第5話 お前、何したん?
手にした白装束を真紘に突き出した。
「お前が着ろ」
「着られないよ。サイズ的に」
「そこ?」
真紘は白装束と私を順に見た。
「……僕のでよければ羽織る?」
「うーん」
「嫌ならいいよ」
「貸して!」
真紘は濃紺のローブを脱いだ。
その下から現れたのは、白いシャツに濃紺のスラックスという、拍子抜けするほど普通の格好だった。
「……現代人やん」
「そうだよ」
「神様って、もっとこう……古代の変な服着てるんじゃないの?」
「今時、古代の装束で働いてるのなんて、神社関係の神とか、ごく一部だよ」
「神様にも今時とかあるんや」
「あるよ。仕事するのに不便だろ」
受け取ろうとした私の肩へ、そのまま真紘がローブを掛けた。
肩から羽織っただけなのに、裾が床に落ちた。
「……引きずるけど、いいの?」
「いいよ」
裾を少し持ち上げながら、再び真紘の後を歩き出した。
先へ進むほど人の数は増えていく。
すれ違う職員の何人かが、こちらを振り返った。
「……なんか視線感じるけど」
「得体が知れないんだろうね」
「そっち!? 大きすぎる、とかじゃなくて?」
「ああ、それもあるね」
真紘は少し考えてから付け加えた。
「ちなみにそれ、管理職のローブだよ」
「結局制服じゃん!」
「僕は管理職だからね」
「もういいや。着くまでこうしてる」
ローブを頭からすっぽりと被り、
首元を手繰り寄せ、視界を遮らない程度に顔を隠す。
ぶかぶかの濃紺の布の塊になった私を、真紘が見下ろした。
「……死神みたいだね」
「だから言ったやん!」
真紘は少し楽しそうに笑った。
「素直に制服にすれば良かったのに」
「今日から働かせないなら着たよ!」
「さすがに今日から働かせないよ」
「それを早く言え!」
渡り廊下の先、別の建物に入っていく。
「ここが魂環管理局だよ」
「大きいね。この建物、全部?」
「人間は必ず死を迎えるからね。
各階に違う部署が入ってる。境界審査部はこっちだよ」
階段を上った先にある扉に手をかけた。
扉の向こうには、いくつもの机が並んでいた。
どの机にも資料が積まれ、書類に目を通す者や、束を抱えて行き交う者など、大勢の職員が忙しそうに働いていた。
しかし、真紘の姿を認めた途端、皆が一斉に立ち上がり、頭を下げた。
「皆楽にしていいよ。この境界審査部で働く事になった奥山莉奈さんだ」
真紘に促され前に出る。
「奥山莉奈です。
よろしくお願い……したく、ない」
途中まで頭を下げて止まった。
下げたら入社が確定してしまう気がしたから。
「皆仲良くしてあげてね。
莉奈、行こうか」
真紘は特に気にした様子もなく、奥にある扉に視線を向ける。
「待って!」
咄嗟に真紘の袖を掴み、引っ張った。
その場の職員たちが息を呑む。
「やっぱり嫌だ!
帰りたい!」
「帰れないよ。言っただろ」
「よく考えたら、お前、私が死んだ途端に攫ってきて、働かせるってどないやねん!?
成仏もさせずに、永遠に働かせるつもりやったんか!?」
私は恐ろしい事実に気付いてしまったのかも知れない。
「……まさか、計画的犯行!?」
「貴様! 統括官になんて口を――」
「貴様!?
初めて言われた!
私のこと!?」
振り返ると、職員たちが私を睨んでいた。
「仲良くしろと言ったはずだ」
その声には、先ほどまでの穏やかさがなかった。
辺りの空気が一瞬で冷えたように感じた。
真紘は鋭い視線を職員に向けていた。
「しかし!」
「やめろ。彼女から見ればそう見える」
「……」
職員たちは目線を落とすが納得していない様子だった。
あまりの空気の悪さに、私も押し黙るしかなかった。
真紘は小さく息を吐いた。
「かつて、僕が裁判にかけられたことは知っているな?」
その言葉に、職員たちが一斉に顔を上げた。
真紘は私を見た。
「?」
首を傾げる私から、再び職員たちへ視線を戻した。
「まさか……」
職員たちが目を見開いた。
「僕は構わない。わかったな?」
「ハッ」
「莉奈行くよ」
真紘は私に視線を移した。
「はい……」
何故か私まで敬語になった。
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