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第13話 鈴木の受難

 領域間連絡門の扉の向こうにある、箱型の空間。


 そこから現世へ向かう。


 対象者を迎えに行くために。


(無言が気まずい。統括官の方を見られない。

 先輩には怒られたし)


「あの、現世に行くのはわかりましたけど、どうやって対象者の元まで行くんですか?」


 奥山さんがこちらを見た。


(頼むから反対側にいる人に聞いてくれよ)


「扉が開いた時には、対象者のいる場所に到着しています。

 帰りは通行許可証を操作すると、現世側に連絡門が現れる仕組みです」


「それは……まさか、どこでも行ける、あのドア?」


「ああ、俺も送魂部に入ったばかりの時そう思いました」


 ハハッと笑ったものの、奥山さんの向こうにいる人物を見て、笑顔が固まった。


(口元笑ってるけど、絶対笑ってないよな)


「ねー真紘」


(呼び捨て!? 統括官を!?)


 奥山さんは統括官に視線を向けた。


「ハワイは行ける?」


(何考えてんだ、この人)


「業務目的ならね。

 担当する対象者に関する場所以外は行けないよ」


「どこでも行けないドアやん」


「プッ」


(しまった)


 奥山さんと統括官が俺を見る。


「すみません。少し面白かったんで」  


「鈴木さんとは現世の話がたくさんできますね。

 当たり前だけど、こっちの人には通じない事も多くて」


 奥山さんは人懐っこい笑顔を俺に向けた。


(奥山さん、奥山さんが誰とでも話せる人なのはわかった。だから、わざわざ俺に話しかけないで)


「……そうですね」


(他に話せる人沢山いるだろ! 

 奥山さんの逆隣にいる人をどうにかしてくれよ!)


 狭い空間で、俺だけが気まずい思いをしているうちに、対象者の元に着いていた。


 連絡門の扉が開き、俺たちは庭に出た。


 庭は日本庭園として整えられ、その奥に瓦屋根の日本家屋が建っていた。


「行きましょう」


(サクサク行ってとっとと終わらせたい)


 玄関に向かい、引き戸を開けた。


「お邪魔します……」


 家に上がり、対象者を探す。


「莉奈、皆で行っては失礼だから、僕たちは離れていよう」


「あ、そうだね」


 統括官と奥山さんは、俺から少し離れて待つことになった。


(良かった。離れてくれて)


 古い日本家屋は平屋建てで、どこの部屋も畳が敷き詰められていた。


 その一室で、布団に横たわる高齢男性は、既に息を引き取っていた。


 枕元には、霊となった対象者が座っていた。


「失礼します……」

 

 一歩足を踏み入れた。


「遅い!!」


「……え?」


「お前さんは迎えに来たんだろう?」


「は、はい。サイコポンプの鈴木と――」


「名刺は?」


「え……?」


「名刺はないのかと聞いているんだ!!」


(えぇー!? ないよ!!)


「仕事中じゃないのかね?」


「仕事中ですけど……」


 男の剣幕に押され、いつの間にか俺は畳の上に正座させられていた。


(最悪だ。今日に限って、二人も付いてきてるんだもんなー。

 部屋の外で聞いてるんだろうな)


 その時、俺の横に統括官が座った。


「失礼でなければご挨拶させていただいてもよろしいでしょうか?」


「君は?」


 対象者は腕を組んだまま、統括官を見据えた。


「生と死の狭間にある管理領域で、境界審査部の統括官を務めております。

 天境津真紘命(あめのさかいつまひろのみこと)と申します」


 統括官は胸元から名刺を出した。


(あんのかよ!)


「これは、ご丁寧にどうも。

 私は――」


 対象者も名刺を差し出した。


 何故か名刺交換が始まった。


「……なんでやねん!」


 部屋の外から奥山さんのツッコミが聞こえた。


 俺も同じ気持ちだった。


お読みいただきありがとうございます。

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