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第20話 天国の過ごし方

 今日は休みだった。

 私は天国に来ていた。


 管理領域とは違い、晴れ渡った青空が広がっている。


 突き刺すような日差しもなく、ただ心地よい陽気が続いていた。


 ママはバレーボールの練習中だ。

 私はその様子を眺めていた。


 生前ならこの時間は退屈な時間であっただろう。


 でも今は、たとえ天国だとしても、ママが笑顔で元気に動いている姿を見るだけで幸せだった。


「……とはいえ、流石に暇だな」


 私は少し歩いてみる事にした。


 花畑を抜け、芝生の上を進む。


 そういえば、天国の入口の近くには、閻魔の尋問を終えた人たちが集まる場所があるんだとか。


 遠くに見える人だかりに向かって歩いて行った。


「皆さんー、一列にお並び下さいー」


「押さないで下さいー」


 各ルートへの案内をする天使たち。


「おい! 段取り悪いぞ!」


「いつまで待たせるんだ!」


 行き先への案内を待つ人たちが、天使たちと押し問答していた。


「……揉めとる!!」


 天国へ行く人も、それ以外の場所へ向かう人たちも、ここに集められている。


 遠くから見ても、辺りは雑然としていた。


「……まるで総合窓口やな」


 気付けば、私は足を止めていた。


「今日は休みやしな。

 近寄るのはやめておこう……」


 少し戻ってみると、こちらにも大勢の人がいた。


「それでは天国に滞在される皆さま。

 これより合同説明会を開催いたします」


「就活か!!」


「まずは皆さま、この度は天国へのご内定おめでとうございます」


「就職した!」


「皆様に天国で快適にお過ごしいただくため、まずは注意事項からご説明いたします」


「……何やこの天国、疲れるな」


 私は再びバレーボールコートへ戻った。

 ママは既にコートから出ていた。


「莉奈、お待たせ」


「終わったの?」


「ええ。もうすぐ大会があるからみんな気合いが入っててねー」


「……大会。

 そんなにバレーボール人口多いの?

 この天国で」


「バレーボールだけじゃないわよ。

 サッカー、野球、ヨガもあるわ。

 あと、語学教室とかね」


「……生まれ変わったら、忘れるのに?」


「ホホホ、そうね。

 でも生前時間がなくてできなかった人や、今更やっても、と敬遠してた人たちがね、今度こそ好きな事してみようって」


「なるほどねー」  


 その時後ろから声がした。


「全く、こんな所に連れて来られても、一体何をすればいいのか……」


 振り返ると、先日、送魂部の鈴木さんと一緒に送魂したおじいちゃんがいた。


「おじいちゃん!?」


「……君は確か、私の家に来た死神か」


「……死神、って言われるの嫌だな」


「フン、間違ってないだろう」


「おじいちゃん天国来たんだね」


「フン、私は真面目、実直、規律を重んじる人間だ!

 地獄になど落ちる訳がないだろう!」


 おじいちゃんの迫力に、私は思わず後ずさった。


「莉奈、こちらどなた?」


「仕事でちょっと……」


 私の話を聞いたママが、一歩前に出た。


「まぁまぁ、うちの莉奈がお世話になったそうで。母の奥山と申します」


「お世話したの私らやねん」


「いや、こちらこそお世話になりっぱなしでした」


 おじいちゃんは頭を下げた。


「せやで」


(ってかおじさんとおばさんってコミュ力お化けやな)


 何故か話が弾んでいる。


「……という訳で、突然天国に来ても何をすればいいやら……。

 生前はとにかく仕事しかしてなかったもので」


「おじいちゃん社畜の先輩やった」


「よろしければ、ご案内しましょうか?

 趣味に明け暮れるのも良いものですよ」


 どうやら二人の会話は、まだ終わらないらしい。


「趣味か……」


「莉奈、あなたも一緒に行きましょう」


「えー……」


「あ、いたいた」


「あれ? 鈴木さん」


 振り返ると、送魂部の鈴木さんがこちらに向かって歩いて来ていた。


「げっ、奥山さん!」


(げっ、って言ったか?)


「えーと……お一人ですか?」  


 鈴木さんは辺りをキョロキョロと見回した。


「いえ、母とこの間のおじいちゃんと」


「あ、そうなんすね」


 鈴木さんは何故かホッとしていた。


「莉奈? こちらは?」


「あー、えっと、別部署の人で……」


「あら、そうなのね。こんにちは莉奈の母で――」


 まずい。私の貴重な休みが挨拶で終わってしまう。


「鈴木さんはどうしてこちらへ?」


「俺、担当した対象者の行き先が決まったら、一応挨拶するようにしてるんです」


「へーそうなんですね」


 送ってさようなら、ではないんだ。


 このおじいちゃんのように、口では何て言っていても、どうしたらいいかわからない人もいる。


 そんな時、たとえサイコポンプであっても、こうして声をかけてもらえるだけで安心する人もいるだろう。


 私は鈴木さんを尊敬した。


「君は名刺も持たなかった奴だな」


「お久しぶりです。

 元気でした?」


「何だ、その挨拶は!?」


「え!?」


「それは会釈のつもりか!?」


「は?!」


「この場合は、敬礼だ!

 敬礼とは!?」


「え? え?」


「30度だろう!! よし!

 みっちり教えてやる!!」


 おじいちゃんが鈴木さんに詰め寄った。


「いや、あの……」


「ママ、行こう!」 


 私はママに向き直った。


「あら、いいの?」


「うん。巻き込まれる前に行こう!」


「あら、そう? それでは私たちはこちらで――」


「ママ!」


 まだ挨拶をしようとするママの腕を引いた。


 私は一度ママの腕を離し、胸の前で右の拳を左の手のひらに当てた。


「鈴木さん、ご武運を」


 キリッとした目を鈴木さんに向けた。


「え、待って! 行かないで、奥山さん!」


 私とママは鈴木さんに後を任せ、その場を離れた。


 後日、おじいちゃんが天国でビジネスマナー教室を始めたと風の噂で聞いた。


 その厳しさから、鬼教官と恐れられているそうだ。


 そして、第1期卒業生は鈴木さんらしい。


お読みいただきありがとうございます。

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