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第7話 九年後のハマーン・カーン

ソロモン。


戦闘開始から続いていた轟音が、少しずつ遠ざかっていた。


ティアンム艦隊は敗走。


連邦軍MS部隊も次々と後退している。


ソロモンは――落ちなかった。




## 到着


ソロモンの格納庫。


マシュマーはザクIII改の前で待っていた。


その隣にはドズル。


ドズル「まだ来ねえのか」


マシュマー「もう間もなくです!」


ドズル「十分前にも聞いたぞ」


マシュマー「ハマーン様をお待ちする時間もまた喜び!」


ドズル「俺はそうじゃねえ」


その時。


格納庫内に放送が流れる。


管制官「ネオ・ジオン旗艦サダラーンより連絡艇接近。着艦許可を求めています」


ドズル「入れろ!」


マシュマー「ハマーン様!」


ドズル「まだ降りてねえ!」




連絡艇が着艦する。


ハッチが開く。


護衛兵。


士官。


そして。


ハマーン・カーン。


その後ろからキャラ・スーン。


キャラ「ここがソロモン?」


ハマーン「キャラ」


キャラ「はい」


ハマーン「静かに」


キャラ「はい」


ハマーン「本当に分かっているな?」


キャラ「もちろん」


ハマーン「……ならいい」


ドズルはハマーンを見た。


通信画面では見ていた。


だが。


実際に会うと。


やはり若い。


ドズル「お前がハマーン・カーンか」


ハマーン「はい。初めてお目にかかります、ドズル・ザビ閣下」


ドズル「堅苦しいのはいい」


ハマーン「では、そのように」


ドズル「まず聞く」


ハマーン「どうぞ」


ドズル「お前、本当にマハラジャの娘か?」


ハマーン「間違いありません」


ドズル「父親は?」


ハマーン「この時代であれば、アクシズにおります」


ドズル「この時代であれば、か」


ハマーン「はい」


ドズル「そこだ」


ハマーン「……」


ドズル「説明しろ」




## 九年


会議室。


ドズル。


ハマーン。


マシュマー。


キャラ。


そして最低限の側近だけが残された。


ドズル「他の奴には聞かせなくていいのか?」


ハマーン「まだ必要ありません」


ドズル「ギレン兄貴にも?」


ハマーン「特に今は」


ドズル「キシリアにも?」


ハマーン「同様です」


ドズル「親父にも?」


ハマーンが一瞬考える。


ハマーン「デギン公王には、いずれ」


ドズル「……分かった。続けろ」


ハマーン「まず日付を確認させてください」


ドズル「宇宙世紀0079年12月24日だ」


ハマーン「我々にとっては違います」


ドズル「……」


ハマーン「我々が直前までいたのは、宇宙世紀0088年です」


ドズル「…………」


キャラ「…………」


マシュマー「…………」


ドズル「もう一回言え」


ハマーン「宇宙世紀0088年」


ドズル「0088?」


ハマーン「はい」


ドズル「九年後?」


ハマーン「そうです」


ドズルはマシュマーを見る。


マシュマー「はい!」


ドズル「お前も?」


マシュマー「宇宙世紀0088年より参りました!」


ドズルはキャラを見る。


キャラ「私も」


ドズル「……」


ハマーン「信じられませんか?」


ドズル「当たり前だ!」


ハマーン「でしょうね」


ドズル「九年後から軍隊ごと飛んできたって言うのか!」


ハマーン「現在確認できている限りでは」


ドズル「そんな馬鹿な話があるか!」


ハマーン「では、ザクIIIをどう説明します?」


ドズル「……」


ハマーン「ドライセン」


ドズル「……」


ハマーン「ガルスJ」


ドズル「……」


ハマーン「ズサ、バウ、ドーベン・ウルフ、ゲーマルク」


キャラ「ゲーマルク強いよ!」


ハマーン「キャラ」


キャラ「はい」


ハマーン「静かに」


キャラ「はい」


ハマーン「そして、我々の艦艇」


ドズル「……」


ハマーン「現在のジオン公国に、建造できますか?」


ドズルは答えない。


できない。


少なくとも。


自分は知らない。




## ガンダム


ハマーン「もう一つ」


ドズル「何だ」


ハマーン「先ほどマシュマーが戦ったガンダム」


ドズル「おう」


ハマーン「パイロットはアムロ・レイ」


ドズル「知ってたな」


ハマーン「はい」


ドズル「何でだ」


ハマーン「我々の時代では有名だからです」


ドズル「有名?」


ハマーン「非常に」


ドズル「さっき見たら、ただのガキだったぞ」


ハマーン「今はそうでしょう」


ドズル「強いのか?」


ハマーン「強い」


マシュマー「確かに優秀でした」


ドズル「お前がボコボコにしたじゃねえか」


マシュマー「機体性能の差です!」


ハマーン「アムロの反応そのものは、マシュマーの動きをかなり正確に捉えていました」


ドズル「それでも当たらなかったぞ」


ハマーン「ガンダムがついていけなかったのです」


ドズル「……」


ハマーン「九年とは、そういう時間です」




## ゲーマルク


ドズル「じゃあ」


ハマーン「はい」


ドズル「あの化け物も九年後のMSか」


キャラ「化け物?」


ドズル「お前のだよ」


キャラ「ゲーマルク?」


ドズル「そうだ」


キャラ「かっこいいでしょ!」


ドズル「そういう問題じゃねえ!」


キャラ「?」


ドズル「三百十九機だぞ!」


キャラ「うん!」


ドズル「何でそんな嬉しそうなんだ!」


キャラ「ハマーン様に褒めてもらったから」


ドズル「……」


ハマーン「申し訳ありません」


ドズル「いや」


ドズルはキャラを見る。


ドズル「お前、本当に一人で三百十九機やったのか?」


キャラ「うん」


ドズル「百二十機相手に百十二」


キャラ「うん」


ドズル「四百二十一機相手に二百七」


キャラ「ハマーン様が半分で帰れって言ったから」


ドズル「……」


キャラ「全部やってよかったら、もっといけたと思う」


ドズル「もういい」


キャラ「何が?」


ドズル「怖くなってきた」




## ドズルの死


ドズル「それで」


ハマーン「はい」


ドズル「何で俺を助けた」


空気が変わった。


ハマーン「……」


ドズル「未来から来た。それは一応分かった」


ハマーン「はい」


ドズル「だが、それと俺を助けることは別だ」


ハマーン「そうですね」


ドズル「お前はマシュマーに言った」


ドズル「ドズル閣下を死なせるな、と」


ハマーン「言いました」


ドズル「つまり」


ハマーン「……」


ドズル「俺は今日死ぬはずだったんだな?」


マシュマーが黙る。


キャラも黙った。


ハマーンだけがドズルを見る。


ハマーン「はい」


ドズル「やっぱりか」


驚くほど。


静かな声だった。


ドズル「どうやって死ぬ」


ハマーン「ビグ・ザムで出撃」


ハマーン「ガンダムと交戦」


ハマーン「そして戦死します」


ドズル「さっきの続きか」


ハマーン「はい」


ドズル「マシュマーが来なかったら?」


ハマーン「ほぼ、その歴史になっていたでしょう」


ドズル「……そうか」


ドズルは椅子にもたれた。


ドズル「じゃあ本当に命の恩人だな」


マシュマー「ハマーン様のご命令です!」


ドズル「お前が戦ったんだろ」


マシュマー「しかし!」


ドズル「命令した奴も偉い。やった奴も偉い。それでいいだろ」


マシュマー「……!」


ドズル「改めて礼を言う」


マシュマー「はっ!」




## なぜ


ドズル「でも分からん」


ハマーン「何がです?」


ドズル「なぜ助けた」


ハマーン「……」


ドズル「俺とお前は今日初めて会った」


ハマーン「そうですね」


ドズル「九年後のお前が俺に恩でもあるのか?」


ハマーン「ありません」


ドズル「じゃあ何だ」


ハマーンは。


少しだけ。


目を伏せた。


ハマーン「一つ、確認してもよろしいですか」


ドズル「何だ」


ハマーン「ゼナ様と」


ドズルの表情が変わる。


ハマーン「ミネバ様は、すでにソロモンを脱出されましたか?」


ドズル「……」


ハマーン「ドズル閣下?」


ドズル「待て」


ドズルが身を乗り出す。


ドズル「何でお前がミネバの名前を知っている」


ハマーン「……」


ドズル「アムロとは違うぞ」


ハマーン「分かっています」


ドズル「ミネバは赤ん坊だ」


ハマーン「はい」


ドズル「有名な軍人でもない」


ハマーン「はい」


ドズル「何で九年後のお前が知ってる!」


ハマーンは。


ゆっくり。


ドズルを見る。


ハマーン「だからです」


ドズル「何?」


ハマーン「私があなたを助けた理由は」


一呼吸。


ハマーン「ミネバ様です」


ドズル「…………」


マシュマーも。


キャラも。


黙っていた。


ハマーン「本来の歴史では」


ハマーン「あなたは今日、戦死します」


ハマーン「ゼナ様はミネバ様を連れて脱出します」


ハマーン「そして」


ドズル「待て」


ハマーンが止まる。


ドズル「先に一つだけ答えろ」


ハマーン「はい」


ドズルの声が。


低くなる。


ドズル「ミネバは」


一瞬。


父親の顔になる。


ドズル「生きるのか?」


ハマーン「……」


ドズル「九年後まで」


ハマーンは。


迷わず答えた。


ハマーン「はい」


ドズルの肩から。


ほんの少し。


力が抜ける。


ドズル「そうか」


ハマーン「生きています」


ドズル「……そうか」


もう一度。


ドズル「そうか」


しばらく。


誰も喋らなかった。




ドズル「どんな娘になった」


ハマーン「……」


ドズル「十歳くらいか?」


ハマーン「はい」


ドズル「元気か?」


ハマーン「はい」


ドズル「頭は?」


ハマーン「非常に聡明です」


ドズル「そうか!」


ドズルが笑う。


ドズル「俺の娘だからな!」


ハマーン「その自信がどこから来るのか分かりませんが」


ドズル「うるせえ!」


キャラ「ハマーン様、ちょっと嬉しそう」


ハマーン「キャラ」


キャラ「はい」




ドズル「それで?」


ハマーン「何でしょう」


ドズル「九年後のお前とミネバは」


ハマーン「……」


ドズル「どういう関係だ」


再び。


沈黙。


ハマーン「それは」


ドズル「何だ」


ハマーン「少々長い話になります」


ドズル「構わん」


ハマーン「そして」


ドズル「まだあるのか」


ハマーン「閣下にとって」


ドズル「……」


ハマーン「気分の良い話ばかりではありません」


ドズル「俺が死ぬ話を聞いた後だぞ」


ハマーン「……」


ドズル「今さら何を聞いても驚かん」


ハマーンは。


ドズルを見た。


本来。


この男は。


もう死んでいる。


だから。


知らない。


自分の死後。


妻がどうなるか。


娘がどうなるか。


兄が。


姉が。


父が。


ジオンが。


どうなるのか。


ハマーン「分かりました」


ハマーン「では」


ハマーンは。


静かに。


告げた。


ハマーン「ドズル閣下が亡くなった後の」


ハマーン「ザビ家について」


ドズルの顔から。


笑みが消える。


ハマーン「お話しします」


## 第7話 完

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