第12話 サイコポンプ鈴木
昨日メガネちゃんに付き合ってもらって、ようやく生活に必要なものが一通り揃った。
これでパジャマと制服だけの生活から解放され、安心して仕事に行ける。
私は新しく買った服に着替え、社宅を出た。
ふと、気付いた。
「私も立派に社畜やん」
今日の空は、少し日差しが見えているように感じた。
合同庁舎に入り、そのまま更衣室へ向かった。
制服に着替え、境界審査部に向かう。
「おはようございます」
「あ、おはようございます」
審査部の職員たちとは特に打ち解けていないけれど、挨拶はしてくれる。
(私は、統括官室一直線だしね。
いつか、仲良くなれたらいいな)
統括官室に入ると、私に気付いた真紘が脱いでいたローブを羽織り始めた。
「莉奈、今日は送魂部に行こう」
「え?」
「サイコポンプに同行させてもらおう」
階段を降りて送魂部にやって来た。
入口に立つと、審査部よりも多くの人が忙しなく動いていた。
「こっち、もう出ます」
「今から3件行って来ます」
皆が書類を片手に一人、また一人と、部署を出ていく。
「……外回りの仕事みたいだね」
「魂環管理局でも、現場の最前線で働く部署だからね。基本的に所内にはいないんだ」
私と真紘は中へ入っていく。
真紘に気付いた職員が近づいて来る。
「審査部統括官、お話は伺っています。
こちらへ」
送魂部の職員に案内され、真紘と私はさらに奥に進む。
他の職員たちは私と真紘に気付くと、一瞬驚いた顔をするが、すぐに各々の仕事に戻る。
「鈴木」
職員に声を掛けられた一人の男性が振り向く。
「はい?」
「審査部から奥山さんが来られた。
予定通り、お前が研修を担当してくれ」
「奥山莉奈です。
よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
「人間ですよね? 良かったー。
私、まだ神様としか関われてなかったんです」
◇
奥山莉奈と名乗った女性は、嬉しそうに俺を見上げる。
忙しくて、正直こんな研修を担当してる場合じゃない。
だが、明るい笑顔のこの子なら、俺が説明しても熱心に聞いてくれそうだから、まぁまだマシか。
ふと彼女の胸元に目がいった。
首元に下がる、深い紺色から外縁のピンクへと色が移ろう石。
(……何だこれ?
管理職が持っている石型の通行許可証か?)
一歩近づいた。
(この子新人なんだよな?
それにこの色……)
気付いたら、手を伸ばしていた。
奥山さんは、一歩後ずさった。
「え?」
不思議に思い、顔を上げる。
次の瞬間、男が俺と奥山さんの間に立っていた。
その顔を見て固まる。
「し、審査部の……」
男は笑っていなかった。
「君は今何をしようとした?」
「!?」
言われた意味がわからず、奥山さんを見た。
奥山さんは、不安そうな表情を浮かべていた。
「え!?」
俺、今何した!?
ただ、通行証を……。
再度、奥山さんの胸元を見る。
統括官は彼女を庇うように腕を伸ばし、胸元を隠した。
「……!!
えっ、違いますよ!? 俺別に何かしようとした訳じゃ!!」
先輩職員はため息を吐き、頭を抱えていた。
「……業務を説明します。
出社すると担当案件が割り当てられているので、書類を持って対象者の元へ向かいます」
自分でもわかるくらい、肩が落ちていた。
(だいたい何なんだよ! なんで統括官まで付いて来るんだよ!)
奥山さんが隣の統括官に尋ねた。
「現世にはどうやって行くの?」
「ああ、領域間連絡門から行けるんだ」
「あ、あの天国行く時のエレベーター!」
奥山さんと隣に立つ審査部統括官のやり取りを眺めて思った。
(……俺いなくてもよくね?
俺だってまだ2年目だよ。統括官のが、詳しいだろ!)
「あ、鈴木さん。私はいつでも出られます。
声を掛けて下さい」
奥山さんが俺に視線を移す。
「じゃあ、もう出ますか。
忙しいんで」
俺を先頭に、奥山さん、その後ろから審査部統括官、先輩職員が並び、領域間連絡門に向かう。
(何なら俺の仕事あげるから二人で行ってきてくれよ)
連絡門の扉が開く。
俺が乗り込み、奥山さんも乗ってくる。
審査部統括官が足を踏み出す。
(やはり、来るのか?)
一日中この統括官に監視されながら仕事するのか?
ここで言わなきゃ、もう後がない。
泣いても笑ってもこれが最後だ。
それなら俺は――
「奥山さんと二人きりで行きたいです!!」
「鈴木ーー!!」
先輩の怒声がフロア中に響き渡った。
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