第2話 死神が再び迎えに来ました
あれから数年。
以前の家から引っ越していた私は、いつものように一人で晩酌をし、そのまま眠りについた。
別れた彼氏を思い出して泣いていた私は、あの頃の自分には想像もつかないほど、何だか強くなり、どんどんやさぐれていった。
ただ、何かにつけて毒づいても、不幸を感じることも、世の無常を嘆くこともなかった。
これはこれで楽しかった。
何故か、彼氏が出来ないだけで。
「……?」
肩を軽く叩かれた気がした。
ゆっくり目を開ける。
「久しぶり」
「!!」
私は目を見開いた。
「君さ、ベッドで寝なくて大丈夫?」
「…………誰?」
「……」
男はしばらく黙った。
「覚えてないの?」
「どちら様ですか?」
「僕だよ」
「知らん」
「前にも迎えに来ただろ」
「…………あ」
数年前の記憶が蘇った。
そこには、かつて私のベッドの足元に立ち、私をお姫様抱っこしてベランダから落とそうとした、あの死神?がいた。
そういえば、あれ以来彼氏ができなかった私にとって、最後に私をお姫様抱っこしてくれた男でもある。
……死神?を男とカウントしていいのかは、わからないけど。
「間違えて来た奴!!」
「その覚え方やめてくれる?」
「……何しに来たの?」
私の据わった目を見て、死神らしき男は続ける。
「前回はごめんね。
今回は間違えてないから」
「お前、三年前に『今じゃなかった』言うて帰ったやろ!」
「うん」
「三年後にまた来るとは思わんやん!!」
「今回は合ってるよ」
死神らしき男は、悪びれる様子もなかった。
「誤差みたいな人生延長やめろ!!
やっぱりあんた死神!?」
「いや? 僕は魂環管理局 境界審査部・統括官」
「急に、現代的な役職になった……」
「現世にはない役職だよ。
生と死の境界の事だからね」
「だろうな! 生と死の境界の部署なんて、厨二がすぎるわ!」
「……君、前はもっと女の子らしかった気がするけど、随分変わったね」
「そうや! はよ帰り!
私は行かんで!」
「いや、それは困るな。
もう決定事項だから」
「あ、死にたくない!
こう思えば死なないって聞いた事ある!」
「あー、それは三途の川や、身内が迎えに来る場合だね」
「三途の川は?」
「君はそっちじゃないよ」
「親族のお迎えは?」
「来ないよ」
「なんで?」
「普通なら、死を迎えた後しばらくして輪廻に入る。でも、君はそういう魂じゃないから」
「……お前は、なんなん?」
「さっき言っただろ。魂環管理局、境界審査部――」
「それは役職や! 高次元の神なん?」
「まあ、人間の分類なら」
「死神とは違うの?」
「それは君が勝手に呼んでるだけだよ」
「じゃあ何なの?」
「神格存在、と言えば満足かな?」
私は改めて男を見た。
「最初からそれ言えや」
「君には僕の下で働いてもらう。
そのために迎えに来たよ」
私は思わず身体を起こした。
「はー!? 死後に仕事をしろと!?」
「そう」
「あの世でのんびり……」
「どうしてそう思うの?
君も神社で参拝したことあるだろ?
人間だけじゃない。神も仕事をしている。
年末年始は大忙しだよ」
「行きたくない!」
「いつか、また転生出来るから。
……僕が許可を出せば」
「出さない! 絶対出さないでしょ!」
「…………出すよ」
「沈黙!!」
「ちなみに、君のお母さん、天国でママさんバレー楽しそうにしてるよ」
「マジか」
「あれからすぐだったみたいだね。
大変だったな」
「………」
私は答えなかった。
あの夜、この男に死を告げられた時。
真っ先に心配したのは母だった。
結局、残されたのは私の方だった。
「こっち来たら会わせてあげるよ」
「それ、死が条件じゃん!!
優しさに見せかけた脅迫だ!」
ふと、疑問が浮かんだ。
「……あれ? 私が死んだら私も神になるの?」
「いや、霊だね」
「……幽霊?」
「まあ、人間だった魂という意味ではね」
「お前は?」
「神格」
「何で上司だけ神やねん」
「採用区分が違うから」
「でも日本って、死んだら神様になるんじゃないの?」
「少なくとも、死んだだけではならないよ」
「死後まで昇格条件あるんか」
「そういうこと」
「身分格差すごない?」
「僕が統括官で、君には審査官になってもらうね」
「腹立つわー」
「何が?」
「勝手に死ぬこと決めて、勝手に就職先まで決めんな」
男はまるで気にしていない様子だった。
「新人教育ちゃんとするから」
「そこちゃうねん」
「新人なんだから必要だろ」
「新人扱いすんな」
「新人だよ」
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