人間だとしてもここで働いて来た人たち、そして神様たち。


 私には見た目の違いはわからないけど、向こうからしたら違うのかも知れない。


 アウェーがすぎる……


「莉奈? どうした?」


 総務部の女性職員と移動しようとしていた私に真紘が近づいてくる。


「別に……」


「?」


 真紘は不思議そうに首を傾げた。


「方向音痴?」


「そうだよ!! 悪いか!」


「……待ってた方がいいなら待ってるけど」


「別にいいよ!」


「どっちだよ」


「……あの、もういいですか?」


 メガネをかけた女性職員が少し呆れたように声をかけた。


「ああ、悪いね。

 莉奈、少し出てくる。

 後で戻ってくるよ」


「わかった」

 

 メガネの女性とともに制服保管庫に入る。


 この人は神様なのかな、元人間なのかな。


 メガネは現世から持って来たのかな?


 聞いてみたいけど、失礼だからやめておこう。


「制服の色違うんですねー」


「はい、局ごとに色が違います」


「へー」


「こちらが、魂環管理局の制服になります」


 渡されたのは、白いシャツにグレーのスカート、同系色の長いベストだった。


「境界審査部バッジは境界審査部統括官に貰って下さい」


「ありがとうございます」


 隣接する更衣室で制服を試着し、サイズを合わせてもらった。


 更衣室を出たところで、背後から声がした。


「あの、境界審査部統括官とはどのようなご関係なんですか?」


 振り向くと、三人の女性が立っていた。


 制服を合わせてくれていたメガネの女性も、彼女たちに不思議そうな顔を向けた。


「ローブを羽織っておいでだったので」


「ああ、私、今日死んじゃったみたいなんですけど、パジャマのままだったんです。

 それで、羽織ってました」


「あ、それは……心よりお悔やみ申し上げます」


 それ、私に言う言葉なのかな?


「ご丁寧にどうも」


「ですが、何故、統括官自らが?」


「?」


 言われてる意味がわからず首を傾げる。


 隣のメガネの女性が口を開く。

 私にだけ聞こえるように小さく話してくれた。


「おそらく、境界審査部統括官が総務部にいらっしゃるのは珍しいので、気になったのかと。


 そもそも、統括官自ら新人を連れて来ることなんて、ありませんから」


「あ、なるほど。

 今朝、家に真紘が来たんです。

 それで、そのまま一緒にここへ」


 少し考えた。

 

「だからかな?

 右も左もわからないし」


「え!?」


「統括官自らが、サイコポンプ業務を!?」


「サイコ? サイコ野郎、的な?」


「お名前で呼ばれているんですか?」


「名前が長いんで真紘にしました。

 何かダメですか?」


 私は眉を寄せた。


「……名前もですが、その……」


「?」


「統括官に対する言葉遣いです」


「え?」


「監察室から、服務規律や礼節について注意を受ける可能性があります。場合によっては始末書ですけど……」


「え!? そんな事になるの!?」


「なりますね」


 隣のメガネちゃんも淡々と言った。


 あれ? もしかしてこれ?

 皆が私のことを変な目で見ていたのは。

お読みいただきありがとうございます。

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