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第19話 風まかせ

 僕は事なかれ主義だ。


 いや、昔は自分の人生を自ら切り開いてきた。


 会社を立ち上げたこともある。


 うまくいってた時もあった。


 長くは続かなかったが。


 それなりに長かった彼女と結婚しようとしたこともある。


 ただ、30を超えてた自分と20代半ばの彼女との温度差があり、結婚をしつこく迫ったら逃げられた。


 人には二通りいると思う。


 世の中を動かすタイプと、流されるタイプ。


 僕は前者だと思っていたが、勘違いだったのかもしれない。


 だから、流されることにした。


 流されて流されて、死しても、なお流される。


 飽きることはない。


 風と共に景色も変わるから。


「何やねんお前!」


 声がした。


「こっち来い!」


 彼女は地面に足をつけたまま、宙に浮く僕の手を掴んだ。


 僕の身体は風に流され、横向きになっていた。


「そこ掴まれ!」


「僕は流されてるのが楽なんです」


「いいから電柱に掴まれ!

 重いねん!」


 うるさいから仕方なく掴まった。


「これが浮遊霊か……」


 女性が独り言を漏らした。


 見覚えのある制服だった。これまで訪ねてきた者たちと同じだ。


「あなたは?」


「莉奈です。どーも」


 可愛らしい顔立ちをした女性だった。けれど、その言動はずいぶん騒がしい。


 今までの人とは印象が違う。


「何人も来ましたよ。サイコポンプでしょ?」


「いや、サイコポンプじゃ手に負えん、って

こっちに戻されましたわー。

 ま、私も新人なんですけどね」


「それはそれはご足労おかけしました」


「そう思うなら行きましょうか。

 探すのどれだけ大変だったか!

 ふよふよ流れて行っちゃうし!」


 確かに今日は風が強い。

 どうりで流れる景色が早いと思った。


「このまま流れていたいんです」


「流れた先に何があんねん!」


「わかりません。

 ただ、それを見極めたいのかもしれません」


 僕は遠くを走る電車を眺めながら、静かに答えた。


「おい! カッコよくないぞ!」


「別にカッコつけてません。

 これが、ありのままの僕です」


「何やねん、コイツマジで!」


 女性は頭を掻きむしった。


「あなたは、エネルギーに満ちた方ですね」


「こっちも死んどんねん!」


「……この度は何と申し上げてよいか……」


 僕は神妙な面持ちで俯いた。

 女性はしばらく口を開かなかった。


「……」


「……お前、何も言う気ないんやろ」


「バレましたか。特に何も言葉が浮かばなかったので。その場しのぎでした」


「ああ、そうですか」


「では、もう行っても?」


 僕が電柱に掴まっても、女性は僕の袖を掴んだままだった。


「たまには自分の足で立て! 歩け!」


「無理ですよ。僕浮遊霊なんで」


「三途の川、行ってみたくないん?」


「……まぁ見てみたいですね」


「天国見てみたないん?」


「キラキラしたのはちょっと」


 女性はにやりと笑った。


「閻魔様は?」


「そっちの方が興味ありますね。どんなお顔なんですか?」


「私も見たことないねん。だから見たら教えてくれない?」


「いいですよ」


 女性の顔がぱっと明るくなった。


「あ、じゃあ行こっか」


「……って、言うと思いました?」


「引っ掛からんかった」


 女性は悪巧みが失敗した子供のような顔をした。


「僕、流されやすいだけで馬鹿ではないんですよ。地獄行きだったらどうするんですか」


「そこは流されへんのかい!」

お読みいただきありがとうございます。

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