↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/25

第21話 上司から食事に誘われた

 今日は一日、ひたすら書類と向き合っていた気がする。


 最後の書類を揃え、机の端に置いた。


 ようやく仕事を終え、帰り支度を始めた。


「莉奈、この後時間あるかな?」


 顔を上げると、真紘がこちらを見ている。


「あるけど、何で?」


 何の用だろう、と首を傾げる。


「夜ご飯は食べる?」


「食べるけど」


「食事に行こう」


「私、あまりお店知らない。食堂は閉まってるよね?」 


「連れて行くよ」


 真紘は基本、昼休憩は取らない。 


 この神様は食事自体を取らないのかもしれないと思っていた。


「……もしかして食べるの!?」


「食事に行くんだよ?」


 普段とは反対側の入口から合同庁舎を出た。


 初めて来る場所だった。


 社宅のある、いつもの入口側とは違い、辺りは静まり返っていた。


 少し行くと、まるで閑静な住宅地のような通りに入った。


 進むにつれ、ますます人の気配がなくなっていく。


 夜に向けて徐々に暗くなっていく空。


 通りにも建物にも、灯りはほとんどなかった。


 街路樹が黒い影となって浮かび上がり、その向こうの空がやけに明るく見えた。


「……どこに行くの?」


「食事だよ」


 立派な門の前で、真紘が足を止めた。


 門をくぐると、手入れの行き届いた日本庭園が広がっている。


「……ここ、何?」


「食事するところだよ?」


 建物の軒下で店員さんが出迎え、丁寧に頭を下げた。


 店員さんに案内され、そのまま奥へと進む。


(……高そう)


 庭園を眺めながら、回廊を歩いていく。

 柱を何本も通り過ぎた先に、独立した建物があった。


 よく見ると、庭には同じような建物が点在している。


 そのうちの一棟の前で、店員さんが足を止めた。


 扉を開け、さらに奥の襖を開く。


 真紘が手を差し出し、私に先に入るよう促した。


 中に足を踏み入れると、そこは畳敷きの和室だった。


 二面に大きな窓があり、どちらからも日本庭園が見える。


(これ、個室なんだ)


 お見合いや結納が出来そうな場所だなと思いながら、辺りを見回した。


 窓の向こうには、水車が見えた。


 基本はコース料理を頼むスタイルらしく、よくわからないので真紘に任せた。


 飲み物と先付けが運ばれてきた頃、真紘が口を開いた。


「莉奈、前に結婚したいって言ってたよね」


「うん。紹介でもしてくれるの?」


「この世界でもいいなら」


「え、マジで!?」


 思わず身を乗り出した。


「どんな人がいい?」


「生きてる人」


 私はとびきりの笑顔で答えた。


「……それは難しいかな」


「死後の婚活、ハードル高すぎん?」


「この世界なら、って言っただろ?」


「子供も欲しいんだけど、私は幽霊だし無理なんでしょ?」


「いや、相手が高位の神格なら可能だよ」


「……選択肢、狭ない?」


「まぁ、そうだね」


 真紘は何事もないようにウドの酢味噌和えを口に運んだ。


 私は箸でつかもうとするたびに逃げる、ぬるぬるした謎の食材を見つめた。


(……何やこの食べ物)


「神様の婚活市場ってどうなっとんねん」


「好みがわかれば方法は考える」


「そう言われても……。

 『こんな神様と結婚したい!』とか思ったことないし」


「じゃあ、参考に古事記読んでみて。それで教えて」


「神様の婚活カタログは古事記なんかい!?」


 真紘は再び食事を続けた。


 その後も次々と料理が運ばれ、気付けばコースも終盤に差しかかっていた。


(普通に食うやん、コイツ)


「追加しようか」


「結構食うな!」


◇


――三年前。


「対象者、条件を満たしたようです。送迎に回しますか?」


 職員が書類を差し出した。


「……いや」


「死亡はまだ確定していませんが」


「わかってる」


「では、もう少し様子を見ますか?」


 真紘は少し間を置いた。

 

「この子は僕が行くよ」


「……統括官が、ですか?」


 職員は意外そうに真紘を見た。


「珍しいですね」


「ちょっと見てみたくてね」


 真紘は書類に視線を落とした。



 奥山莉奈 24歳

 死亡予兆:転落

 死亡見込み:極めて高い

 介添え:要

 死後の移送先:安住領域

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。